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4. 二度目の告白



……なんということだ。


既読スルーを貫くことを決めた数時間後に、このような事態になろうとは。



夕飯を終え、お風呂を終え、自室に戻る私を待ち受けていたのは、minaからのメッセージ。



思わずおののき、メッセージを開くべきかどうかを決めかねていた時、不意にLINE電話の着信音が鳴って反射的に出てしまったのだ。


相手が誰かも確認せずに。




「は、はい、もしも」


「良かった、出てくれて」



男性の声……



「ど、どちら様ですか?」と、心で声を発しながらも、私は耳からスマホを外して画面を確認する。



私の目に飛び込んできたのは、まさかの、"mina" のアイコン。




「……mi …… あ、えっと。宝生君、ですか?」


「うん」




待って欲しい。心の準備が出来ていない。



「メッセージ送ったけど、一向に既読が付かなかったから。


いきなり電話してごめん。寝てなかった?」




ええ、今はまだ21時。

もう今年で齢19になりますから余裕で起きています。


と、心の中で再び返事をしながらも、



「あ、はい……」



と、現実ではその一言だけで精一杯だった。




「昨日は色々とごめん。会ってちゃんと話したいから、少し時間もらえる?」




……なるほど。

これは白、謝罪の方だ。一気に心が軽くなる。



「そんな、全然気にしてないので大丈夫ですよ。お友達さんにもよろしくお伝え下さい」



「……いや、やっぱり伝わってなかったみたいだ。


天音。メッセージにも書いたけど、もう一度告白やり直させて欲しい」


「……うん?」


「明日の14時頃、駅前のカフェとかで会えたりする?」


「あの、」


「ごめん、強引に決めて。でも、ちゃんとはっきり伝えたい」




……ちょっと待って。

まさか、罰ゲームってまだ続いてる感じ?


もしこれが延長戦続行中なら、いくら私でも人間不信に陥ってしまいそうなのだが。



でも、そんな面倒なことを、本当にこの彼がするだろうか。声を聞く限りではとても誠実そうな人柄に思える。




「明日、待ってるから。もし、都合が悪くなったりしたら連絡して。その時はまた違う日に変えよう。


……じゃあ、おやすみ」




最後には一言も言葉を発せなくなっていた私の代わりに、逃げ道を作ってくれているような、逃してはくれないような、そんな曖昧な言葉の数々を置き土産にしていった "mina" 。


私はどこか現実味を感じられないまま、通話終了のボタンをゆっくりと押した。



「…………まさか、もう一度会うことになるなんて……」




せっかく、中高生活を平和に終えようとしたのに。

最後に一波乱ありそうで、再び胃が痛くなってしまった。






……しかし。

そうは言っても次の日にはちゃんと気持ちを切り替え、私は約束通りに駅前のカフェを訪れた。逃げも隠れもせずに。



私だって、春休みは楽しく過ごしたいのだから。後輩男子に振り回されたまま休みに突入したくない。早々に決着を付けたい。




「いらっしゃいませ。お連れ様が店内でお待ちでしょうか?」



キョロキョロと店の中を見渡していると、店員さんがにっこりと笑顔で声をかけてくれる。



「あ、ええっと……」



「天音!」



だが、店員さんの問いに答える間もなく、自分の名前がカフェスペースから突如として呼ばれた。


窓際の席から一人の男性が立ち上がったので、私もそちらへと視線を向ける。



立っていたのは見慣れた母校の制服を着た、あの時の後輩男子、minaだった。



今日はマスクをしていたようで、彼は少しそれをずらして顔を見せる。



「わあ、彼氏さんですか? すっごくかっこいい方ですね」



悪気のない店員さんがニコニコと微笑みながら、私を席へ案内しようとしてくれた。



「良かった、来てくれて……」



けれど、minaがこちらへと足を運び始めたのが一足早かった。彼は心底ホッとしたように、しかし慌ててこちらへと駆け寄ってくる。



「天音、一昨日はびっくりさせてほんとごめん。


正直、気味悪がられてもう会ってくれなかったらどうしようってマジで焦った」




……駄目だ。早めに見定めたかったのに、まだまだ罰ゲームが続行中なのか、それともやはり、謝罪に来てくれたのか全く分からない。


それに、どちらにしても店内では話しにくい内容だ。


席へと案内しようとしてくれていた店員さんには申し訳ないと思いつつも、私はminaをこのまま店外へと誘うことにした。



「あ、あの。このお店ってテイクアウトも出来るみたいだし、良かったらドリンク持って公園にでも行きません? 今日はお天気もいいですし」



「……敬語」


「え?」


「距離作られてるみたいで嫌だからやめて欲しい」



すると彼は、目を逸らしながらも不満そうに、そんなことを伝えてきた。

……ほんの少し、唇を尖らせて。



(…………え。何、その顔……)




