それから。
こちらも、再び走り始めました。m(_ _)m
完結を目指します!!
楓視点になります。
「まあ、座ってワシの話を聞いてくれんかの、みんな……」
焼失した寺の本堂とは離れた場所に位置する奥の院──『修練堂』。
会長の所有するこの山頂の敷地内には、幾つかの由緒ある建造物があり、俺たちのいるこの修練堂は火災による被害を免れていた。
あれから、数時間が経ち──、山を覆う樹木の枝葉には沈みかけた夕陽が赤く射し込んでいる。
『修練堂』は、かつて修行僧たちが寝食をともにして過ごしていた場所だ。
だだっ広い畳敷きの大広間には、夢葉の母親と学校から無事帰った妹弟、会長と俺、妖魔側の人間に操られていたご婦人、それから──、
──霊体であるピピ郎と黒音ちゃん、夢葉に風の神の子のヴィシュヌヴァも居た。
会長を前に、みんな、それぞれに座り静かにしていた。
「ママ、怖いよぅ……。これから、どうなるの?」
「大丈夫よ。ママも夢葉お姉ちゃんもお爺ちゃんも、みんな居るから」
小学生の夢葉の妹が畳に座ったまま不安げに、夢葉の母親の顔を覗き込むようにして見つめている。
「お父さんとお婆ちゃんは?」
夢葉の弟が発した言葉に、俺を始め皆の表情が曇る。
妖魔側の人間に会長の寺が襲われた時には、夢葉の父親と祖母は居なかった。そして、今も。
「だ、大丈夫よー! ね、お爺ちゃん?」
「ふむ。その事なんじゃが、夢葉……」
霊体である夢葉がフワリと浮いて、胡座をかいて座る会長のもとに近づいて話し掛けたが、会長は何かを言いかけて口を噤んだ。
「ごめん。なんか、夢葉の家族と関係あるわけ? 席外そっか? 夢葉のお爺ちゃん?」
黒音ちゃんも、霊体である自身の身体をスーッと立ち上がらせて、肩に短く切りそろえられた黒い髪の毛を耳もとで掻き上げながら、会長へと尋ねた。
「むぅ……。すまんが、ママさん。子どもたちを連れて、奥の部屋でお茶菓子でも食べといてくれんかの? どの道、後で説明せねばなるまいが……。夢葉は、ここに残りなさい」
「えー! やだやだ!! 私もジイジのお話聞く!!」
「ぼ、僕も中学生だし、話くらい聞きたい……」
そう言った夢葉の妹と弟の言葉が、俺たちの間に漂う重い空気を揺り動かすように胸に突き刺さった。
視線を畳に落としていた俺も顔を上げ、会長の顔を見つめた。
「なーんだか、重っ苦しい空気ですねー。死人の私には関係ないことですが? 夢葉さんのお父様とお婆様、それと、この度の事件とが何か関係があるのですかね?」
会長の寺に戻ってからは、ピピ郎は何故か本来の吸血鬼風紳士なイケオジ姿に戻っている。
しかし、まさか──、とは想うが、誰もが核心を突いたようなピピ郎の言葉を言えずに、その場に押し黙っていた。
「んー。なんだか、放っておけない感じ? 神の子だからって、何でも僕に出来るワケじゃないけど、出来ることはやらせてもらうよ?」
風の神の子こと、僕っこヴィシュヌヴァがエメラルドグリーンな瞳を瞬きさせて、そう言ったかと思うと──、『修練堂』に柔らかな風がフワリと吹いて、ヴィシュヌヴァの水色にウェーブした髪が穏やかに靡いた。
少しだけ、畳の上に座る俺の額にもヴィシュヌヴァの風が触れて、心地良かった。
「そうじゃの」
重苦しい曇った表情の会長の顔がほんの少し緩み、会長はフーッと息を吐いた。
「実はの……──」
そう言葉を話し始めた会長の横顔を夕闇が照らし──、僧衣を着た会長の座る小さな影が、畳の上へと静かにスーッと伸びていた。