表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/197

状況の人、王女様に悩む1

「タ、タツミに!?」

 思わぬ名前に人材に、メルは茶で(むせ)るところであった。

「はい」

 そんなメルに、エバは更に温かくにっこり微笑んで答えた。

「な、なぜタツミ……」

「それが一番トゲが立たないでしょう? システ・ハウゼン宰相はこれを好機にアデリアに支援を要請して結束を固める方向で動くと思うわ。ポリシック卿と同じくハト派のトップですからね。アデリアとしてもいい感情を持たない、日ごろ睨み合っているシーエス勢の制圧となれば、彼らも歩調を合わせやすいんじゃないかしら? でも今回の蜂起の根底には国内のアデリアへの遺恨がある。だから武力衝突となっても、アデリアとのあからさまな共闘は蜂起軍を硬化させるだけ。その中で、ハト派、蜂起軍(タカ派)、アデリアにとらわれず自由に動けるのはシノノメさまとサイガさましかいないわ」

「し、しかし、タツミはアデリアの!」

「でも、あなたの彼氏よね?」

 またまたニッコリのエバ。役職を口にしながら、叔母と姪水入らずの時間を一番楽しんでいるのはエバ本人と言えるだろう。

 対して頬を染めるメル。眼も若干、真ん中に寄ってしまう。

「彼らはアデリアの庇護下と言っても、異世界人と言う特異な立ち位置にあるわ。しかもあなたとの縁談も飛び出している」

「とは言っても、シーエスの決起はそれが原因の一つ……」

「だから、それを利用する、いえ、せざるを得ないわけよね」

「え? え?」

 メルは少々困惑してきた。本来、最も部外者でなければならないタツミらを引き入れるしかない? メルはエバの説明を待つしかなかった。

「彼は魔導国もアデリアも無い、あなたを助けに来るだけだもの。それを邪魔するなら、あの方は蜂起軍だろうとアデリア軍だろうと蹴散らしちゃうでしょ?」

「でもそれだと、結局はシーエス勢の怨嗟がアデリアからタツミたちに移るだけじゃ? それに蜂起軍内には今の彼らを押さえられる人材など、魔王たるシーエスくらいしか……」

「恐らくそうなるわね。でもそれが彼の目論見……」

「え? それって……」

「あの方は不器用……と言うか損な性格……そう、言った方がいいかも……あら?」

 コンコン!

 ノックの音が響いた。同時に外から報告。

「魔導王陛下、ご夕食をお持ちいたしました! 入室のご許可を!」

 一瞬目を合わせるメルとエバ。

「はい、ご苦労様です。今お開けしますわ」

 エバが立ち上がってドアに向かう。これで叔母と姪のトークタイムは強制終了だ。

 ――損な性格か……

 明確な答えは戻ってこなかったが、その一言で何かメルは、シーエスに対して感じた違和感の正体に気付いたような気がした。


                 ♦


 何の巡り合わせか、ミニモ市正門で本日の警衛に上番している内の二人は前回、龍海一行と相対した若い連中だった。

 二人はカレンの顔を見るなり表情を引き攣らせた。彼らは火球を喰らって卒倒しただけであったが、痺れる体に耐えながら辺りを見回すと、視界に入って来たのは頭皮を完膚なきまで焼かれ、再起不能になったであろう無慈悲な股間粉砕蹴りを喰らった警衛班長の姿だったのだからさもありなん。

 で、ティーグが宰相システ署名入りの、龍海らに対する免責特権を認める親書を見せると警衛は引き攣り具合、更に倍! になってしまったが。因みに当時の警衛班長は頭髪は全滅し、嫁にセクハラや賭場通いがバレて実家に帰られてしまったそうな。

 さて、警衛所から伝令を飛ばすと役場――市政庁から送迎の馬車が出されて一行は庁舎内の客間に通された。王都モーグの騒乱と、アデリアとの共同歩調の話が飛び交っていた上に、その王族を含む噂の張本人、龍海らを迎えて内部はピリピリしていた。

