『キュン』……。
─黒音視点─
「見なよ……。ココ。完全には開かなかったけど、開いた穴が塞がりかけてる……」
ゆっくりと立ち上がった楓くんが、巨大神像の臍の空洞へと近づき、開きかけた結界に手を触れている。
「夢葉。ありがとう。何か、突破口みたいなのが、開けたよ?」
「楓……。ありがと。そう言ってくれると嬉しいんだけど、一発じゃ開かなかった……」
楓くんが、閉じかけてる結界の穴へとズブズブと右手を突っ込みながら、夢葉に声を掛けた。
夢葉は、一撃で結界を破れなかったコトを気にしているのか、納得が行かない様子だ。夢葉の悔しい感じが伝わる。
結界の穴へと、楓くんがズブズブ右手を突っ込んでいる間は、修復の途中なのか、弾いたり吹き飛ばしたりするような効果が、結界には見られなかった。
「楓くん? これって、好機じゃない?」
「だね? 黒音ちゃん。 閉じちゃう前に……な、ん、とか、シないとっ!!」
私に、そう言った楓くんが結界の中へと潜り込むようにして身を乗り出し、息を止めるようにして透明なゼリー状の結界の中へと尚も潜り込んだ。
「ふぉごっ!? ふぉごぉもももっ!?」
透明なゼリー状の結界の中へと、潜り込んだ楓くん……。
既に上半身が結界の中へと埋まってて、楓くんは、お尻だけ突き出している格好だ。
途中で息が続かなくなったのか、楓くんが必死でもがいて苦しんでいる。
楓くんも『幽体』だから、呼吸なんて関係ないはずなんだけどなー……?
いや。結界の中は特殊で、結界に入ろうとする侵入者を弾くような効果が、楓くんを苦しめているのかも知れない。
まるで、現実世界で水の中に閉じこめられたかのように……。
(あぁ……。楓くん……。苦しそう。だけど、なんか、好きっ!!)
透明なゼリー状の結界の中で、必死にもがく楓くんの姿を見て、私の胸のキュンキュンが止まらない……。
なんか、お臍の下のあたりまで、キュンキュンする……。
「ぬぉっ!? 主っ!! 楓くん、大丈夫デスかっ!? 素晴らしいっ!! 見事な足掻きっぷり!! まさに、芸術!! 無様な格好デスが、男前すぎるほど男気を感じマスっ!!」
イケメン吸血鬼なピピ郎の芸術的な感性にも火をつけたのか、楓くんのこの必死すぎる姿に刺激され、私の心と同様に感嘆の声が止まらないピピ郎。
楓くんの苦しみが私の心を直接的に貫き、格好はともかく、それでも勇者としてもがく楓くんの躍動的な姿が、快感の渦となって私の魂に激しく押し寄せて来た。
「あぁ……。楓くん……。たまらない」
私が小さくそう呟いてしまった後、夢葉の声が私の頭の後ろから聴こえた。
「頑張れーっ!! 楓っ!! 頑張れーっ!! 力の限りっ!! 全力だよっ!! 突き抜けて!! 楓っ!!」
私の心も突き抜けてしまいそうだ……。楓くんのこの必死すぎる姿に。
さっき、上半身まで透明なゼリー状の結界の中へと潜り込ませていた楓くんは、ついに結界の中へとお尻を納めて──水中をスローモーションで歩きながら泳ぐような姿で、結界の中を尚も突き進んでいた……。
「ふぉごっ!! ふぉもももっ、が!!」
(バシャッ……!!)
ついに、必死でもがいていた楓くんが、結界の向こう側へと弾かれるようにして、飛び出た。
「ハァ、ハァ……。ぐっ、苦じい……」
「ぬおっふぉっ!! 主!! 楓くん!! これは素晴らしい!! 感動致しマシたよっ!! お見事デス!!」
「ヤッター!! 楓っ!! おめでとー!!」
飛び跳ねて喜ぶ夢葉が、イケメン吸血鬼なピピ郎とハイタッチを交わす。
「イェイ!!」
「ヤリマシタネー!!」
(パーン……!!)
巨大神像のこの臍の空洞にある入り口の前で、イケメン吸血鬼なピピ郎と夢葉の歓喜の声が天に舞い上がった……。
(フフ……。楓くん……。おめでとう……)
心の中で静かに呟いた私の胸が、「たゆん」と揺れて──
まるで、生きてる時みたいに、私のお腹の下のあたりが「キュンキュン」とした……。




