妙案と風……。
─黒音視点から楓視点へ─
「んー。困ったねぇー……」
腕組みしながら顔をしかめ、困った表情で立ち尽くしている夢葉。
さっきから、私と夢葉とイケメン吸血鬼なピピ郎は、同じ場所をグルグルと回ってて、全然先に進めてる実感が無い。
よくありがちな地下迷宮のトラップ。
回転床。
通路に結界らしきモノは張られて無いものの、回転する床に素直に乗っては、また地下迷宮の入り口付近にある明るい場所へと出てしまう私たち三人。
回転床に乗らないように、浮遊して飛んだとしても、通路自体が一方通行で先に進めず同じ場所に何度も出てしまう。
何かの仕掛けを解除しないとイケないんだろうけど、地下迷宮攻略が素人すぎる私たち。
私は、この手のゲームは、あんまりしたコト無い。やっぱり苦手だ。
「ピピ郎? なんとか、なんないの?」
私は、異空間転移魔方陣が使えるピピ郎に聴いてみた。
「んー。それがデスねぇ。この地下迷宮自体が結界のようなモノで出来てまして、地下の階層へと異空間転移魔方陣をくぐらせて移動するコトが出来ないのデスねー。無理矢理、貫通させるにしても、今の私の霊力では、どうにも……」
「んー。ピピ郎の異空間魔方陣でも無理かー……」
「申し訳ありません……。黒音さん。攫われたのが一瞬の出来事で、結界も生きてましたし、主楓くんに異空間転移魔方陣でマーキングする余裕が無かったのデス。もし、主楓くんにマーキング出来てマシたなら、現在位置情報を特定し、追跡するコトも可能でしたが……」
「あ! それっ……!!」
夢葉が、「たゆん──」と胸を揺らして、声を上げて何か気づいたみたいだ。
そう。私もピンと来た。
「「 『魂の契約』……!! 」」
私と夢葉が、顔を見合わせて同時に叫んだ。
「黒音!! 楓との魂の契約なら、どんな力も寄せ付けない!!」
「そうだね。夢葉。楓くんとの魂の契約は、いかなる力の干渉もキャンセルする」
そう……。
私と夢葉は、楓くんとの『魂の契約』をしてるから、瞬時に楓くんのもとへと飛ぶコトが出来る。
なんなら、楓くんの身体の中から出入りするコトだって可能だ。
私と夢葉の魂の本体は、楓くんの中にあるから。
どれだけ離れてたって、引かれ合う。楓くんと。お互いに。
「じゃ、ピピ郎? 私か夢葉? どっちでも良いけど、どっちかに異空間転移魔方陣をマーキングしといて?」
「ウフフ……。『魂の契約』とは興味深い。黒音さんと夢葉さん、お二人にマーキングさせて頂きマスよ? 不測の事態に備えて……ね?」
「なるほどー。これで、ピピ郎も私と黒音と一緒に行けるねっ!!」
我ながら、妙案だと想う。
ま、夢葉も同時に気づいてたけど。
そう言うワケで、この地下迷宮攻略の突破の糸口をつかんだ私たち。
後は、さっきの声の主……。楓くんを攫ったヤツとどう戦うか?
いや、最悪、楓くんさえ取り戻せれば良い。
なんせ、相手は『神レベル』だから──
☆◇♡♤♧☆
「んじゃ、何して遊んでくれるのー?」
まだ、年の端も行かない中学一年生くらいの女の子なヴィシュヌヴァが、エメラルドグリーンの瞳をキラキラと光輝かせながら俺に言う……。
クリンクリンの大きな瞳で、クリンクリンにウェーブした水色の髪の毛が、ヴィシュヌヴァの肩のあたりで揺れている。
「んー。そうだな……」
修行しに来たとは言え、ヴィシュヌヴァにいきなり、ぶっ飛ばされたりするのはゴメンだ。困る。
下手すりゃ、一撃で、霊的体力が0(ゼロ)になって現実世界に強制送還だ。
まだ、夢葉や黒音ちゃん、ピピ郎とも会えてないし。
俺のコト探したまんま、三人をこの地下迷宮に留まらせるワケにはいかない。
俺が、アゴ髭を触りながら考えあぐねていると、ヴィシュヌヴァが何かを思いついたように、叫んだ。
「あー!! さっきの僕のお臍を、コショコショするヤツやってよー?」
「お臍をコショコショ……? いつ俺がお前をコソばしたよ?」
「アハ!! そっかー。楓は、分かんないんだねー? さっき楓が通った結界は、僕のお臍みたいなもんだよー? あの時みたいにさ? ね?」
可愛いらしく、ヴィシュヌヴァが俺の目を見てウインクする。
いつの間にか俺の名前の呼び方が、楓くんから楓に変わってるし。
親しみを覚えてくれたのか?
コイツが、中学一年生な女子でなけりゃ……なんて想うが、まだ俺の趣味じゃない。
夢葉と黒音ちゃんには、誤解の無いように再会した時に強く言っておこうと想う。
「こ、こうか……?」
俺は、ヴィシュヌヴァの臍のあたりをコショコショとする。
「アッハー!! やめてやめてやめて!! あー!! くすぐったい!! もー、楓のエッチー!!」
な、なんだ?
俺は、エッチーなコトなど、ひとつもして無いのだが?
それに、ヴィシュヌヴァは、この俺の「くすぐり」の遊びに夢中で、俺の心の中までは把握しきれていない様子だ。
それに、「エッチー!!」って……。神様の子どもでも、そんな言葉知っているんだな……。
「キャー!! もう!! ダーメっ!!」
ヴィシュヌヴァが、そう叫んだ瞬時──
竜巻のような強烈な突風が吹き荒れ……。
俺は見事にヴィシュヌヴァに、ぶっ飛ばされた。