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3. 真実はスマホから



誠治せいじ、俺たちは付き合ってなかったのか」


「そうなんだ湊。俺はお前とは付き合えない。ごめんな」


「……てめえじゃねえよ」




ここは2年4組の教室。

あと三日で春休みが始まるとあって、クラスはどこかワクワクな空気と少し寂しげな雰囲気が入り混じっている。




「何だ何だ。早速例の告った先輩にでも振られたんか」



友人の誠治がどこか面白がるように、湊にそう問いかけてくる。



「昨日の夜、春休みにデートしようって誘ったら、ゲームはもう終わりにしてくれって返信来た。


ゲームって一体何のことだと思って、わけわからんくて、焦って話そうとして家どこって聞いたら既読スルーされた」



「……お前、家聞くのはナシだろ。向こうはお前のことほぼ何も知らねえんだろ?

俺が女なら普通に怖えわ」



「送った後にやべって思ったわ」



「でも送信取り消す前に読まれちまって、返信なくて今に至る、ってわけだ?」



「何でだ…… 付き合って欲しいって先輩に言って、俺オッケーもらったよな?


……あれ? オッケーもらったか?」



「知らねえよ。というか、その前にちゃんと天音ちゃんに好きだって伝えたんか?


ゲームがどうとかって、それって罰ゲームで後輩男子に揶揄われてるって思われてんじゃね?」



「……マジでそんな気がしてきた。先輩真面目だし。


というか、どさくさに紛れてなに天音ちゃんとか呼んでやがる」



「硬いこと言うな言うな。てか思ったんだけど、天音ちゃんて男と付き合った経験がないんじゃねーか?


だから湊の渾身こんしんの告白も、いまいちピンときてねえんだよ。


そもそもお前の今までの彼女と全然タイプ違うじゃん。なんであの子なの?」



「あほか。死ぬほど可愛いだろうが」



「いや、普通に可愛いし整ってんなとは思うよ、俺もさ。


でも湊がつるんでんのってギャルばっかじゃん?」



「友達だろ、それは」



「……女たちに同情するわ。


で、どうすんだよ? もう3年生は登校しないぞ。天音ちゃんの家だって他の先輩に聞けば分かるかもしれんけど、それをやっちまったらお前はもうストーカー確定だ」



「…………嫌われたくねえ」



「声ちっさw


じゃあまあ、もう一回メッセージ送ってみれば? ゲームじゃありません、一度会って話せませんか?ってな。


断られたら潔く天音ちゃんのことは諦めろ」



「……簡単に言いやがって」



「湊が必死になってんのが新鮮すぎておもろすぎて、逆に応援したくなるわ。


ま、とにかくお前は告白からやり直しだ」



誠治にポンと肩を叩かれたと同時に、教室に担任が入ってきた。湊は仕方なく席へと着く。




(罰ゲームで告白なんかするか。天音って鈍感なんか? いや、そこもめっちゃ可愛いんだけど。


でもまあ俺が悪い。告白の時に必死すぎて、とりあえず付き合って欲しいとは言ったけど、肝心の好きだってことは伝えてなかった気がする。



式の練習の時に天音と話したのだって "一年半ぶり" だった。それに、向こうは俺のこと全然覚えてなかったし)



焦りと、ちょっとしたむなしさを感じながら、湊は空っぽになっている机にスマホを入れて、担任からは見えないようLINEのメッセージをもう一度確認する。



昨日のあれ以降、当然だが天音からの連絡はない。



(これじゃあ本当にただのストーカー野郎だ)




初めて出会ったあの日に、たった一言会話を交わしただけ。



でも、好きになるには十分すぎた。



その日以来ずっと天音のことを目で追っていたが、いかんせん学年が違うのと、自身の、好きな子とは上手くお喋りできない病なるものが発動して、なかなか彼女との接点が持てなかった。



ようやく卒業式が間近に迫り、焦りに焦りまくって交際を申し込んだ結果、やっと、「はい」という二文字の、交際可の返事をもらえたと思っていたのに。




「いや、このままじゃだめだな」


「その通り、宝生。


4月から最高学年の3年だというのに、このままじゃあだめだ。

スマホ没収。帰りに職員室まで取りに来い」



「…………」




いつの間にか隣に来て、湊の握るスマホを指差していた担任の男と目が合う。



と、同時にクラスメイトたちのクスクスと笑い合う声が聞こえてきて、思わず舌打ちしそうになった。



(……クソが。これじゃあ万が一天音から連絡があっても、すぐに返信出ねえじゃねーか!)




「ったく。ほんと、なーにやってんだよ」



目を据わらせている湊の隣席からは、誠治のそんな呆れた声が聞こえてきたのだった。



------




湊からの、今から家に行く発言があった次の日、私はもう一度スマホの画面と睨めっこをしていた。



「 "今すぐそっちに行くから"


うーん、今すぐそっちに行くから?」



ものの数秒で返信をしてきた彼。



「……もしかして、minaさんは私にゲームに巻き込んでごめんなさいって、わざわざ会って謝ろうとしてくれてたのかも」




一日過ぎると少しだけ冷静になれた。


そうだ。彼とて春からは高校最高学年の3年生男児。罰ゲームが達成出来なかったからと言って、お怒りになるような年齢ではないはず。



「もし謝ろうとしてくれてたなら、既読スルーなんかして悪かったかな。


でもまあ、もう会うこともないだろうし、このままそっとしておいても良い、かな」



急に歯切れの悪い物言いになってしまったが、怖いのはこれらが全部私の独り言だということである。




……よし。もう忘れよう。別に好きだと言われたわけではない。


でも、彼の声はどこかで聞いたことがあった気もするのだが、私の気のせいだろうか?



四方八方からさまざまな思考が飛び交っている時に、リビングにいる母親から夕飯が出来たとのお達しがあった。



私はふぅ、と一度小さくため息をついた後、スマホをLINE画面からもとの待受画面へと切り替えた。


そしてそれをベッドサイドに置き、自室を出た。





ピロリン




"天音、昨日は色々とびっくりさせてごめん。

もう一度ちゃんと話がしたいから、近々どこかで待ち合わせ出来ませんか?"




私が自室に戻って驚嘆するのは、あと二時間後のことである。





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