状況の人、「話は聞かせてもらったぞ!」5
「とにかく!」
メルが寸劇を遮った。
「両国の臣民を戦渦に巻き込まないためにも、何とかアデリアとの戦を避ける方向で検討を重ねるべきだ。タツミやサイガの能力は確かに脅威ではあるが、こちらも出来る限りの好条件を提示して協力を願う事は出来よう。拘束など、そんな敵対行動は避けた方が良い」
「好条件?」
と洋子。
「其方らの願いは故郷への帰還であろう? おそらくは召喚魔法陣の逆稼働だと推測できるが、ならば二人が我が国とアデリアとの間を取り持ってくれるのであれば、我が王宮殿に秘蔵の宝珠を提供しようではないか」
「え? マジで!?」
「両国が戦となり、其方らが我が王都に侵攻すれば魔導障壁を展開せねばならなくなる。そうすれば宝珠の魔力は一気に衰えて、其方らの帰還は困難になってしまうだろう」
「え、やだ、それ困る!」
「で、あろう? タツミも、我らが争わずに済む方法が有るならそれをアデリアに推奨してくれるはずだ。この男は縁と言うものを極めて重視する男だ。異世界人であるのにアデリアに尽くすのもその証左。そして同じく、余と我が国との縁もな……」
「陛下……」
「両国とも、本当の敵は共通しておるのだ。ひとつ賭けてみんか?」
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「魔導王の言う事は、確かにこちらとしても歓迎すべきかもしれん。しかし難題が多すぎる! 貴公ら異世界人にはわからんだろうが、先の戦役での感情は未だ燻っておるのだ。征服し、奴らを屈服させてこそ過去の呪縛から解き放たれる、そんな連中もな」
「そりゃ向こうだって同じでしょう。隊長の仰るようにするとなると、兵力や国力の損耗は馬鹿に出来ないじゃないっすか? その辺、国王陛下のご威光で何とか抑えられないもんすかね?」
「だから、そう簡単ではないというのだ! しかも列強に悟られぬ範囲内とは言え、魔導国侵攻を想定した軍の再編成は進んでいる。それを魔導国軍との混成部隊に再編成など、現場を混乱させるだけだ!」
「今日明日にいきなりって訳じゃないっすよ? とにかく検討だけでもお願いしますよ。アンドロウム、ポータリア両国に手出しさせないようにするには、兵力は削らないに越した事は無いですし」
「あーもう! 軽く言うなと何度も!」
「魔導王も国内各魔王の説得に入ってるはずです。北方はともかく、南部シーエス領はかなり困難を極める様子ですが、それでなお努力されてる」
「各勢力との調整や説得もあるが、王室だって大混乱だぞ」
「そりゃまあ、俺もまだ盗賊や魔獣退治くらいしか実績が無いワケで、国王陛下の養子とか無茶だってのは重々……」
「そうではない! 事が予定通りに進んで魔導国併合に成功すれば、報奨としてサイガ殿は故郷へ帰還していただき貴公は……」
「俺は?」
「第3王女アマリア・チェイスター殿下と婚姻し、王族に名を連ねる事になる予定なのだ!」
「はああー?」
「もう正直言ってしまうが首尾よく魔導国を併合できても、列強に我が国への侵攻を思い留まらせるための更なる備えはもう一段、必要と王国府は考えておる、そのための方策として貴公ら二人、最低でも一人はここに残って頂こうという見解で意見は一致したのだ。そのために最高峰の褒章として貴公を王族に迎え入れ、以て王国の安泰を図る、と陛下自らご提案なされたのだ! しかも順位は下位だが王位継承権まで与えるとの提言までなされているのだぞ!」
「ちょ! なにを勝手に!?」
「モテモテねぇ、シノさん? しかも支配者層ばかりにねぇ? 長年童貞守ってきた甲斐があったわねぇ?」
「いや、童貞守ればこうなる訳じゃねぇし!」
「そ、そんな! 卿が王女殿下を娶られたら……」
「もう、あなたはシノさまの事、諦めるしかないのよロイ? 魔導王さまと違って王室の御意に逆らうなんて私たち地方の田舎貴族には出来っこない。でも大丈夫! 私はいつでもあなたの隣にいるわ」
ロイに寄り添い、元気付けるイーミュウ。そして口元がニヤリと歪む。だがここで、
「ですが王女殿下は確か12歳になられたばかりでは!?」
と、ロイが衝撃の真実を。
「なにぃ!」
以前にも増して素っ頓狂さに磨きがかかった声で驚く龍海。”聞いてないよー!”どころではない!
