結界術式……!!
─会長視点─
(火力ーっ……!!)
ワシは、目の前のコヤツの捻り出した妖力に驚愕する。
「ハッハー!! ビャクエー!! 自慢のお前の寺も、丸焦げだなっ!!」
ワシの視界一帯は、火の海。
じゃが、しかし、ママさんにはワシの『光透玉結界』を施し逃がした。
ワシの寺の周辺は、火の海に包まれておるが、大丈夫。
ワシの結界術式は、目の前のヤツの炎を遮断し、ママさんに生命の危機が訪れるコトは、無い。
しかしながら、ヤツに操られたワシの目の前のコノご婦人。
このままでは、肉体に激しい損傷を負い、生命が危ぶまれる。
(なんとしても、ヤツの術を解かねばならん……──)
幸い、今、寺の本殿にはワシとママさんしかおらん。
夢葉の妹も弟も学校。
ワシの理事長である息子も出張とか言うて、昨日からおらぬ。
婆さんも出張鑑定で寺にはおらぬし、不幸中の幸いと言うコトよの……。
「余裕か? ビャクエ?」
目の前のコヤツが、炎に包まれた熱気の最中、ワシへと問いかける。
とは言っても、ワシも結界術で炎熱は遮断しておるが……。
「なぜ、遠隔操作では無く、直接戦わん?」
ワシは、ヤツへと聴いてみた。
「ハッハー!! 流行りだよ? それに上からのお達しでね? 職場都合ってヤツさ? なにかと身バレすると都合悪いだろ? それにコノ女を人質にすりゃあ、何かと俺に有利に働くってモンさ」
白目を向いたままパクパクと口を開くご婦人を人形のように操りながら、ヤツが語る。この炎の海の中で。
(ヤツに操られたご婦人の身体が持たない……──)
しかしながら、今すぐヤツをワシの結界術で取り囲めば、自暴自棄になったヤツが目の前のご婦人の身体ごと爆発するやも知れぬ。
遠隔操作とは言え、ワシの結界術で捕らえれば、ヤツの意識だけは拘束出来る……が──
「『光透玉結界術』……──」
ワシは、自身を思考反転させ、ヤツを捕らえるのでは無く、ヤツをご婦人の身体の外へと弾き出すコトにした。
(キーン……──)
ヤツに気づかれぬように、取り囲んでおいたワシの結界術式が、操られたご婦人ごとヤツを取り囲む。
「ハッ!! 俺を取り囲んだところで、どうしたいって言うんだ? ビャクエ……?」
「こうするんじゃっ……──!!」
(ギギギギギギ……──)
「ギィァアアアア……──!!」
ワシの『光透玉結界術』にヤツを閉じ込め、操られたご婦人の身体から弾き出す。
申し訳ないのじゃが、操られたご婦人の身体ごとヤツの入り込んだ意識体を締め上げる。
ワシ独自の結界術式が第二段階……。
(『祓魔光輪』……──)
ワシのこしらえた光の輪が、操られたご婦人の身体ごと幾重にも巻きつき、ヤツを締め上げる。
「ぐっ、グオオォォォ……!!」
ヤツの意識体を捕らえるには、更にもう一段落、結界術式が必要。
操られたご婦人の身体からヤツを弾き出したとて、その刹那に直ちに操られたご婦人の身体をワシの結界術式にて守護せねば、またヤツにご婦人が乗っ取られ、操られてしまう。
(ワシの未熟さよ……)
ママさんを逃がす為に結界術式を施し、ワシ自身も生きながらえ、尚かつ目の前の操られたご婦人も救わねばならぬ……──
(コレが、ワシの限界……──)
ワシは、ワシ自身の未熟さを呪い、結界術式の強度を上げる為の霊力を練り上げる。
同じ詠唱士仲間の黒音ちゃんと同じ原理じゃ。
能力の展開のさせ方は違うが、同じ要領じゃ……。ココだけの話……。
「ぐぶっ! ガフッ! ハァハァ……。す、すべてを救えると想うなよ……? ビャクエ……。土産に、人間からもらった『アノウィルス』をこの寺に撒き散らしておいたぜ? 通常の何万倍もの濃度だとよ? ハハ……。コノ女とお前の後ろの女、せいぜい救い切れるか……な? ビャクエ!!」
「!?」
よもや……──とは想ったが、ワシの後ろへと逃げたはずのママさんの動きが……、感じられぬ。
(倒れている……──?)
「ハハ……。そう言うコトだ……。ビャクエ……。次は、お前……だ」
操られたご婦人の身体を借りて、取り憑いていたヤツの意識体が最後にそう言い残して消え去った。
消え去りはしたが、おそらくヤツは上への報告とか言い、さも自慢げに上司とやらに言うのじゃろ……。
ワシこそ倒せなんだが、このワシ、百会の寺に壊滅的なダメージを与えたのだと……──
(ママさん……。ご婦人……)
ワシの目の前と後方で倒れておる二人……。
命よ、間に合うてくれ……。
今、行くでの……──




