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状況の人、異世界で無敵勇者(ゲームチェンジャー)を目指す!  作者: 三〇八
状況の人、異世界で無双する
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状況の人、追撃中5

「教えろ! ヤサは知ってるのか!? 手口は!? 夕べ攫われたとしたら、今はどの辺りに居るとかわかるか!?」

 龍海が両手で思いっ切りイノミナのシャツをねじ上げる。

 あまりの勢いにシャツがはだけそうだ。

「お、落ち着けよ、旦那ぁ! ちょ、見える! ポロリと行っちゃうぅ!」

「金なら払う! 言え!」

「え? あたしの胸、値段付くの?」

「そうじゃねぇ! マティだ、マティの事だ!」

「お、おおお落ち着いてってば! 話せば長くなるからさ。とにかくここにいちゃマズいよ、次は警衛隊とやり合う事になっちゃうよ!」

「う……」

 警衛隊と交戦。

 新しい状況に龍海の脳が一部、リフレッシュされる。

「タツミ? 猫娘の言う通りぞ。こやつが何か知っておるなら、この場でなくともよかろう?」

 龍海は深く息を吸った。

 少しのあいだ頭に血を巡らせた後、

「おい!」

さっきのオーガに近寄り、傷口にポーションを振りかけた。

「う!」

 ポーションは即座にキズに浸透し泡に包まれていく。痛みも幾分引いたか、オーガの呼吸も落ち着いてきた。

 龍海はそのオーガの手元に、再現したポーションを十数本転がした。

「息のある奴にはそれを振り掛けてやれ。運が良ければ永らえるだろ」

 オーガは返事は出来なかったが、首を小刻みに縦に振った。朝日に反射するポーションの輝きが、まるで死から逃れられる光の如くオーガの眼には映った。了承する選択肢以外は有り得まい。

「よし、撤収しよう。イノミナ、付いてきてくれるな?」

「うん、例の調査も報告したいしね。でも大丈夫かな? 追手に騎馬隊とか出てきたら馬無しじゃすぐに追いつかれて……」

「その辺は気にするな。よし、正門に向かうぞ」

 龍海らは全力でその場を撤収した。


                  ♦


「ああ、やれやれ。そろそろ下番だな」

 龍海らを取り調べた正門の検閲兵が、勤務明けを前にして両腕を上げて大きく伸びをした。

「班長、休務明けしたらどうします? 一杯行きますか?」

「いや~、今日はやめとくわ。先週賭場で大負けしちまってよぉ」

 実はこの班長さん、さっきの賄賂で何とかツケが返せそうなのであったと言う。

「ありゃりゃ~。バクチなんてトータルじゃ負けるのが相場っすよ。これに懲りて……ん?」

 伝令! 伝令ー!

 そんな部下との雑談中、中央部方面から伝令兵が馬で走ってきた。

「本部より伝令! 市の東側倉庫街付近で死傷者多数の抗争らしき騒乱発生。一部の者が逃亡中につき、警戒せよとの達しです!」

 馬から降りると、伝令兵は手短に内容を通達した。

「騒乱? そういやなんかパンパンと妙な音が響いとったが……ん? 東の倉庫街?」

 班長は嫌な胸騒ぎに襲われた。

「その逃亡した者って言うのは?」

「自分は本部から直接来ましたので詳しくは……」

「そ、そうか」

 まだそうと決まったわけでは無いが、あまりにもタイミングが良すぎる。

 などと逡巡していると、

「班長、4人ほどこちらに走って来ますよ!」

部下の一人が東を指さして叫んだ。

 ――4人? さっきの連中は3人で……

 別口か? と、少しホッとしながら、班長は部下の指さす方角を見た。

 確かに4人の男女がこちらに向かって全力疾走している。

 その先頭は……

「あ、あれは!」

 ホッとした心臓がでんぐり返った。

 全力疾走でこちらに向かって来る先頭の女、それはあの売られるはずの熟女(ババァ)ではないか! と。


 そう、いち早く突撃してくるのはカレンであった。

 怒りに満ちた彼女の顔は、


”人間とはかくも憎悪に満ちた表情を浮かべられるのであろう、か?”