龍海は幼女や少女を「可愛い」と思ったことは有っても、それによって性的衝動を感じたことなどは全くない。
それどころか、そんな幼気な娘たちに欲情するとか頭の中から出さなければともかく、実際に手に掛けようとする連中に至っては同じ男としても嫌悪感を感じている。
故に龍海としてはこの縁談、メルに求愛されるよりも衝撃的で、かつ厄介である。
「歳の差20歳っすよ!? モロ親子じゃ無いっすか!」
「何を狼狽えておるのだ? 別に珍しくはあるまい?」
「がっ!?」
意に介さぬ顔で返答するレベッカに龍海の顎はカクンと下がった。
しかし、レベッカの反応は当然であった。少なくともこの世界では。
近世においても王侯貴族が政略結婚によって12歳どころか一桁で輿入れの例もあったし、日本とて明治前半くらいまでは15で姉やは嫁に行っていたわけであるし。
王侯貴族で後妻を娶るパターンとか、そんな年の差も全く関係ないワケで。
んで洋子。
「無茶でしょ、そんなの! いくら政略結婚が貴族の世界じゃ当たり前って言っても、相手はコレよ!? コレなのよ!? こんなキモオタのエロオタに嫁がされる幼気な王女様が不憫に思わないの!?」
「言ってることは分かるけど、もう少し言葉選んでくれないかな!?」
「黙れキモロリ! レベッカさん、あなたも同じ女として何とも思わないの? 哀れに感じないの!?」
――マジでロープ探そうかな……
かなり心がへし折れてきている龍海である。
「まあ私もそれは進言した。しかしながら王室を含む貴族の女子も、12歳ともなれば輿入れ先は検討に入るところもある。王女の場合は他国の王室や、国内でも王室の血縁の濃い公爵家辺りから順に探し、良き相手が見つかれば数年後に祝言となるのが慣例だ。アマリア殿下にもそのような将来をお考えの様であった」
「本人の希望が全く考慮されないってのはモヤモヤするわね!」
「全くと言う事は無い。一応、陛下が茶会の席でアマリア殿下に『王国を救う英雄との縁談が持ち上がったら?』と問われたらしい」
「殿下は何と?」
ロイが聞く。
「大層お喜びになられたそうだ」
「「はいいぃ?」」
龍海と洋子が合唱。「え~?」と、この世の終わりみたいな顔をして未練がるロイ。
「殿下が幼少のおりに聞かされたお伽噺、異世界の英雄譚を殿下は殊の外お気に入りだったらしくてな。かなり乗り気になっておられるとの事だ」
「いや、喜んでもらえて恐縮だけど、やっぱりそんな……」
「そうよ! 話だけだから胸もときめくかもしれないけど、いえ、そうだからこそ実際にコレと会った時のショックは計り知れないわ! 超ド級のトラウマ抱えるかもしれないのに!」
――何度もコレコレ言うなよぉ~
「落ち着いてくださいませ、ヨウコさま。些か言葉が強うございます。シノさまがすっかり落ち込んでいらっしゃいますわ」
「そ、そうですよ。本当は自分が落ち込みたいのに……」
ロイとしては、敬愛する龍海とメルとの婚姻話に当惑するも、序列に関してメルとはまだ話し合いの余地をもらっている事でなんとか希望も持っているのだが、アデリア王室が相手では手も足も出ない。
対して洋子は、二人に諌言の如く釘を刺された格好になり、ちょっと頬を膨らます。
「あら、よかったわねぇシノさん、みんなに庇ってもらえて~。世界中のキモオタ垂涎の幼な妻ゲットよ~?」
「いや俺ホント、そんな趣味ねぇし!」
「今日からあんたの名前、ロリノメな?」
――んが!?
再びロープを探そうかと思う龍海であった。




