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状況の人、作戦立案中2

「妙な弁明や言い訳は不要! 隣のパラムは外交力は乏しくとも本業たる調査解析はお手の物。召喚儀式が行われたのは揺るぎない事実である、と考えますが?」

 エイルの目が泳ぎ出した。懸命に抑えるもいかんともしがたい状況だ。下手に押えると、今度は肩や手先に現れそうだ。

「そ、そうですか。さすが皇国の調査部、既にご存じであったとは……で、あるならば……」

「うむ?」

「あの儀式が失敗であったと言う事もまた、ご存じかと思われますが……」

「そう、あの儀式は国を傾けるほどの魔力を必要とする反面、失敗する確率も決して低くはなく、大変投機性の高い手段であると聞き及んでおります」

「はい、残念ながら我々の想いもむなしく、召喚された異世界人は只の少女で何の能力も持たず、挙句逃げ出した小物でございました。正直、彼女が真の勇者たらんとする能力持ちであれば、すでに我らは魔導国に攻め入り、我らの敵である魔族を一掃せんとするところでありまして……」

「戯言はお辞めなされ! 事ここに至ってはそのような虚言、説得力の欠片も無い!」

「い、いえ! 私は決して嘘など!」

 うん、確かに嘘は言っていない。少なくともあの時点においては王国政府は魔導国を支配下に置く、その方向で動いていた。だからここは堂々と言えたのだが、当然ルガールらはそうは思わない。

「魔導国ポリシック領における、行商人救出を目的とした魔族山賊団をわずか数人で壊滅! シーエスやオデ市駐屯軍も察知できなかったテロを未然に防ぐ諜報力! そしてなにより……」

 言葉をため込み、更に睨むルガール。エイルの左右にせわしなく動く目を見据えて迫った。

「あの無敵の古龍種が一角、火竜の討伐……」

「……」

「なるほど、何らかの事情があって即戦力とする計画は流れたのだろう。しかしこれらの実績、そして速やかな魔導国との連携。そこから考えられる状況はひとつ!」

「一体、何を……」

「人の心を捨て、魔族と手を握り、共に我らに対して矛を向ける気だ!」

 ルガールは右手親指を水平に、人差し指を力強くエイルに差して言い放った。

「ご、誤解です! 我らはあくまで、この地で二度と戦が起こらぬようにと! 大恩ある隣国に魔族が進出しないようにと防波堤となる覚悟で!」

「しらじらしいぞ、裏切り者め!」

 言葉に詰まるエイル。その、硬直する彼の姿を見てルガールはパラムへ向けて、招くように右手をクイッと曲げた。同時にパラムは鞄から一枚の書類を差し出し、机の上に置いた。

「……こ、これは!」

 受け取ったエイルは書類に目を通した。読むに従って、彼の眼がどんどん見開かれていく。

 内容はこうだ。



 一、王国は魔導王国との共謀を公式に認める事

 一、王国はその統治権の全てをポータリア皇国、アンドロウム帝国からなる西方統治委員会(以降、委員会)に無条件で移行させる事

 一、王国はその全軍を武装解除の後、委員会指揮下に置く事

 一、王国内貴族の領地・資産は領民を含めて全て没収し、領有権を委員会に移譲する事

 一、異世界よりの召喚者を拘束し無力化の後、委員会に引き渡す事

 その他、委員会が必要と判断した要請に絶対服従の事

 