そんな怨嗟に怨嗟をかけ合わせまくった、正に泣く子も黙るどころか、そのまま神の寵愛を受けて天に召されるのではないか? と思えるほどのトラウマ級と言うのも生温い、狂と凶と恐が重なり合った失禁脱糞待った無しの形相であった。連中は知る由も無いがカレンは人では無いし、古龍の憤怒の表情など思いも及ばないのは已むを得まい。

「だりゃああ!」

 カレンは、まず両手から火弾を放った。

 それは班長の両隣にいた部下たちを伝令兵ともども瞬く間に薙ぎ倒した。続いてそのまま突っ込んだカレンは、一瞬で部下を倒されて呆気に取られている班長のどてっ腹に全速力でドロップキックを食らわせた。

「ぶぎゃぼぉ~!」

 再現不可能な悲鳴をあげながら門外まで吹っ飛ぶ班長。全身のあちこちに打撲、キックを喰らった腹部は鎧が無ければ内臓破裂を起こしていたに違いない。まあそのエネルギーを帳消しにするために、ここまで吹っ飛んできたわけだが。

 しかしこれで終わるはずもない。

 カレンは衝撃で兜が飛んだ班長の両耳を掴んで立ち上がらせ、

「熟女の何が悪いんかぁー!」

叫びながら両手に念を込めた。

「うぎゃあー!」

 カレンの両手から薄いが頭皮全体を覆うような平たい炎が湧き上がり、班長の頭髪を瞬く間に覆っていった。髪の毛が焼ける悪臭が、周りに一気に立ち込める。

「我が熟女しとって、おどれに何か迷惑かけたかぁー!」

「はが! はががぁー!」

 炎は髪の毛を灰に変え、毛根までも焼き尽くした後、彼女の手の中に戻って行く。そして、

「貴様に女を愛でる資格などない! 明日の朝から二度と()()なくしてくれるわー!」

最後の〆はカレン全力の股間蹴りであった。


                 ♦


「ほれ、カレン。イヤな思いさせたのと協力のお礼だ」

 龍海はカレンお気に入りのビール、それも2lサイズの、樽と言っていいジョッキのような取っ手付きのデカい缶ビールを再現して渡した。

「ぬおおおお! なんと! こんなサイズまで有ったのか! こりゃ飲みでが有るわ! うむ、早速……!」

 ごきゅ、ごきゅ、ごきゅ、ごきゅ~!

「ぷはー! くう~! 五臓六腑に染み渡るとは正にこの事! 正に至高! うん、たまらん!」

 言ってしまえば、単にサイズが大きくなっただけで、中身は変わらんはずなのにな……と思う龍海ではあったが、彼女は大変喜んでいるわけで野暮な事は言いっこなし。

「で、連中はここいらでこの街道と合流するのかイノミナ?」

「ぅおええぇえ~……」

 ジープでの走行中、龍海は、イノミナからマティのやり口の説明を受けていた。

 マティらは馬車一台がやっと通れるくらいの裏街道を利用し、追手が龍海らと同様ミニモ市で捜索している間にエームス市を目指す、と言うのが最近の奴らのやり口なのだとか。

 で、今待機しているのが裏街道からエームス市へ繋がる本街道との合流地点付近なのである。

 イノミナの情報から予測するに、連中はミニモ市手前の農村で追手をやり過ごしつつ夜明けまで潜み、追手がミニモ市で情報を集めている間に裏街道を抜けてエームスへ先回りして獲物を売りに出す、そんな手はずのようだ。

 と、教えてくれたのはいいが、イノミナはジープの激しい上下動にすっかり酔ってしまったらしい。

「遅いかもしれんが、一応酔い止めの薬飲むか?」

 それともポーションの方が効くだろうか? この辺の情報はまだよくわからない。

「ありがと旦那、頂くよ……」

 イノミナは渡された酔い止めの薬を煽った。

 ――さて……

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