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状況の人、異世界で無敵勇者(ゲームチェンジャー)を目指す!  作者: 三〇八
状況の人、異世界で無双する
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状況の人、城内の夜3

 カレンが調子に乗ってきた。

 ベストタイミングで便乗してお気に入りを所望する。

「アレって? ビールか?」

「他に何が有るか? モノは(ついで)よ、魔導国の重鎮、纏めて酔い潰してしまえ!」

「あ? このオークの大将に酒で比べようってか? 随分鼻息が荒いじゃねぇか?」

「ほほ~、その心意気や良し! 給仕! ジョッキ持ってこい!」

 本来この席は魔導国のVIPと両国問題のキーパーソンたる異世界人を交えた、厳かな晩餐会のはずであった。

 メニューはすでにデザートコースに入っており、まずは数種類のチーズが出されていたのだが、これがビールの格好のつまみになってしまった。

 ごきゅ! ごきゅ! ごきゅ! 

 カレンとモノーポリは2l缶からジョッキに、なみなみと注がれたビールを一気に飲み比べた。

「ぷは~! どうじゃ、オークの魔王よ!」

「むう! これはまた透き通るような飲み心地! しかも適度に冷えて喉をくすぐる様に流れていくわ。さっきの酒はクセが強すぎるがこいつはいい!」

 ――こちら側にも受けが良すぎるな~。ビールで篭絡出来りゃ、そりゃ楽だけどよ……

「うむ、これは飲みよいですね、陛下。マイルドな苦みがこれがまた!」

「そうであろう? イノミナになった時に一杯飲ませてもらったのだが、余も気に入っておるのだ」

 こっちでも始まってしまったみたいだ。

「シノさま~、私、ちゅうはい欲しいですぅ! ヨウコさまは?」

 今度はイーミュウもオーダーしてきた。

「シノさん、あたしノンアルのチューハイね! レモンで!」

「タツミぃ! つまみが足りん! サーロインとコンロ出せ!」

「ハァ!? さっき晩飯フルコースで食べたばっかじゃねぇかよ!」

「細けぇことは気にするな! 魔王殿、宰相殿! 血の滴る最高級牛ステーキはお嫌いか?」

「牛肉!? そんなものまで出せるのかシノノメ!? そうか異世界の牛肉か!」

「血! 血の滴る異世界の牛肉……! ぜひ、ぜひ相伴させてくれ!」

「晩餐会の二次会でBBQとか何の冗談だ!」

「タツミ! 余はケーキが欲しい! 宿で頂いたあのケーキを所望するぞ!」

「ケ、ケーキ……甘味ですか? 異世界の甘味……! シ、シノノメ卿! 僭越ながらわたくしにもぜひ!」

 フェアーライトもリバァもなにやら別方面で乗ってきよった。

 なんだか自分が、歩く居酒屋かファミレスにでもなったような気分になる龍海であった。


                      ♦


 その部屋は風通しが良く、窓を開けて外の風に火照った頬を冷やしてもらっている魔導王フェアーライトは、その肌を優しく撫でられるような心地よさを龍海と堪能していた。

「あ~夜風気持ちいい~。酔い覚ましに最高~」

「いい風だな。モノーポリめ、良い部屋を用意してくれたな」

「酔いの方はどう? 落ち着いた?」

「ふふ、何だが随分はっちゃけてしまったよ。システやモノーポリのあんな楽しそうな顔なぞ滅多に拝めん」

 ついと軽く思い出し笑いするフェアーライト。

「カレンが悪乗りさせたからなぁ」

 龍海も釣られるようにこれまた軽く噴き出す。

「こんな風に国家同士も打ち解けられれば苦労は無いのだがな……」

「陛下……」

「『陛下』はよせ。二人きりではないか」

「え? う~ん……じゃあ、フェアーライト?」

 くっくっく! 含み笑いするフェアーライト。

「メルと呼んでくれ。それが余の実名だ」

「メル?」

「メル・ロッソ・フェアーライト……それが余の本名だ」

「ん~、メル、か……」

「即位すると家名のみ名乗るが、親から授かった名もあるのだ。『メル』は父の昔の恩人の名から因んだそうだ」

「ロッソって、もしかして赤?」

「知っているのか? これも父が名付けたのだよ。父が生まれ育った地方で祀られていた炎の神の名だそうだ。その神と同じく髪の毛が赤かったから付けたって言うんだから、適当なもんよ」

 屈託ない笑顔を浮かべて話すフェア……メル。

 別にイヤがっていたり嫌ったりしていないと言うのが、その笑顔でわかる。

「はじめは『テスタロッサ』にするつもりだったらしい。テスタは頭って意味でな、要するに『赤頭』だ。さすがに母が反対したそうだ」

「親御さんは退位したのか? それとも……」

「ああ、二人とも戦役前に鬼籍だ。余が即位した後に国内が騒がしくなってな」

「アデリアに攻めたんだって?」

「まあな。しかしこちらとしては防衛戦争だと思ってはいるんだが」

「アデリアもそう思ってんだろうけどねぇ」

「で、あろうな……実際の状況は今とそれほど変わってはおらんと思う」

「相互に攻めてくるだろうと、お互い疑心暗鬼かな? 隣国なんてそんなもんだろうし……」

「タツミよ……」

「ん?」

「其方は、本当の敵はポータリアとアンドロウムだ、と嘯いておったな?」

「アデリアだってそう思ってるさ。だから魔導国を併呑して二国と比肩する国力・兵力を手に入れたいと思ってるんだから」

「話してしまっていいのか?」

「勇者召喚……アレで呼び出されるのは本来、洋子一人のはずだったってのは話したよな?」

「うむ、それは意外に思った。其方ら二人が揃ったのは全くの偶然だったとはな」

「再会した時は俺も随分混乱しててなぁ。そこに王都府の連中が絡んできたもんでズルズルと今に至っているわけなんだが」

「あの可愛いらしい弟分たちもいるし、面倒であっても切り捨てることは出来まいな。其方にはそんな性分を感じるぞ。ティーグ一派らを放免したのもそんな性分ゆえであろう?」

「ヤクザ共とは言え、情け容赦なく殺っちまう男だぞ?」

「ヨウコたちを救うためであろう? 欲や娯楽で殺める訳でもあるまい? とにかく其方はアデリアを裏切るつもりはない、それは確かだな?」

「俺らを利用するだけのつもりでも、今の段階では俺たちはアデリアの庇護を受けている。おまけにいろんな人と縁が出来ちまったからな。そういうの、平気で切り捨てられるような男なら、メルだってこんな風に話し合ってたりして無いだろ?」

「余としても、アデリアの国力を吸収し、列国と対峙するという策を考えていなかったわけでは無い。其方の言うように、我らの真の敵はポータリアとアンドロウムだ。先の戦役でもそうだ」

「……前回も二国の策謀が動いていたわけか」

「ああ、アデリアが攻めてくる、魔導国が攻めてくると両国を疑心暗鬼にさせたり国内の意見の分断を図ったり……」

「開戦前あるある、な工作だな」

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