「では、表に衛士を待機させますので何かございましたらお声をお掛けください」

 執政官が王都の案件でエームスに呼ばれているので、執政官代行が龍海らの応対にあたった。

「ありがとうございます。いきなりでお手数をお掛けしまして申し訳ありません」

 ティーグが代行の配慮に礼を述べた。

「皆様がこちらにお泊りである……おそらくこの事は、じきに広く触れられる事でしょう。特に先だっての奴隷商の一件は未だ燻っておりますし……十二分にお気を付けくださいますよう……」

「分かっております。明日には早々に退去いたしますので」

 と、社交辞令丸出しで答えるティーグ。実際のところ、奴隷商やその関連反社如きが、こちらの面子にお礼参りを吹っかけても結果は目に見えていると思うティーグである。

「代行のご厚意、宰相のお耳にお届けさせていただきます。お疲れさまでした」

「それではこれにて……」

 一礼すると、代行は部屋を後にした。

「すまんねティーグ、助かったよ」

 龍海がティーグの骨折りに感謝。さて……

「アデリアに帰すなら、軍に送迎と護衛を頼んでもいいが?」

 直近の課題は王女アマリアの今後の処遇である。

「こちらの落ち度だしなぁ、これ以上迷惑かけても……全く、こんなややこしい時に……」

 龍海としては、出来る事ならこちらの軍でも、アデリアの手の者に迎えに来させてでも、アウロアに帰ってもらいたいのだが。

「タツミさまぁ……」

 先ほどと同じ、首傾げ上目線な王女。

「なんで付いてきたの? と、聞くだけヤボよねぇ」

「お願いします勇者さま! ぜひ、私もお供に! きっと皆様のお役に立てますよう、全力で!」

「あたしたちは魔導国の閣僚連と討議の上、恐らくは足並みを揃えて蜂起軍に当たる事になるのよ? 当然、その時は武力衝突も有り得るわ」

「そんなところに殿下をお連れするなど! アデリア王国の象徴たる王室を守る防人の一人として、これを看過するわけには!」

「うう!」

 洋子の説明はともかく、ロイの強めの諌言にアマリアは委縮してしまった。見てくれはほぼ一人前の女性だが所詮は12歳。まだまだ大人の庇護が必要な歳であるが、今の彼女は四面楚歌だ。

 ――追い詰め過ぎも問題だけどな……

 全員で責めて自分の軽率さを叩きこむ手もあるが、なまじ身体が大人だけに一般的な少女よりも上、と言う自負もあろうしタチが悪い事この上ない。責めあぐねる龍海。

 そんな龍海に、

「……」

どうすんの? てな洋子の目が突き刺さる。

 ――外堀を埋め……絡めてみるか

「殿下?」

「アマリアとお呼びください……と、以前……」

「まあ、それは置いといて」

 龍海、頭の後ろをボリボリ。

「あなたはあなたなりに今の状況を把握しておられるお積りなんでしょうがねぇ。ぅんじゃあ、あなたは俺たちにどういう形で役に立とうと?」

「私の治癒・回復魔法がお役に立てるかと! タツミさまや勇者さまが豈夫(よもや)そんじょそこらの雑兵に不覚を取るとは思えませんが、万が一と言う事も有ります。勇者さまご一行には、どうやら回復士は()られないご様子。不測の事態に備えて私が控えていれば多少なりとも後顧の憂いを治められるかと!」

 アマリアの必死の訴えに、一応うんうんと頷く龍海。言っている事に理は有るものの、それでもって「はい、そうですか」とは簡単には受け入られるものでもない。

 で、とりあえず。

「でも、そのためのポーションは必要量、ちゃんと準備してるからね~」

と突き放す。

「ポーションの治癒力はもちろん効果的です。しかしながらポーションは時間がかかります。私の治癒魔法は応急処置的な使われ方ですが即座に効果が表れます。併用すればより効率のいい運用が!」

 正直、龍海は少し舌を巻いた。王族と言う事も有り、教育環境は現在の世相の中でも高等であろうし、幼少時から海千山千の為政者・地方領主らと顔を合わせ、言葉を交わして来た経歴は伊達ではないな、と。

「で、本音は?」

 洋子が突っ込んだ。

 そんなもんお題目でしょ? 最初からそんな風に捉えているのがアリアリな言い方だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