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状況の人、異世界で無敵勇者(ゲームチェンジャー)を目指す!  作者: 三〇八
状況の人、異世界で無双する
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状況の人、王都へ帰還する1

 シーエス領ゼローワ市内の小高い丘の上に、領主である魔王シーエスの居城コンプレット城は聳え建っている。

 上から見ると外郭が五芒星の様な形状となっており、城と言うより要塞と言っていい構造となっていた。魔導王国において、モノーポリ勢にも勝る武闘派としてその名を轟かせる魔王シーエスの性格を如実に表していると言えよう。

 そんな方針のせいか城内の装飾は最低限に抑えられ、オブジェのほとんどは武器や甲冑などで彩られて(?)おり、それらも戦時においてはすぐに徴用できるように整備されているようだ。

 とは言え、さすがに賓客を招く客間や応接室、謁見の場は華美とは言えないまでも、それなりの内装となっており来客がストレスを感じない、そんな配慮もなされていた。

 その応接室で、宰相システの特使として来訪している筆頭秘書官リバァは魔王シーエスとの会談のため待機していた。

 その間、出されていた茶を飲み干した頃、

「お注ぎ致しましょうか?」

給仕の少年が、ポットを乗せたトレイを抱えてリバァに尋ねてきた。

「そうですねぇ……閣下は後どのくらいでお見えになられるのでしょうかしら?」

 会談前にあまり水分を取り過ぎるのも考え物……リバァはヤマネコの獣人である少年に聞いてみた。

「申し訳ありません、そう言った情報は自分には聞かされておりませ……」

 トン、トン

 少年の答えが終らない内に、ノックの音がした。

 リバァが扉に目をやると、ウルフ族の政府高官らしき出で立ちの男が入ってきた。

「お待たせして大変ご無礼しております、特使殿」

 詫びとともに頭を下げる高官。リバァに対する言葉使いからしてもこの初老の男は魔王シーエスではありえない。

「チューニィ官房長様、魔王閣下はまだ?」

 チューニィと呼ばれたその高官は、リバァとさして変わらない身長の後頭部を掻きながら更に頭を下げる。

「申し訳ありませんが……当方の行き違いによってその、シーエス閣下は今現在、当市から離れておりまして……」

「行き違い? 本日の事に関しては連絡が、遅くとも二日前には届いているはずなのですが?」

「はい」

 ――あ、有り得ないでしょ! 

 リバァは耳を疑った。王都府からの特使派遣の通達が途中で止まってしまうなど。

「実は昨日より、我が軍最大規模の首府幕閣指名対アデリア大演習が始まっておりまして、シーエス閣下も今朝、現地へと検閲に赴かれましたので……その混乱で恐らく書簡が上手く上がって来なかったものと……」

 今回のリバァの訪問は、王室が例のアデリア国との穏やかな連携・同盟・統一を目指す方向に舵を切る方針であることを伝え、王都モーグに6魔王を招請して首脳会議(サミット)を行うための事前調整である。

 魔導王国は魔導王フェアーライトの独裁国家では無く、中央の権限はそれなりに強いものの連邦制に近い政体なので、国家の方向性に関する決め事は各領地の民の意見を集約した6魔王の協議の内に決められ、魔導王が裁可するのが慣例であった。国政に絡む案件になりそうならば各魔王が上程して会議が催される。

 それが今回は王都府、魔導王からの上程である。

 何より優先されなければならないはずなのに……リバァはこの状況が王都中央を軽んじているように見えて眉間にシワが寄るのを止められなかった。

「特使とは言え、一秘書官である私が口にするのも僭越ですが、今回のこの顛末は魔導王陛下に対する不敬行為なのではありませんか? それに今回の案件は陛下御自ら上程されたものですよ?」

「領主府官房の職を頂いている(それがし)としては、耳の痛い事この上無き話でございます。とりあえずモノーポリ閣下には”ハト”を飛ばし、事後の指示を待っている有様でして」

「そう、ですか……」

「まことに身勝手な提案ではございますが……ハトが帰還した後、善後策を検討して……モノーポリ閣下の意向もありますが、例えばその演習地から直接モーグ市に向かわれることも……」

「しかしそれでは他の魔王方が集られるまで、閣下を王都に足止めさせてしまうことにも?」

「今回の非礼にお応えするには、その程度は……」

「ん~、でしたら返信が来るまでこちらで待つしかありませんね。じゃあ……」

 リバァはヤマネコ給仕を目線を合わせた。

「お代わり頂こうかしら?」

 リバァのリクエストに、給仕は一礼の後に茶をカップに注ぎ始めた。

「では、それまでに我々だけで検討できる事柄は進めておきましょうか? 某も特使殿と茶の湯をご相伴させて頂いてよろしいかな?」

「もちろんですわ、官房長様」

 リバァの快諾を受けて、給仕に指で合図する官房長。

 給仕は更に一礼すると、準備のために部屋を後にした。

「……とてもよく教育されてますね、彼。見ていて気持ち良いくらいです」

「恐れ入ります」

「しかしながら……」

 リバァは官房長に、目線だけを戻した。

「彼……奴隷、ですよね?」

「……」

「首元に有る(サーヴァス)の印……」

「……特使殿が仰りたいことは、某にもわかります。魔導王陛下の御心も。しかしこの事に関しては、各領の自治の範囲内でございますれば」

「モノーポリ領では廃止する方向ではあるのですが?」

「失礼ながら特使殿も今よりお若かった頃の事で、その当時のシーエス領の状況をご存じかどうかは不明でございますが……我が方は先の戦争では一番の激戦地で、大勢の男たちが命を散らせたわけですが、その分、内地では男手――労働力が大変不足してしまいました。それを解決するために敵方の、返還要請からこぼれた捕虜、アデリアでの占領地や侵攻地から連行した一般人を奴隷として活用するしかありませんでした。他の領地からの人員派遣は微々たるものでしたからね」

「それは……激戦区になったシーエス領やモノーポリ領の穀倉地帯が荒れてしまったので、そちらへ供給するための穀物増産で派遣する人材数が乏しく……」

「承知しております。故に魔導王陛下も、ご自身の趣意に反しているにも拘らず、目を瞑ってくださっていた」

「……」

「労働力確保の他にも、敵国の兵や臣民が奴隷として強制労働させられている様は自分の夫を父を亡くした者たちにとって、その怒りを鎮める効果もあったと思います。性奴隷として凌辱、虐待される事さえ復讐心を満足させて復興に力を注ぐ一助になってもいたでしょう。あ、いくら敵国人とは言え、女性である特使殿に話す事では無かったですね」

「お気遣いなく。職務に私情は挿みません」

 リバァは気丈に反論した。

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