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2. 罰ゲーム中継



世には「年下攻め」という言葉が拡散しているのだそうだ。



卒業式後の、さらに打ち上げの後。私は友人数名と二次会と言う名のお茶会をした時にそのようなことを聞いた。




「あーね。年下くんと付き合うの流行ってるよね。でも私は年上が好きかなぁ。だって、やっぱ包容力が違うと思うんよ」


「あんたは中学の頃も高校生と付き合ったりしてたもんね。今の彼氏は大学生?」


「そう、次4年生の人」


「え?! 三つも年上? どうやって知り合うの?」


「先輩の友達の友達って感じ。先輩のインスタに顔載ってて、紹介してって頼んだの」


「相変わらずの行動力すぎる……」


「だって、そうでもしないと学年違う人とそんなガッツリ絡む機会なくない? 」


「ま、そうだよね。でも私は生身より二次元彼氏の方が好き。二次元だとイケオジからショタまでイケるから」


「やばい子いたわ。ま、人それぞれなんだろうけど……



ところで、天音はどうなの?」




ふむふむと彼女たちのマシンガントークに耳を傾けつつ、ホットカフェモカをちびちび飲んでいた私に、友人の一人が突如話を振ってきた。



「……な、何が?」


「だって、今の今までずーっとダンマリ。卒業式の後、やっぱり何かあったんでしょ?」



……この友人はエスパー?

でも。私の話は二人みたいな薔薇色の恋愛話ではない。

よって、



「と、特に何もないよ」



と答えておいた。しかし。



「うっそだー。打ち上げの時もずっと上の空で、こーんな風に眉間に皺寄せて何か考えてたじゃん」


「あ、でも頬を染めるっていうより、何か頭を抱えてる感じだったよね」


「思った! なになに〜? 誰か意外な人にでも告られたりしたん〜?」



と、鋭い友人たちはニヤニヤとしながらも、なおも私にそう問いかけてくる。


私は少し、小さく息をついた。



「……いや。告白、されてない。うん、されてない」



「じゃあ付き合おうって言われた?」


「?!」




鋭いツッコミをくらい、私は思わず固まってしまった。

が、私のその硬直こそがどうやら答えとなってしまったらしい。



友人たちは互いに顔を見合わせ、私の方へと身体を右から前からと押し寄せてきた。



「え、ええーー! ちょっと、吐け吐け!」


「なんで教えてくれなかったんよ!」



友人たちにガクガクと肩を揺さぶられる私。



「ご、ごめん。でも、私のはそんな良い話じゃないから話すのもどうかと思って……」


「どゆこと?」


「ええっと、罰ゲーム告白? みたいなのされた」


「何それ? 告ってきた本人がそう言ってたの?」


「いや、言ってないよ。言ってないんだけど……


私、その人の名前すら知らないの。話したのも、一、二回くらい」


「え、何それ恐怖。あんま話したことないってことは、別クラの男子? 根暗系?」


「根暗…… ではないと思うよ、多分。2年の子」


「えっ! まさに今流行りの年下クンってこと?! ならいいじゃーん」



……いや、良くないだろう。だって相手は全く接点のなかった、よく知らない後輩男子。


しかもひたすらに地味を貫いてきた私とは正反対の、一軍にいそうなタイプ。


髪は染めてなかったが、耳にはピアスの穴がいくつも開いていた気がする。

もちろん、そんなジロジロ見てはいないので、あくまでイメージに近いのだが。




それに何度も言うが、これは罰ゲームに過ぎないのだ。



「いや、本当にそんなんじゃないんだって。

もう連絡も……」



ピロリン。



「れ、連絡も……?」


「まさか、来たんじゃないの? 確認して確認して」



友人たちに急かされ、私が恐る恐るスマホのLINEを開くと、minaのアイコンに未読1のマークが。



この時の友人たちの盛り上がりときたら言うまでもない。






友人たちと解散し、家に帰ってお風呂に入った後、私は自室でもう一度改めてメッセージを読んだ。



二次会のあの場でメッセージを開けろと言われたが、もし揶揄からかいの言葉や種明かしの文面等が炸裂していたら恥をかくのは私だと友人たちに言い聞かせ、何とか未読のまま家まで持ち込むことに成功した。




( "さっきはありがとう。春休み、どこか遊びに行きませんか?"


