状況の人、収監中5
「……話を戻そう。で、その今回のテロを画策したと思われる勢力だが……」
「あぶり出せってんなら早速かかるが?」
「いや、今は様子見で行ってくれ。もちろん内偵は進めて貰っても構わん」
「泳がせるのか?」
「陛下は、それをお望みだ」
モノーポリの目がピクッと動いた。
「そうか。では、陛下の御意のままに……」
「うむ、よろしく頼む。で、更に陛下とも繋がりのある話なのだが……」
「まだあるのかよ? 二つじゃなかったのか?」
「二、三確認したいと言ったであろうが。でな、最近貴公の領内ではアデリアとの間で官民問わず、何か問題は起こっておるか?」
「アデリアとか? そうだなぁ、国境付近での狩場のトラブルは相変わらずだがなぁ。人死にまで発展するなんてこた、そうはねぇはずだが?」
「外交部が、アデリアとの定期交渉で国境付近での失踪事件が後を絶たないとの案件が提示されている。陛下はこれに憂慮されておられる」
「奴隷売買の件か? 身売りはともかく一応、拉致・誘拐による売買はやめろとは通達してんだがな」
「身代金要らずの拉致はヤクザ共にはおいしかろうな」
「陛下の御意向はもちろん承知しとる! しかし労働力の確保という観点からも奴隷制は我が地方には根付いておるし、ちゃんと奴隷の衣食住の確保、労働環境の状態にも目を光らせてんだ! シーエスの一部の性倒錯野郎みたく、性奴隷を玩具にするような真似はしてねぇぞ!」
「目が行き届いておるなら良いが……重ねて言うが陛下はすべての奴隷制を無くすことを望んでおられるのだしな」
「すぐに、と言う訳には行かねぇのはさっき話した通りだ。時間はかかるが、必ず陛下の御意に沿う様にするつもりなのは誓って嘘じゃねぇ」
「期待したいところだが……道々小耳に挿んだのだが、ミニモ市の奴隷業者間で大掛かりな抗争が有ったそうだな?」
「抗争? そんな噂が流れてんのか?」
「そう言った事案は治安にも悪影響なのは言うまでもなかろう?」
「治安云々は……まあ面目次第もねぇがその噂、抗争と言うにはちょっと違うぜ? 実際は売られた小娘めぐっての奪還騒ぎだとの報告を受けとるんだがな。とにかく殴り込んできた自称アデリアの連中以外、業者も仲介屋も重傷者だらけでよ。まともな取り調べは明日からになるんだが」
「アデリアの? そんな大人数でアデリアから乗り込んできたのか?」
「いや、それが5人組の冒険者パーティでな? しかも、その中の女2人が攫われたらしいってんでよぉ。だから実際はたった3人で仕掛けたってぇ報告もあってなぁ。さすがに首傾げてんだけどよぉ?」
「5人? 5人か……?」
「ん? どうかしたか?」
「閣下! 捕縛したのは6人でございますよ?」
モノーポリの侍従が注進。
「あ? ミニモからは5人組の内の3人が殴り込んだ、と報告して来たんじゃねぇのか?」
「はあ、しかし現場で機動遊撃隊と騎馬隊が確保したのは自称アデリア人6名、仲介屋2名、が最終報告です」
「そうか、ならば違うか……」
「どうした? 何か気になる事でもあるんか?」
「いや、貴公は聞いた事は無いか? ポリシック領で盗賊団を殲滅した5人組の噂なのだが」
「ん? え? おお、あれか? 人間のくせにとんでもねぇ戦果出したって奴らだな。しかしその連中はもっと北で、確かアデリアのプロフィットで活動しとるらしいって専らだぞ?」
「そうか。まあ今回は6人組の様だから別口かな?」
「何なら見てみるか? 正直、報告だけ聞くと俄かに信じがたいんだけどな? ミニモでは門兵4人含めて20人を薙ぎ倒して、捕縛した現場で確保した仲介屋は男女の2人組なんだが男は重傷で意識不明だし、女は自失状態で話も出来ねぇしよ、ワケ分かんねぇんだ」
「全部で22人ですか! 6人で!?」
「男が意識不明と言うが、ポーションによる治療はしとらんのか?」
「もちろんしたさ。だが、治癒師が言うには妙なケガだって言っててな」
「妙?」
「銅だか、鉛だかの礫が身体の奥深くに潜り込んで骨を粉砕してるんだそうでな? で、それを取らねぇと化膿しちまうってんで傷口を広げて取り出さなくちゃならなくてよ。強めの薬で眠らせねぇといけなくてなぁ。まあ、しばらく眼ェ覚まさねえだろな」
傷口を広げる……の辺りでリバァは足の指先が痺れて来そうな感覚に襲われた。その場を想像するだけで痛い。
「せ、正当性が無ければ間違いなく死刑ですね」
「正当性もクソも、よそから殴り込んで好き勝手されちゃあこっちのメンツは丸潰れだ。その場で処刑でもよかったんだが、もしもバックが居るなら突き止めねぇとな。アンドロウムやポータリアの工作って線も考慮に入れねぇと」
「で、明日から拷問……いや尋問か」
「おめぇ今、わざと間違えただろ?」
――果たして間違っているかしら?
「リバアー! てめぇ『間違っているかしら?』とか思っただろ!?」
「い、いえいえ、そんなことは! (変なとこで勘が鋭いわねぇ)」
「おい! 今、『変なところで勘が鋭いな』とか思っただろ!? 思ったよな!?」
「ああもう、そのへんで勘弁してやってくれ。ところでホントにその者たち、見せて貰えるのか? 一応、参考までにどんな手合いか拝見したいところだが」
「おう、いいぞ。戻ってくる頃には晩飯の準備も出来てるだろ」
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薬室に装てんする前からコックオフしそうな股間を抱えた龍海であったが、唇を離した後のイノミナがその顔を龍海の胸に埋めて来ると、勝手が変わって来ていた。
その時に龍海の周りを包んだ彼女の温もり、頭髪と吐息の混じった匂いを感じた時、なぜだか昇っていた血がスーッと引いていくのを自覚したのだ。
イノミナの猫耳の先が龍海の鼻先に触れるたび、反射的にピクッ、ピクッと跳ねる動きに可愛らしさ、いとおしさが沸きあがって来るようだった。
――俺、ケモナーだっけ?
二次元で見るケモキャラはデフォルメし放題で、愛らしく描かれてはいるが、これが三次元でリアルに存在していたら、結構不気味さも感じるのでは? とも思っていた龍海だが、なかなかどうして。
イーナやエミもそうだったが、何か別の属性が目覚めて来そうな龍海である。
「気を―付け―!」
不意に番兵の号令が留置所内に響いた。
気を付け! 龍海も在隊中に毎日聞いていた号令である。が、しかしこの発音には特徴があった。
点呼や朝礼、訓練等での整列時の号令とは違う、若干甲高く語尾の伸びが目立つこの発音は高級将校や部隊長、要人などを迎え入れる時などに聞かれる発音だ。
――お偉いさんか?
龍海がそれを連想すると同時に留置所入口で解錠される音が聞こえた。続いて戸が開かれる音。