鎮火……!!
─会長視点─
「──……ちゃん? お爺ちゃん!!」
「ふむっ!?」
遠のいっておったワシの意識が蘇り、懐かしい声で、ワシを呼ぶ声がした……──
「ゆ、夢葉……か?」
「お爺ちゃん!!」
ワシが眼を開くと、いつもの夢葉が、ワシの顔を覗き込みながら泣いておる。
「ご、ご婦人と……ママさんが──」
ワシは、床に這いつくばったまま、夢葉へと尋ねようとしたが、その先の言葉が出て来ぬ。
「……ゲホッゲホッ!!」
「!? お、お爺ちゃん!?」
ワシへと再び視線を向けた夢葉が、顔を上げて周囲を見渡す。
「女の人……!? ママっ──!?」
振り返った夢葉が、ワシの前方で倒れているご婦人と、後方で倒れている夢葉のママさんに気づく。
「!? (ママ……!?)」
ワシは、意識を取り戻したが、ご婦人とママさんの容態はどうなのじゃ……?
少しずつじゃが、ワシの呼吸は楽になり……息がしやすくなっておる。
「ママ……──っ!?」
夢葉が立ち上がり、ママさんへと駆け寄る。
気が動転しておる様子じゃ……。
しかしながら、この炎熱の炎の海の最中、ワシの周辺には心地良い風が吹いておるように感じられる。
心なしか、焼け落ちる寺の炎も、徐々に小さくなって来ておるように想えるのじゃが。
後ろで、夢葉とママさんの声がする……。
「ママー!!」
「ゆ、夢葉……」
どうやら、夢葉のママさんも一命を取り留めておる様子じゃ……。
ひとまず、安堵する。
じゃが、ワシの目の前で倒れておるご婦人は……──
(安心してよ……。君の目の前で倒れている女の人でしょ? 君を含めて夢葉ちゃんのママも、僕が治したから)
「む!? だ、誰なのじゃ……!?」
ワシは、つい先程も聴いたような声の主へと、誰もおらぬワシの視界へと向けて、言葉を放った。
ワシの周囲一帯は、目の前のご婦人を除いて、まっ黒焦げになっておるが、次第に火が弱まり小さくなって来ておるように想える……。
「僕だよ?」
「!?」
すると──
ワシの目の前に、人と変わらぬ透けるような白い肌の子どものような二本の素足が現れた。
視線を上へと追って見上げると、エメラルドグリーンの大きな瞳をした少女が、クリンクリンの水色の髪を肩に揺らしながら、ワシを見下ろしておった……。
「か、神……か!?」
ワシは、想わず叫んだ。
(ご、神霊……──)
ワシも直接、目にするのは初めてじゃ。
(な、何という霊気じゃ……)
キラキラと輝き光る凄まじい霊気。
浄霊師とか名を語りながらも、ワシとて一度も、神の姿など視たコトは無い。
せいぜい、神の眷族である精霊止まりじゃ。
ワシの口から想わず出て来てしもうた言葉じゃったが、そんな風にして驚いたワシは、目の前におる神へと、驚嘆の言葉を隠しきれずに叫んでしもうた。
「ん? 神様じゃないよ? 僕は神の子だよ? まだ神様って名乗るコトは許されていないんだ」
「なっ!?」
そうか……。そうじゃった。
巨大画面に楓くんと一緒に映し出されておった子じゃ。
巨大画面は、炎で溶けて消失してしもうとるじゃろうが……。
そうじゃ、楓くんは、無事じゃろうか?
夢葉やワシの目の前におる神の子が、現実世界におると言うコトは、楓くんや黒音ちゃんや吸血鬼くんも、この寺の炎の中におるはずじゃが……──
「そうだね。僕と一緒に帰って来て居るよ? だけど、みんな無事」
「おぉっ!? 百会ご住職っ!? ご無事でシたか!?」
この神の子を名乗る僕っ子な少女の後に、吸血鬼くんが言葉をかぶせるようにして、ワシへと駆け寄り、膝を突いて更に言葉を続けた。
「あ、ヴィシュヌヴァさん? お寺の炎は、だいたいデスが、私の異空間転移魔方陣で吸収消化しつつありマス。お寺が倒壊しても何デスし、百会ご住職には申し訳ないのデスが、一気にやっちゃいマスか?」
「うん。一気にやっちゃってよ? 後々、面倒だし。気になる物とかは、後で君の異空間転移魔方陣から取り出せば良いんじゃないのかな?」
「畏まりました……。では、そのように……」
そんな風にして──
ワシの寺は、一気に消え去ったのじゃ。
ワシら生き残った者たちと、神の子と霊な者たちとを残して……。




