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状況の人、強襲作戦実行中4

 ――い、一体何が……何が起こった? 爆裂魔法? まさか! 狭い坑道内でそんな魔法を発動させたら!?

 そんなバカなマネをすれば術者もタダでは済まないはず、誰しもそう思うだろう。

 ――いや、魔導師が複数なら!

 防御魔法との組み合わせでそれも可能か!? だとすれば、そんな魔導士に対抗するにはこちらも魔導士と弓隊による遠距離攻撃……などと後方班々長は瞬時に現状の分析、及び対処法に頭を巡らせた。しかしそれも徒労。

 ダダダ!

 耳鳴りの収まらない兵たちの耳にさらに追い打ち。けたたましい破裂音が周辺に響き渡る。

 パパパン!

 破裂音とほぼ同時に、目の前の地面が弾け飛ぶ! その音自体の衝撃波が自分たちに襲い掛かって来て思わず眼を瞑ってしまう。

 が、懸命に気を取り直し出口を直視する。

 ――き、来た!

 班長は出口から現れて来た賊を視認した。だが、その賊はすぐに立ち止まって周りを見回し始めた。

 ――止まった? 

 出口付近で足を止められては、当初の計画だった後方へ回り込んでの退路寸断が出来ない。

 ――もっと、もっと前へ進め!

 班長は願った。しかし賊は一向に歩を進めなかった。


「シノさん?」

 一方の脱出組。洋子は渋い顔を龍海に見せてきた。

「うっわ~。こりゃ予想外だわ」

 同じく龍海も渋い顔。

「タツミ、どうしたのだ?」

「めっちゃ集まってる」

 メルの問いに答える龍海。口元が歪んで今にも舌打ちが洩れそうだ。

「百人や二百人じゃねぇ。下手すりゃ千人くらい居ねぇか?」

「そ、そんなに!?」

 龍海の読みは甘かった。

 侵入した賊、つまり龍海たちの人数等は当然報告されているはずだ。故に、出口に増員の兵を展開させるというのは元より予想はしていた。

 だが、精々は一~二個小隊100~120人程度だと、そう考えていた。王都制圧と、やがて来襲するであろう政府軍への備えも必要であるし、過剰な大部隊は投入できまいと。それなら街道の離れた場所に待機しているロイ達との連携で、速やかな離脱も可能だと踏んでいた。

 だが実際は、文字通りの桁違い。

「総員前へー!」

 痺れを切らした指揮官の号令が響いた。それに呼応して周辺の草むら等に潜んでいた伏兵が一斉に立ち上がる。剣を構え、戦斧を振り上げ、槍を二人に向けて前進を開始するシーエス兵。

 だがそこへ、

 ダダダダダダダダ! ダダダダダダダダ!

「うわ!」

 パパパパーン! パパパパーン!

 洋子の機銃掃射が兵たちの手前を襲った。朝露に濡れた湿った土が湯気と煙を纏って舞い上がる。

 シーエス兵は龍海たちの持つ現代火器は、話くらいは聞いていたかもしれないが、目にするのは初だろう。しかも今、洋子の手の内に抱えられた火器は、この世界では初のお目見えとなるベルト給弾式の軽機関銃であった。

 誰が呼んだか”言う事聞かん銃””無い方がマシンガン”などと言う称号()を持つ62式軽機関銃の後継として採用されたベルギーFN社開発の5,56mm機関銃MINIMIである。

 いきなり足元近くに弾幕を張られ、シーエス兵の足は止まった。

 更に洋子は、

ダダダダダダダダ!

正面背後の樹の幹に威嚇射撃した。

 ババ! バンバン! 

 着弾と共にみるみる幹が削られ弾かれ、木の葉が飛び散るのを見て仰天する兵たち。ついで、

ドバァン! ドバァン!

龍海もバレットM82をお見舞いした。

 バシィン!

「うわぁ!」

 放たれた12,7mm弾は運よく大木の枝の根元に着弾し、枝を幹から弾き飛ばした。落下する枝が兵たちの頭上に襲ってきて彼らの悲鳴を誘いまくり、士気の高かったシーエス兵も初めて見る火器の威力に戸惑い、硬直してしまった。

 ――こ、これが異世界の、勇者の能力(ちから)なのか……?