 右記、一カ条でも反する場合は両国に対する宣戦布告とみなし、アンドロウム帝国・ポータリア皇国の二国は防衛戦争の発動を宣言するものとする



「こ、これでは、我が国は属国……いや、奴隷として従えと言われるも同然ではないですか!」

「我らの貴国を想う長年の信頼を裏切った当然の報いであろう?」

「このような不義を働いたのだ。臣民ともども皆殺しにされないだけ慈悲深いくらいだろうが!」

 パラムの調子づいた罵声が飛ぶ。しかしエイルはそれに反応するどころでは無く、事実上の無条件降伏勧告文書から目が離せなかった。

「もちろん、それがお望みであればこちらも全力を以てお相手いたそう」

 パタパタパタ……文書を持つエイルの手が震え、紙の揺れる音が耳に届く。震えるのは手だけでは無く、眼も口元も、足元までそれを押さえるのは困難だった。

「ま、それを王都に持ち帰り、よく検討なされるがよい」

 余裕綽々で言い放ち、ルガールとパラムは腰を上げた。エイルはとてもそれに対応できそうになかった。

 ふふん! と鼻を鳴らし、ルガールとパラムは、

「ではこれにて失礼。あ、見送りは結構。それよりすぐに王都へ向かう準備などなされるがよい」

などと嘯きながら部屋を後にした。



「見たかねパラム、あのエイルめの狼狽ぶり。最初の余裕はどこに行ったのやら。わはははは!」

 帰路に就いたルガールとパラムは、馬車内で本日の会談を反芻していた。

「まあ、事前会談がほぼ本会談同様……はは、こちらの思惑通りにはなりましたな」

「いつもながら圧倒的な力で、小賢しく立ち回ろうとする相手の膝を折るって言うのは爽快よのぉ。病み付きになるわ」

「あまりいい趣味とも申せませんが……いやいや、やはり自分も爽快でしたわ」

「ふふ、この場だけは本音を出しても良かろうぞ。局の中では絶対に出せんがな」

「心しておきましょう。さて、アデリアはどう出ますかな?」

 己の嗜好はいったん棚上げ。二人は本日の釣果に話を移した。

「ふふふ、飲めるわけがない。奴らは玉砕を選ぶであろうな」

「シーエスが内戦、若しくはアデリア南部侵攻を始めれば、もう魔導国と同盟するどころでは無くなり王国内は大混乱だ。とても北方(こちら)に増援を出す余裕などない。それどころか魔導障壁を発動できない分、シーケン領を見放してでも王都防衛のために兵力を割かねばならんだろう」

「と、なると、ポリシックはやはり静観でしょうかね?」

「シーエスの動向次第だが、元より仮想敵国なのだからな。こちらに睨みは効かせても手を出す気は起こらんだろう。例え、アデリアの後に攻められるとわかっていても、わざわざ死に急ぐわけも有るまい」

「懸念事項としては、シーエス勢が他の魔王からの同調者が無く、鎮圧されてしまう事でしょうが、そうなるとアデリアと同盟を結ぶことになるかも?」

「それ故、アンドロウムとも通じて事を急がせたのだ。それに同盟など結ぼうものなら我らの疑念を認めたことになる、なにも遠慮せず侵攻あるのみだ。シーエスが暴れている隙に、魔導国自体が手を出せんように一気に南へ侵攻してくれるわ。この会談で魔導障壁の展開が出来ないと確定した事でもあるし、王都(アウロア)など包囲だけしておけば攻略は後回しでもよい」

「我が国建国以来の悲願、不凍港の獲得。これだけは実現せねばなりませんな。アンドロウムは不満でしょうがねぇ」

「そのために東の穀倉地帯はまとめて奴らに割譲するのだ。これ以上の譲歩は必要あるまい?」

「略奪、凌辱も好き放題にさせれば兵の士気も上がるでしょうなぁ。軍の鋭気も十分養われます」

「となると後の気になるところと言えば……」

「勇者……ですな」

「うむ、山賊団とかはともかく、火竜を撃退したのが事実であれば侮ることは出来ん。しかしどれほど超人的と言えどたかが一人だ。極端な話、如何な火竜並みの能力があったにせよ、1万2万の兵が勇者一点に次から次へと攻撃すればやがては倒れる」

「数万となると……天秤が合いますかねぇ?」

「あくまで極論だ。万単位の兵力が集中すれば火竜とて討伐は可能だ」

「しかし過去、それをやった国家はありませんが……」

「それは古龍の特性によるものだ。例え一頭でも国家が古龍に攻撃すれば、世界に散らばる古龍たちが瞬く間に集結し、敵を蹂躙すると言われている。例えば五頭が集まれば火や、風、水や雷等々、それぞれの能力でもって互いに共闘し合った場合の相乗効果は十万の軍勢でも敵わんと言い伝えられている」

「しかし勇者には、そんな仲間など居ない訳ですからね。せいぜい軍の精鋭が取り巻きに付くくらいで」

「侮ってはいかんし兵の損耗もかなり覚悟せねばならんだろうがな。だがしかし、魔力がどれほどずば抜けていようが所詮は人間だ。神でもあるまいし、必ず死ぬ。殺すことは可能なのだ」

「となれば、帝府からの増援部隊を組織し始めるところから始まりますかな?」

「うむ、しかし大軍であるし、急いて事を仕損じてもつまらん。よもや一番の武闘派たるシーエスが簡単に鎮圧される訳も無かろうしの。とにかく貴様は引き続き西部軍司令部で情報収集に当たってくれ」

「心得ております」

「ふふふ……」

 二人は満足のいく会談結果に、不敵な笑いをとどめる事が出来ない様だった。

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