…………うーん)



帰宅してすぐにメッセージを読んだが、一時間経過した今もまだ返信は出来ていない。


すでに既読済みにしている文章を、私はもう一度じいっと眺めてみる。



この一文には揶揄いも、種明かしも感じられない。いたって普通の、いや少し硬めのデートのお誘い文だ。



(何て返そう……)



いや。デートへの返信云々よりも。 



(というか、本当にこの子は誰?)



ということは、まずは名前を聞かなければいけないのでは?



私はメッセージ入力欄をタップし、文字を打ち込んでいく。



( "こちらこそありがとうございました。ところで、大変恐縮ではございますがあなたのお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?"


……いやいや、硬すぎる。花の女子大生が送る文面じゃないよね、これ。えっと、お直しお直し……)



あくまで先輩として、部活 (ちなみに書道部)の後輩に送るかのような文章に直した上で、この "minaさん" という後輩男子に返信してみた。



ピロリン。

返信が来るのに数十秒。早い。



(ええっと。


"名乗ってなくてごめん。俺の名前は宝生ほうしょう みなとです"



……あ、minaって、まさか湊のmina?)




何だ。彼女でも何でもなかったのか。


アイコン名にどなたかの女性の名を使っていなかったことに何故だか安堵あんどする。



(いやいや、安堵って何……。そもそも、彼とはお付き合いしていないのに)



だがしかし。

春休みにデートのお誘いを受けたということは、この罰ゲームがまだ続いているということなのだ。



……おいおい。

こちらとて春休みは新生活を始めるに当たって色々と準備したいこともある。ズルズルと後輩たちのゲームに付き合えるほど私だって暇ではない。



ここは年上の威厳を以ってはっきりと断るしかない。


そして、揶揄うことを一緒に楽しんでいたご友人たちにも、私にはバレたから罰ゲームは終了だとお伝えいただかなくては。



私は再び文字を打ち込んでいった。



( "では宝生君、改めて。


春休みにまでゲームを持ち込むのはやめておきませんか?

もう終わりにしましょう。お友達にもよろしくお伝え下さい。


残り一年、素敵な高校生活にして下さいね"



っと。これで良し)




我ながら完璧な文章だ。相変わらず、全然女子大生っぽくはないけど。



もう関わることもないと、アイコンを削除しようとした時、またもやものの数秒でピロリンとメッセージ受信の音がなった。



(罰ゲームすみませんでしたって、返信かな? そうなら良いけど、もしまだ続行しようとしてたら今度こそ無視してアイコン消そう)



ちょっぴり警戒しつつ、私はメッセージ画面をタップする。



( なになに。


"今からすぐそっちに行く。天音の家教えて"


…………って、え?)



だが返信されてきたのは、謝罪文でも続行中を示すメッセージでも何でもなかった。



(い、家を教えろ? 家なんか知ってどうするの?

ハッ。もしや私、ネットに晒される、とか……?



一軍男子の罰ゲームに見事引っかかったくせに、ゲームだと気付いた途端に自分から振る形に持っていこうとする、生意気な先輩の家はここです。


って具合に……?)



思わずライトノベルの題名タイトルみたいなことを思ってしまった私。



取り敢えず、アイコンはまだ消去せずに電源を落としてベッドへと潜り込んだ。

既読にはしてしまったが、正直怖くて返信も消去も出来なかった。



だって、悪い発想しか出てこない。

年上の威厳云々はどこへ行ったのだと言われそうだ。





「……どうしよう。宝生君て子のこと、私めっちゃ怒らせちゃったかも」



一軍の後輩男子、怖すぎる…………




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