 初めてみる異世界人の攻撃。彼らにはそれが魔法なのか魔道具なのか、それすらも見当が付かなかった。ただ、下手に勇んで行ってその洗礼を受ければただでは済まない、それくらいは直感出来た。

 状況は膠着し、龍海はM82を収納して今度は64式に装備しなおした。

「たかが二人に千人とか、常識外れもいいとこだな」

「ロイ達と合流できればワンチャン……さっきの扉みたいにシノさんがLAMや擲弾のつるべ撃ちでもやる? あたしの魔法とミニミを組み合わせたらまあ、突破は難しく無いよね?」

 当の龍海と洋子は、こんな状況でも意に介さぬと言うか、脱出できるかどうかではなく、どの方法を選ぼうか? くらいにしか悩んでいない。ぶっちゃけ脱出成功は疑っておらず、あとは犠牲者数が多い方法か少ない方法か、どれにしようかな? てなもんなのだ。

 翻ってメル。

「らむって、扉を壊したさっきの兵器か!?」

 メルはイノミナでいる時、置き引きマティに洋子らが攫われた時に小銃や拳銃の威力は見聞済みだった。しかしLAMは今回が初めてだ。銃の威力も脅威ではあったがLAMは桁が違いすぎる。一発で十人、二十人が死傷してしまう。 

「タ、タツミ! それはやめてくれ! いくら何でもあれは!」

「じゃあ、どうするの? あたしたちに降参しろって? なぶり殺しになる未来(さき)しか見えないんだけど?」

「余が話を付ける! 其方らは無事に解放するように!」

「手ぶらで帰れっての? あのね? この国の分裂が一日続けばそれだけ皇国らに有利に働くのよ? そっちの方がより多くの犠牲者が出るのが分からないはず、無いよね?」

 洋子さん強気っす。


「気を付け―!」

 シーエス兵に号令がかかった。

 しかし、膠着状態とは言え今は戦闘中だ。そこで気を付け! とは……

 龍海も洋子もちょいと戸惑って周りを見るが、街道沿いの兵は号令に倣っているが、龍海らを取り巻く連中はさすがに構えを解いてはいない。

 だが、踏み込んでくる様子も見られない。戸惑っているのは彼らも同様らしい。

 そんな中で龍海は思考がまとまった。何の事は無い、自分も過去経験している状況。部隊長か、それ以上の高級将校、もしくはさらに上の重鎮の来訪。

 カッ カッ カッ カッ 

 蹄の音が聞こえてくる。やはり龍海の予想通りのようだ。その馬が通り過ぎるたびに兵が道を開け、改めて姿勢を正し、顔全体で馬上の要人に注目する。

 馬は街道からこちらに近付いて来た。雑草地に差し掛かり、従者の手を借りながら要人は馬から降りる。

 そして龍海たち、と言うかメルの前に寄って来る。さすがに武器を構えていた兵も不動の姿勢を取りだした。

「陛下、ご無事で何よりにございます」

 要人はメルに向かって右手を胸に低頭し、礼を尽くした。

「シーエス……」

 ――シーエス? こいつが南の領主、魔王シーエスか?

 予想通りの要人、と言うかほぼ天辺だった。

「怖れながら陛下。外出をご希望でありましたら、今後は事前に申し出ていただけますと幸いですな」

 どこかで聞いたセリフである。そう思いながら龍海は洋子をチラ見した。

 彼女は口元を歪ませ目線は斜め左の空を見ていた。

「シーエス聞いてくれ、これはな……」

「その前に……」

 シーエスはメルを遮った。

「こちらをお返しいたしましょう」

 そう言いながら顎をしゃくるシーエス。

「歩け!」

 シーエスの取り巻きが人を一人、両側から抱えて引き摺るように連れてきた。その者は傍目から見てもかなりの傷を負っており、ほぼぐったりして足を前に出そうにも殆ど上がらない状態だ。

「な! 叔母上!」

「へ、陛……下……」

 連れて来られたのはエバであった。メルの前で放され力尽き、エバはその場に崩れた。

「叔母上、しっかり!」

 エバの顔はあちこち腫れ上がり、口や鼻からの出血もあった。衣服は至るところが切り裂かれ、自身の血か返り血か分からないほどに朱に染めている。龍海は急いで寄り添い、ポーチからポーションと救急キットを取り出すと応急処置を始めた。

「申し訳……ありま……せん。不覚……を、とりまし……た。目覚めた、歩哨兵に後……ろ……を……」

「喋らないで! 今はじっとして!」

「エバさん、手当で服捲ります。ご勘弁を!」

 龍海はポーションと消毒布をメルにも渡し、顔周辺の治療を促した。

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