状況の人、城内の夜2
「挑発もそこそこにしておけシステよ。話を戻そうではないか?」
ニヤニヤしながらロイをイジリ倒すシステを抑えながら、魔導王陛下が仕切り直し。
実際、龍海たちとシステ、モノーポリらは敵国同士。会談と言えどマウントの取り合いは自国に有利に運ぶためにも必要ではある。
「つまるところ、両国は互いに国力を求めて、それでもって列強と対峙しよう、との思惑はあるワケよね?」
一口サイズで彩られた突き出しのあと、前菜の野菜と魚のパイ包みを食べ終えてスープが配膳され始める中、洋子も龍海と同じ、客観的な立ち位置で聞いてみた。
当初に比べ著しい成長・レベルアップを重ね、勇者としての自信も付き始めてはいる彼女ではあるが、結局自分は利用される側だと言う思いは払拭出来無いワケで、どちらかに偏る、しがみ付く事には抵抗が有るのだ。
――戦うからには自分が心底納得できる理由が欲しい……
「アデリアに世話になって、アデリアの貴族を従えてる割にゃあ、何か他人事じゃねぇか、嬢ちゃん」
「当たらずとも遠からじ、ね。結局あたしは巻き込まれてるだけだもん」
「俺たちは自分で望んで今の立ち位置に居るワケじゃ無いからなぁ」
「それ故、我が方のテロ犯を放免したりも出来たわけだな?」
「陛下も……あの時、あの情報を教えたのは俺たちに止めさせるためだろ?」
「草からの報告があって思案に暮れていたのだが……あの酒場の段階では其方らの素性はハッキリしなかったが、其方らがアデリアべったりでは無いと言う事については期待できたのでな。被害を最小限にしてくれるだろうと思ってはいた。しかし全員放免するとは予想外だったぞ?」
「まあ、あいつらから……特にティーグはアデリア憎しって思いがあまり感じられなかったからな」
「そういや其方、ティーグに何やら差し入れたそうだな?」
「え? あ、ああスコッチの事か? 寒そうにしてたからつい、な」
「アレは迂闊だったな。アレのおかげでビアンキ侯夫人が其方らを洗い始めたのだぞ?」
「は? 酒なんてこっちにも色々あるじゃないか、醸造酒も蒸留酒もさぁ。なんで?」
「香りがかなり強烈だそうだな? 我が国はもちろん、アデリアにもアンドロウム、ポータリアでもお目に掛かれない、話にも聞かないモノだったと言う事で注目されたらしい」
「…………」
――しまった~ 何も考えずに出しちまった~ やっちまった~
あのスコッチはウイスキーの中でも龍海のお気に入りではあるが、確かに最初に試した時は、その消毒液だか正〇丸だかの臭いを思い浮かべそうな個性的な香りには正直、龍海も引いていた。
しかし慣れてくると不思議なもので、今ではあの香りがないと物足りなさを感じるようになっている。
と言う訳で本当に何も考えず、気軽に再現してしまったと言う訳だ。
「で、あるならば、ビアンキ夫人には口止めが必要かと?」
「うむ、システ、リバァ。モーグ帰還の途中にビアンキ候領に寄って事情を説明しておいてくれ」
「承知いたしました」
「じっくりと、だぞ? 誤解を持たれぬように。それと彼女らの活動にも釘を刺せ。いずれ手を借りる事になるから、と」
「お任せください」
料理は魚料理のあとの口直しを挟んでメインの肉料理に入った。
「はっはっは~。これも酒で身を亡ぼすってやつの内かシノノメよぉ?。ところでその酒は今、持ってんのか? 話のついでだ、有るならちょっと試させてくれや?」
「亡ぼしたって言った傍からそれかぁ? 普通、気を引き締めるとこだろー?」
「まあ良いでは無いかタツミ。ここは其方らの身上を知っておる者のみだ。モノーポリには奴隷商の一件も不問にしてもらっておるしな?」
「それ出す~? 正当防衛だと思うけどなぁ(カレン以外は)」
とは言え、ヤクザ共ではあっても人死にまで出た案件であることは紛れもない事実。龍海は折れた。
給仕にショットグラスを用意させて収納から酒瓶を取り出し、人数(魔導国組)分注いでいく。
「ふ~ん、確かに色合いとかは、こちらの酒と変わらんな?」
フェアーライトもグラスを取ってまじまじと見つめた。
「で、香りが独特って言うんだな? どれどれ……」
フゴ!
モノーポリはオークの特徴であるデカい鼻を思いっきり鳴らして、一気に吸い込んだ。
「ぐばぁ!」
盛大に噎せ返るモノーポリ。
香りが強いと言われているのに、その豚や猪の鼻的な大鼻で一気に吸い込めば当然と言えば当然の結果。
「ぶわぁはっはっはっは!」
龍海たちはその滑稽さに、思わず大笑いしてしまった。ロイやイーミュウたちも、このスコッチの香りの強さは既に知っていたので余計である。
「ぶふぉ! げヴぉ! 何だこれ! 薬草煎じて焦がしたみたいな臭いじゃねーか!」
「だから言っただろう? 強烈だってさぁ~」
「ぼふぉ! けほ! けほ!」
さらにシステ側でも同様の反応。
システがナプキンで鼻と口周りを押さえて激しく咳込んだ。
「そ、想像以上だなこれは! 異世界人は、こんなものを平気で飲んでいるのか!?」
「う~む、確かに余もこんな酒は初めてだな~」
二人の反応を見て、手でグラスを煽って香りを徐々に試したフェアーライトとリバァはむせるようなことは避けられたようだ。
「宰相もモノーポリ閣下も、鼻が利きすぎるのも善し悪しですね~」
ここぞとばかりにリバァも二人をイジる。
「香りは強いけど、味の方は結構深いぜ? 鼻摘んででもいいから一口試してみなよ?」
「魔王ともあろうものが酒如きに怯むとは思えんしの~」
カレンが煽る煽る。
「ふん! 人間如きが飲めるもん、どうって事は無いわ! んぐ!」
カレンの挑発に乗せられ、モノーポリは一気にグラスを煽った。
「ぐほぉ……!」
1,2度しゃっくり上げるモノーポリであったが、見事に飲み干した。
「うほっ、香りが喉から鼻へ逆流しおるわ! く~。む? いやしかし、なるほど強烈な香りの中に何と言うか心地よい甘みも感じるな。オーバハイムんとこの海の近くで作っとる酒に似とるかな?」
「うん、確かに臭いはキツイが……味そのものは悪くないな。しかしこの香りは……」
フェアーライトもなんだか困り眉毛。
「はっはっは~、我もこの香りには参ったがなぁ~。慣れれば悪くない飲み味ぞ? しかしまあ口直しは必要じゃな。タツミぃ、アレ出せ、アレ!」




