状況の人、「話は聞かせてもらったぞ!」4
「陛下! そのような国家の未来を左右する決定を、宰相である私を抜きに決めて頂くワケには参りませんよ!」
「陛下の御意に逆らう気持ちは毛頭ございませんが、さすがにその手段は……御再考なされるべきかと!」
システとリバァが登場そうそう異議を唱え始める。
「なんだ貴様ら? 広間で呑んでいたのではないのか?」
「陛下やシノノメ、はてはサイガらまで消えていれば気にもなりますでしょう!?」
「む。貴様らも余の考えに不満か?」
二人に加えて、更にロイも突っ込んでくる。
「確かにシノノメ卿は男気に溢れ、仮想敵とは言え魔導王陛下が見染められ、卿の配偶者となられる事を望まれる! 卿がそれほどの慈愛の心・甲斐性を有しておられるのは自分が誰よりも理解しております! ですが物事には常識や段取と言うものが有ります! 例え魔導王陛下が卿に輿入れなさる事が有っても、序列第一位は自分です、これは譲れません! そう、ご認識願いたい!」
「OK、ロイ! お前はもう喋るな!」
「うむ、その辺はタツミを理解する者同士、腹を割って話そうではないか。だが今は国家が優先だ。その件については、今の段階では保留と言う事でどうか?」
「いや、マジになって相手しなくていいから! 俺はそっちのケは無いから!」
「では、余一人と連れ添ってくれるのだな!?」
「だからそういう意味じゃ!」
「陛下! 陛下のお考えは熟慮を重ねた上であるとは推察いたしますが、あまりにも突飛です! この世界の者では無い、文字通り何処の馬の骨だか牛の首だか知れない男と婚姻など!」
――さすがに牛の首は無ぇだろ! てか、こっちにもあるの?
だが、ハンターのラリが龍海らから味わった恐怖が噂で流れれば、あながちそんな話に膨らむかもしれないが。
「各魔王、閣僚、長老衆、いえ、民草とて納得しはしませんでしょう!」
「システよ。今の両国の窮状を好転させるには今まで通りの慣習や思考で当たっても良い結果が出るとは思えん。ならば、有り得ない方法を有り得る方法として進めるしかあるまいが? それに……」
「そ、それに?」
「それになシステ……余とタツミはな……」
「陛下とシノノメが?」
「りゅ、留置場で……」
「留置場? 先ほどの?」
「す、すでに男女の……契りを……」
ピシ!
空気が一瞬で凍り付いた。サブイボ・トリハダどころじゃなく凍り付いた。
更に、それ以上の超絶低温視線で龍海に集中する全員の眼、眼、眼。
――陛下ぁー! キス如きでその物言いってベタ過ぎだろおー!
「この童貞エロオタぁー! そこに正座しろぉー!」
「待て待て待て! 落ち着けぇ!」
「やはりヨウコさまの仰った通り! 何と言う歪んだ性嗜好! 壁一つ向こうに私とロイがいると言うのに監獄プレイとか! 達人過ぎます!」
「ぅおぉい! 洋子が俺の嗜好を何と言ったか詳しく! つか何の達人!?」
「うるさい! あんたがアホやらかしてアデリア・魔導国併合がおじゃんになったらどうすんのよ!? ここの宝珠を手に入れないと、あたし日本に帰れなくなっちゃうでしょ!」
「は?」
「宝珠?」
――バカ! 手の内バラすとか!
「…………なるほど、見えて来たな。国の都の最終防御に、長い年月をかけて蓄積された宝珠の魔力を源にして魔導障壁を展開するのは世界の常識」
洋子の失言に、メルがニヤッと微笑む。
「アデリアが、あなた方を召喚する儀式の魔力源が、障壁用の宝珠であることは予想されていましたが……」
「で、我が国を侵略した後に宝珠を奪取。その魔力を以て貴公らは元の世界に戻る。それが貴公らがアデリアに帰属する理由であり、条件と言う訳か」
リバァとシステが洋子の言から勘付いた仮説を、二人で簡潔に披露。
「ん? ん、ん?」
いきなり空気が変わり、周りをキョロキョロし始める洋子。
んで、最後に龍海に目を向けて、お座りしたポメラニアンみたく首を傾げる。「あたし、やっちゃった?」以前の反応である。
「だとすると、今のアデリア王都府は攻城戦において一番の難関である魔導障壁が機能しないと言う訳ですね?」
「稼働全軍で王都一点突破を図ればあるいは?」
「……」
目を逸らし、苦虫を噛み潰した顔をするロイとイーミュウ。
「陛下、宰相として提案します。彼らは、いったん拘束すべきです」
「い!」
システの進言に驚愕する龍海ら。
「宰相のご意見に同意いたします。緊急国防会議を催し、検討すべき情報です。そこで方向性が決まるまでは……」
「え? なんで? さっきまでみんなで飲んでたじゃない? 何でいきなり?」
未だ理解の外にいる洋子。
龍海は、ため息をつく気も起こらないほどのしわを眉間に寄せた。
とは言え、洋子を責める気も起こらない。
火器の扱いも慣れて来て実戦経験も積み、魔法力も著しい成長を見せてはいるが、政争・駆け引き・戦略等になると彼女は素人同然である。一般的JKに、それを求めるなど酷な話だ。
「余は賛成できんな」
「陛下?」
――メル……
ここでメルが助け舟を出してくれた。
システ、リバァの進言に異を唱える。
「確かに王都攻略はそれで成功は出来よう。だがその後の南北からの増援軍との迎撃戦は、反魔導国派の民兵との遊撃戦も加わり泥沼になる可能性も高い。そうなれば帝国や皇国の侵攻を招くだけであろう?」
「しかし、拙速に進軍して、アデリアの王族を押さえてしまえば被害は最小限にする事にも期待出来ます。南北の迎撃態勢に万全を期することが!」
「投機性が高すぎるな。余としては、やはり穏やかな二国の連携を目指すべきだと考えるぞ。今はそのカードが手の中に有るのだからな」
「陛下……叱責を覚悟で言わせていただきますが……陛下は私情を挟んでおられるようにしか思えませんが?」
「共有は出来よう? それにタツミと契ったからには婚姻同盟案は有力な……」
「契ったとか申されますが、それは陛下の勇み足、いえ、勘違いでございましょう!」
「勘違い? 何がだ?」
「だって陛下は今以ってこの小娘らと同じく生娘ではありませんか!?」
――は?
断言するシステに他の者、龍海や洋子らの頭上に「?」マークが乱舞する。
――確かに俺とはキスどまりだったけど、なんでわかる?
スン、スン!
システはまたも鼻を鳴らした。
「……なるほど……しかし陛下? 接吻程度では契ったとは言えませんよ? シノノメも一端の男子ではありますが、異世界人とは言え流石に監獄内でそんな行為に及べるほどの胆力と精力があるとは思えませんし?」
「た、確かにその通りだけど、言い方! てか臭いで分かるのか、そんなん!」
「それくらい当然だが? 陛下はまだそこの二人と変わらん、男を知らぬ処女の臭いのままだ」
言われてボッと顔を赤らめる洋子とイーミュウ。
「私はロイの婚約者です! そ、そんなの、当然ですわ!」
「だ、大体、なによ! 臭いでわかるなんて、そんなの信じろとか!?」
「私の鼻を疑うか? 例えば貴様ら生娘とリバァとの違いで言えばだなぁ……」
「わー! さ、宰相! いきなり私めを引き合いになさらないでぇー!」