黒音……。
─黒音視点─
(アハ! アハハ!! お臍くすぐったいよー!! もう無理!! もう我慢出来ない!! それに君のその姿!! あー参った……)
突然、空に響き渡る大きな声。
一体、誰の声なのか?
不審に想った私と夢葉とピピ郎が、一瞬身構える。
「誰っ!? 誰なの!?」
職業が気闘士な夢葉が、紅い金色の闘気を全身に纏いながら、そう叫んだ。
けど、何となく夢葉も直感してる。
たぶんだけど、この声の主は……。
「フフフ……。おいでなさいまシたかね?」
イケメン吸血鬼なピピ郎が、魔法幻術師らしく、地面に光り輝く異空間魔方陣を瞬時に描き、ズブズブと異空間魔方陣を通して地面の中へと潜り込んでゆく。
「姿をみせてくれないかしらー? 余裕そうだけど、ビジュアル的には、ひょっとして自信ないのかなー?」
私は空に向かって叫び、声の主を挑発する。
私も黒呪詠唱士として、心の中で詠唱に入る。
大丈夫。レベルは上がっている。
ピピ郎と闘った時みたいに、呪いでスタミナ切れなんてコトにはならない。
大技に頼らず、私が呪いをコントロール出来る範囲で常に小さく放てば、魂への負担は少ないはず。
それに……。
ここは、霊気が濃い。浮遊している魂の数だって多い。
つまり、呪いへと力を変換させれば、それだけ爆発的な威力を増す。
けど、ソレと同時に私への呪いの負荷が掛かりすぎて、一人で受け負い切れなくなって私は消滅する。
以前の私なら、たぶん、そうなっただろう……。
けど、ここは異世界の中。
いくら呪いの力を使ったところで、私が消滅したりなんてしない。現実世界に強制送還されるだけ。
それに試したいコトもある……。
「魔弾丸願魔弾の射手は弾き手が語る刹那の夜に貫く想い夜毎に参る蒼穹の果てに想いは果てぬ星降る闇夜に光は翔る炎の螺旋に日の出が参る──魔弾丸願……」
繰り返し重複して唱え、心の中で呪いの力……あるいは私の願いの力? とでも言うのだろうか?
呪文を言の葉にのせるたびに大きな霊力の増幅を感じる……。
イメージ……。
言の葉によるイメージの増幅は大事だ。霊力が増す。
次第に、私の心の声が大きくなり言の葉による霊力の塊が、前方に突き出した私の両の手のひらに赤い輝きをもって集束されてゆく。
(へっへっへー。コッチだよー? 楓くんて言うのかな? 君たちの楓くんは、もーらった!!)
声の主が、透明な空気の風を纏い、結界の向こう側にいる目の前の楓くんを一瞬にして攫った……。
「か、楓ー!!」
「ふぉごっ!? ふぉごもももっ!?」
素早く結界へと駆け寄ろうとした夢葉が叫んだ後には、結界の暗闇の向こう側で響いた楓くんの口をおさえられたような声だけが残った──
声の主……相手の姿は、光の屈折を利用しているのか、透明な空気の風を纏った透明人間のように視えた……。
身長はまだ小さい。
話し口調からも分かるように幼くて、だいたい中学一年生くらいの姿だろうか?
性別までは分からない。
(とにかく、楓くんの後を追わなきゃ……)
私の詠唱による霊力の増幅を感じたのか、夢葉が私へと振り向き様に猫のように飛び仰け反り、後方へと回転して結界から距離をとり着地する。
今なら、楓くんも夢葉も私の増幅した霊力の巻き添えを喰わない。
ピピ郎は、地面の中だし……。
「喰らえっ!! 『魔界流星連射光』ーっ!!」
(ズガガガガガ……!!ズゴゴゴゴゴ──!!)
私の前方に突き出した両の手のひらの前で、幾つもの星に似たような光の塊が、銀河のように無数に渦巻き──目の前の巨大神像の結界めがけて撃ち出されてゆく……。
(ズガガガガガ……!!ズゴゴゴゴゴ──!!)
火の玉のような流星群と言うべき光が、ひとつひとつ隕石のように炎を纏い私の両の手のひらから撃ち出されて、巨大神像もろとも破壊してゆく。
尚も終わらない私の呪文詠唱による霊力攻撃。
たぶん、楓くんは、さっきの子どもみたいな透明人間に攫われて破壊の影響は受けていないはず。
おそらく、相手は楓くんとともに地下迷宮へと潜り込み、姿を隠している……。透明人間みたいに。
私が試したかったコト。
それは、この技が一つと、もう一つ……。
大きすぎる呪いの力を、私が受け負うのではなく、地面へと受け流すコトだ。
(ズガガガガガ……!!ズゴゴゴゴゴ──!!)
受け流した後、大きすぎる呪いの力をさらに私へと循環させて霊力を無限に回し続ける。半永久的に。
けれど、霊力の貯めが大きく時間も必要だ。
私も霊力詠唱している間は、隙だらけで無防備だ。
だからこそ、私と楓くんと夢葉とピピ郎の四人の結束力が必要なんだ。
(ズガガガガガ……!!ズゴゴゴゴゴ──!!)
土埃と砂煙を上げて、私の目の前の景色が、まるで煙幕を張ったかのようにしてモクモクと視え無い。
「そろそろ、良いかしら……?」
破壊の手応えが無くなったので、呪文詠唱による霊力攻撃を止める。
次第に、煙幕が姿を消して……砕け散った巨大神像の瓦礫の中に、一つの階段のような入り口が露わになった。
さっきまでの結界の霊力は感じない。
たぶん、相手も誘ってる。
「く、黒音……──」
夢葉が、目の前の光景に目を丸くして驚いている。
それは、そうだ。
夢葉にも楓くんにも秘密にしてたから。
「な、何という凄まじい破壊力……デスね?」
異空間魔方陣を描き、地面の中へと待機していたイケメン吸血鬼なピピ郎が地上に現れ、開口一番そう言った。
流石に驚きを隠し切れていない。
「さ、行こっか?」
私は、先陣を切って歩く。
楓くんを助けに──




