玉
兄と妹の思い出。
加奈子と7歳年上の兄、俊介は仲が良い。
その日は加奈子が12歳、兄が19歳になったばかりの時であった。
その日、加奈子は兄に文句を言っていた。
兄は全部、真剣に真面目にうんうん、と聞いていた。
俊介は人の話を、例え人がとても怒っていても最後まできっちり聞く。
うんうん、と彼は聞いていた。
が、加奈子はまた気付いた。
兄のパンツの中から、玉が出ていたのである。
普通なら「玉出てるよ」と指摘出来るが、
その時はとても殺伐とした雰囲気で、シリアスな場面であったので、
間違ってもそんなことは言えない。
そして文句を言っているのだがら、そんな状態で「玉見せないでよ!」
なんて言ったら「何ふざけているんだ」とか「怒りすぎだろう」と相手は思ってしまう。
文句を言っている時にそんなことを言うのは、
とにかく相手にダメージを与えたい時であろう。普通は。
普通はそうだ。
しかし事実本当に困っていることで
特に怒りが暴走したがゆえの追撃などではないのだ。
・・・そんなことがもう2年くらい続いているのである。
とうとう、加奈子は言ってしまった。玉見せないでと
案の定、「ハァ?怒りすぎだろう」という顔をする兄だ。
真剣な場で、何故そんなことを言う、と。
少し怒りすぎなのではないか、と。
少し呆れた顔をした。
加奈子はその反応になるのをもちろん分かっていたので、
心の中で大きなため息をついた。
少し経ち、加奈子は白状した。
丁寧に説明をした。
自分が怒ってる時に限って玉が見えてると。
たまたま、少し見えていたのではなく、
あからさまにじっとこっちを見ているくらいの勢いで、
顔が見えていて、
「何かお困りですか?」と言っているようであった、
そんな感じだったと。
兄はものすごくびっくりしていた。
全然知らなかった、どうして指摘してくれなかったのか、と加奈子に言ったが、
「そんなこと失礼だからとても言えなかった」
「時に殺伐としていない場で言おうと思ったが、その時は忘れてしまう」
などと答えた。
「・・・2年間も我慢させていたなんて。
ただの莫迦じゃん私」
兄はパンツを下ろし、玉たちを見ていた。
利き腕というものがある。
右利き、左利き、とかそういうものだ。
目、とか鼻とか脚とか・・・
或いは内臓で言えば肺とか。
人間は「ふたつの同じものが並んで出来ている」という部分が多い。
男性は女性と違い、玉がふたつあるが、
そこにも同様に「利き玉」というものがある。
右利きならたいていは右側が利き玉だ。
水平に立った状態で、少し下に下がっている方が利き玉である。
利き玉側(兄から見て右)が見ていたのかとかどうでもいいことを気にする兄だったが、
こんなことがもうないように、と違う下着を買ってくることになった。
加奈子はてっきり、膝まである、長い下着を買ってくるのかと思ったが、
ピッチリした下着を買ってきていて、
ああ、それだけ申し訳ないと思ったのだなぁと思いつつも
「それだと兄弟たち(メイン玉とサブ玉)の形がくっきり出てしまって、
みとっもない」
と文句を言う彼女。
数年後ー・・・
彼女はそのことをぼんやりと思い出し、インターネットの日記に書き込もうと思った。
あの時、何て言っていただろう。
「何かお困りですか?」
だっただろうか?
もしかして「あの、、もう少し抑え気味に話してください」と
ご主人をかばっていたのかもしれない。
或いは「これは、聞いた方がいいのかね?」と文豪風に言っていたのかも・・・
そんなことを書く妹。
日本は今日も平和である。