その時、つい先日に言われた友人の言葉を思い出した。



"年下攻め" が流行っている、とな。



その時は何だそれはと思っていたのだが、私は今、唐突にそれを理解することになってしまった。



卒業式の時も、その前日のハンカチ事件の時も、minaの落ち着いた物言いは実年齢よりも遥かに大人びた印象をもたらしていた。



……だがしかし。

今、目の前にいるこの男性は、どこか可愛らしい印象もある。


これが世の女性をキュンとさせている、年下男子の実態なのか。


と、妙に納得してしまった。



「天音? 固まってるけど大丈夫?」



少し首をかしげてくるポーズもあざといな……

とか、納得したところで何にもならない。



私は年下男子の可愛らしさを見定めにやって来た訳ではない。平和な春休みを獲得するため彼の元を訪れたのだ。



「……大丈夫です。あ、じゃなかったね、大丈夫。外、で話したいんだけど、いいかな?」



平静を装いつつそう言うと、



「もちろん」



と、再びホッとしたような、穏やかな笑顔が返ってきた。



私たちのやりとりを一部始終見ていた店員さんも、心なしかminaに見惚れている気がする。



確かに、目の前にいる彼は格好いい。鼻筋の通った、とても綺麗な顔をしている。おまけに背も高い。



しかし、こんなモデルのような子が一つ下の学年にいたなんて全く知らなかった。


ミーハーな友人たちなら、もしかすると知っていたのかもしれないが。




私たち二人は駅からすぐ近くの公園まで足を運んだ。公園は予想通り、この時間帯は人が少なくて話をするのには絶好の場所だった。



ベンチに座り、テイクアウトしたカフェモカで喉を潤しながら、しばしぼうっと景色を堪能する。



公園の植物たちはみな人工的に植えられているものばかりだが、都会は緑が少ないのでそれでもかなり良いマイナスイオン効果がある。




「……天音、あのさ」



自然を満喫していた私の脳内が、突如minaの声によって現実へと引き戻される。



「卒業式の日に、天音に付き合ってって言ったことなんだけど」



そうだ。問題はここからだった。



「ああ、うん! そのことなんだけど、私 あの時全然分かってなくて、何か変な答え方してごめんね。

 

でもあの後すぐに気付いちゃったよ。

ほら、電話でもゲームは終わりにしようって話したでしょ? お友達さんにもちゃんと伝えてくれた?」



少しカマをかけてみる。


さあ、もう何を聞いても怖くはない。ネタばらしでも何でも吐くが良い。



私は彼の先輩なのだから、大海の心で全てを受け止めてみせよう。

と、自称菩薩のような笑顔を作って彼を見やった。


が。



「あーー…… やっぱりそうか。伝わってなかった。


いや、肝心なことを言ってなかった俺が悪いんだけど」



彼はふう、と息を吐きつつ、色素の濃い眼を私へと向ける。



「天音ごめん。これはゲームでも何でもない。


一年以上前から天音のことがずっと好きだった。もちろんガチで。だから卒業式の後、付き合って欲しいって言った」



「…………へ?」



だが、思っていたものとは全く異なる返答に、私の瞳は再び点となる。



「天音のことが、本気で好きだよ」




鈍い私でも同じ言葉を二度連続で言われればさすがに状況を理解する。


……理解したのだが。



「?!!」



それを受信した途端、顔中から火が出るような感覚に襲われしまった。



……いやいや、いやいやいやいやちょっと待って。


何故ド一軍にいそうなこの彼が、私などを?

というか、一年以上前からって一体どういうこと?




「……やばい。今日の天音も安定に可愛すぎて死にそう。俺の告白で顔真っ赤にさせてるとか反則すぎ。


でも、今度はちゃんと伝わって良かった。告んの二回目なのにめっちゃ緊張した」




罰ゲーム続行をやめさせるため、あるいはその謝罪を受けるつもりで出席を決めた此度の会合。


なのに、それは私の予想を遥かに越え、何故か斜め上の方向へと話が進んでしまった。



思考が追いつかず、ダラダラと冷や汗をかき始めた私へ、minaはさらに言葉を紡ぐ。



「あと。天音に "もう一度" 、ちゃんとお礼が言いたかった。


今日はそれも伝えたかったんだ」



minaのその言葉に、私は彼の方へと視線を向けた。



「お、お礼?」


「うん。覚えてないかもだけど、1年の頃に俺、天音に命を助けてもらったことがある。


だから卒業式の前日が初対面なわけじゃない」




さらなる衝撃的な告白。

私が、彼の命を助けた?



「命を……? 宝生くんが、1年の時に?」


「うん、文化祭で」




どこか懐かしげに、minaは私を見て微笑んだ。




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