状況の人、二人目と出会う3
「しかし、アマリア殿下のお姿を拝見するのは4年ぶり……だと思いますが、随分とご成長あそばされて、ず い ぶ ん と……」
などとイーミュウが昔の記憶をトレースしながら染み染みと。
その辺りに関しては龍海も全く同意であった。自分の中にある、平均的12歳女子のイメージとはあまりにかけ離れ過ぎている。
初めて見た時は洋子くらいの歳頃か、それよりも上くらいだと思ったし、王族らしいと分かってからも長女や次女だと思ったものだ。
そんな中で、彼女を第三王女アマリア姫殿下と一目で看破する人間など、果たしてこの世に居るのだろうか? そんな風にさえ考えざるを得ない。
とはいえ、早熟な女子の話と言うものも稀に聞く事は確かにある。
身近にそんな話は聞かないから、準都市伝説みたいに脳内で処理していただけだ。
「殿下といい、メルさんといい、この世界の王族の好みってどうなってんのかしらね~? こんなキモオタに魅かれるとか、絶対ズレてると思うの!」
「まあヨウコの価値観は我も分かっとるつもりだが、しかし情け容赦ないのぅ」
「そうですよサイガ卿。確かにあのような絵草紙を夜の友にする嗜好は如何かとは自分も同意しますが」
などとロイも乱入。
「余計なお世話だ!」
「横には自分が居るのですから声を掛けて頂ければ、お話相手でも、添い寝でも、マッサージでも、何でもお受けしますのに」
「いらねー!」
「最近はモテ期とか言う、準発情期に入ったらしいの? 鞍替えが遠のいて残念じゃのう」
「やかましい! 妙な期間当て嵌めるな!」
「それはさておきサイガ卿? 今までのシノノメ卿のご活躍から考えても、あまり下げて仰るのは些か首を傾げたくなりますが?」
「うむ。モテるはずが無い、と思っている男がモテまくっておるので、その価値観が揺らいどるのかの?」
「ちょっ……」
言われた洋子はカレンを指さし、反論しようと半ば口を開けるが、
「ん、んん~」
と今度は口を閉じて苦虫を噛み潰さん表情に。次いで指していた指でこめかみを押さえながら首を振る。
「あ~、ん~……そうね。多分そうなんだと思う」
ふ~っ、と溜め息とともに吐き出す感じで答えた。
「おやま? 随分殊勝に認めたな?」
龍海も”これは意外”そうに。
「だって、何かの間違い! とか喚いたって仕方ないじゃない。実際シノさんはメルさんに求愛されてるわけだし? 他人に自分の価値観押し付けるのは横暴だしさ。結局あたしの偏見なワケだし?」
「なんだかんだ言って、見せるところは見せよるしな」
「そうなのよね。シノさんはいろんな事件や案件が降り掛かって来ても、結局はみんなこなしてるもんね。あたし一人じゃ、こうは行かなかったもん」
「なんか、肉癢ゆいな。とは言っても、俺も今この立場に居るのが不思議で仕方ねぇもんよ。お前じゃないけど、『俺、それほどの男かぁ?』っていつも思うし? この先、どう泳ぎゃいいのか皆目見当もつかねぇし」
「何を他人事の様に仰っておられますの? 魔導王陛下のみならず、アマリア殿下にも慕われてらっしゃるのは事実ですわ」
「お姫さんは勘違いじゃねぇかぁ? 恋に恋するお歳頃ってやつでさ」
「例えそうでも……ううん、そうであればこそ、生半可な気持ちで彼女と接しちゃダメよ? 彼女はホントに真剣な気持ちなのよ? 何年後かには”勘違いだった”と思う時が来るかもしれないけど、今はマジなの! これを見誤ったらあの娘の心に大きな傷を付けかねないわ」
「ん、ご忠告ありがと」
さらっと答える龍海に洋子ちゃん、ちょっくらムスッ。
「ちょっと~。あたしは軽く考えるなって言ってるんだけど?」
「いや、マジで言ってるんだよ。世代が近いお前が言う言葉は、恋愛に縁が無かった俺にはホントにありがたいんだよ」
「ん? んん~、ならいいけどさ」
「でも、再開後の会議の流れからしても、シノさまは魔導王陛下との婚姻と言う方向になりそうですが……シノさまはその辺りは?」
「結婚そのものがピンと来ねぇからなぁ」
「そうなんですか? 婚姻は両家の合意のもとに行われますし、それほど慣例にも常識からも外れてはいないと、自分には思われますが?」
「ああ、そこだ、そこ!」
「はい?」
ロイの言葉に龍海が反応した。
「なにか? 自分の言に可笑しなところが?」
「いや、多分ロイの言っていることは正しい。ただ、それはこの世界での話なもんでな? 本人の意思よりも家や一党、果ては村とか集落の習わし・掟のようなものが優先されてる。そこが引っ掛るんだろうな?」
「ええと、卿の世界ではそう言った慣習が無いと?」
「無い訳じゃ無いわよ? やっぱりこっちと同じで王侯貴族や上流階級では聞く話だし。だけどあたしたちの国の庶民は大体、本人同士が好きあって一緒になる方が多いから」
「恋愛優先ですか? まあ市井の庶民だとそう言うのもちょくちょく耳にはしますが、どちらかと言えば少数派ですわね」
「自分の領内でも、嫁の貰い手は無いか? 年頃の娘はいるかな? とか親同士、家同士が段取りする方が多いですね」
「それでも一応本人の意向も確かめはしますが、辺境の集落となると族長や長老とかがみんな再配したりとか?」
「う~ん、シノさんじゃないけどモヤモヤするわね、そういうの。本人の意思そっちのけとか」
「地球でもほんのちょっと時代を遡れば……てか俺たちの時代でも、環境が厳しいところは個人よりも集団が優先されて、族長とかの権限が異様に強いって所も有ったしな」
「やだな~、そういう個人の気持ち無視って」
「……お主らの故郷は……恵まれとったんじゃの~」
「ほえ?」
洋子ちゃん、予想外なカレンの反応に、いつぞやの首傾げポメラニアン的にキョトンとするの図を。
「こちらの辺境……いや、街に近いところでも自然環境、生活環境が厳しいところは全を優先するために個を押さえることは珍しくない。個が勝手に動いて全が損壊する事態を避けるためにな」
「引いてはそれが個を守る事にもなるのですわ」
「……釈然としないわ!」
「なるほどの~。龍海が引っ掛っとるのもそこかや?」
「まあな。こっちで生きていくって腹括った以上、そんな考えは甘ちゃんだ、てのは分かってるつもりなんだけど……」
「魔導王と番うんじゃ。さっさと括った方が吉ぞ。それとも彼女に何か不満でも?」
「そうじゃねぇよ。一生女とは縁が無ぇと思ってた身からすりゃ出来過ぎもいいところだ」
「そうねぇ。そこは女神さまに感謝よねぇ」
――いや、まったく