祈るような気持ち……。
─楓視点─
「カハッ!?」
長らく? なのか、異世界の中に潜り込んでいた俺は、機械音声の声とともに、現実世界へと帰還した。
異世界に潜り込んでいたのは、一日にも満たない時間だったように感じられたが、俺の身体はまるで何日もの間、眠っていたかのようにとてつも無く重く、いつものように直ぐには動かせなかった。
(ゴォォオオオ……──)
「な、なんじゃ、コリャァーっ!?」
目が覚めて直ぐに俺の視界へと飛び込んで来たのは、今にも焼け落ちそうな寺の天井。
まだ起きるコトの出来ない俺は、消防士やレスキュー隊員ですら躊躇するほどの炎の世界、火の海に取り囲まれている今の状況が、まったく飲み込め無い。
「なっ!?」
俺は、驚き過ぎて身動きが取れない。
「楓くん? 目が覚めた?」
ようやく聴き慣れた声が、俺の頭の後ろ側から聴こえた。
仰ぎ見ると、黒音ちゃんが俺を心配そうに見つめて、顔を覗き込ませていた。
「く、黒音ちゃん? こ、コレはっ!?」
俺は、直ぐさま、黒音ちゃんへと尋ね返した。
「どうやら、コノお寺。誰かに襲われたみたいね……」
冷静な黒音ちゃんが、周囲を見渡して警戒しながらも俺へと返事を返した。
「ゆ、夢葉は!?」
俺は、一緒に帰還したはずの夢葉の所在が気になり、黒音ちゃんへともう一度、尋ねた。
「会長のところ……。それと、夢葉のママ……」
そう言いかけて、黒音ちゃんが、静かに俺へと返事を返した。
「!?」
そうだ……。
会長の寺が、こんな状態なのに、会長が無事であるはずが無い。
日中は、夢葉の弟も妹も学校で居ない。
会長の息子である叶総理事長も仕事で、たいていは居ない。
夢葉の婆さんも、出張鑑定とかで居なかったはず。
いつも、寺に居るのは、会長と──そう、夢葉のお母さんだけだ……。
(じ、会長……。ゆ、夢葉のお母さん……──)
二人の安否が気になる。
あまりにも絶望的な状況に、一瞬、固まったが──こうもしては居られない……。
俺は、上半身を起こして立ち上がろうとする。
「ダメだよ。楓くん。ココから出ては、イケない……」
静かに……黒音ちゃんの言った言葉が、俺の耳もとに届いた。
「え?」
立ち上がって視ると、俺の周囲──四方に会長の霊石が配置されており、俺を囲むようにして結界が張られている。
「会長……夢葉のお爺さんが、楓くんが異世界の中に入ってる間、守護結界を張ってくれてたんだよ。楓くんの肉体に何かあっては、イケないから……。それに──」
俯いて、そう呟いた黒音ちゃんが顔を上げて、俺の目を見つめて言った。
「この結界は、炎の炎熱や、お寺の損壊からも楓くんを守ってくれる。それに『アノウィルス』からも……」
(あ、アノウィルス……──!?)
どう言うコトだ?
アノウィルス………?
何者かが、寺を襲った時に撒き散らして行ったのか?
「どうやら、そうみたいね……。だから、楓くんは、結界から出てはイケない……」
魂の契約の効果で、俺の心の声を聴いた黒音ちゃんが、そう言った。
「だ、だけど、会長と夢葉のお母さんが……」
「大丈夫だよ。楓くん。ピピ郎が消火活動に、ヴシュヌヴァが救護にあたってるから……──」
そうだ。
ピピ郎……。それに、ヴシュヌヴァも来てくれてたんだ──
(ピピ郎……。ヴシュヌヴァ……。頼む……──)




