あきらめない……。
─黒音視点─
「ぐおおぉぉっ……!!」
楓くんが雄叫びを上げながら、50メートル超の巨大神像へと疾走し、私の目の前からグングン遠ざかってゆく。
「待ってー!! 楓、くーん!!」
「楓っ、速いよー!!」
「流石は、主っ!! 我が翼をもってしても追いつけぬっ!!」
私と夢葉とイケメン吸血鬼なピピ郎は、走るコトを諦めて、飛行スタイルに切り換えていた。
長いコト『浮遊霊』やってると、生前みたいに走るよりも、飛ぶ方が速い。
ま、個人差もあるし、慣れもあるけれど。
飛行スタイルに切り換えた私たち三人は、走るよりも10倍は速いスピードで、地面スレスレを飛んだ。
やっぱり、翼を持ってるピピ郎が、一番速い。
続いて、私と夢葉が良い勝負。
土埃を上げて、地面スレスレを飛行して、ようやく楓くんに追いついた。
(ぐぉん……)
「ふぇっ!?」
不気味な音が聴こえて、変な声を上げた楓くんが尻もちをついている。
50メートル超の巨大神像の臍の空洞は、見たところ約2メートル四方程度の高さと幅がある。
全力疾走した楓くんは、そのまま空洞の暗闇の中へと突っ込もうとして、何かに阻まれて弾かれ、吹き飛ばされたみたいだ。
楓くんに追いついた私と夢葉とイケメン吸血鬼なピピ郎が降り立ち、巨大神像の臍の空洞へと近づく。
「なに? このボヨボヨのゼリーみたいな透明な壁?」
私が、巨大神像の入り口と思われる空洞の暗闇へと手をかざすと、何も無いのに透明なゼリーのような弾力性のある壁みたいなのを感じた。
中からはヒンヤリとした冷たい空気と風が吹いて来るのに。
私が、手をかざして透明な壁みたいなのに触れるたび、アルファベットの筆記体のような文字で書かれた円形と星型を組んだ六芒星の魔方陣が現れ、青色から紫色のグラデーションを見せては消えていった。
「んー? 何かの結界……?」
夢葉が、腕組みして首をかしげ、不思議そうに見つめている。
「どうやら、そのようデスね? 私の異空間魔方陣を持ってしても、この結界とやらに弾かれちゃいマスね……」
イケメン吸血鬼なピピ郎の左手のひらから、空洞内部の暗闇へと異空間魔方陣が描かれるも、「バン!」と音を立てて磁石みたいにして、お互いに弾かれ合い消滅する。
「ここは、主……」
ピピ郎が、そう言いかけて、楓くんの方を横目でチラリと見た。
ピピ郎が、楓くんに何かを期待してる。
ここで言う何かって、そりゃあ、もちろん結界破りのコト。
イケメン吸血鬼なピピ郎の異空間魔方陣でも開かなかった結界……。
「うっ……。そ、そんな目で見るなよ……。ピピ郎……」
楓くんが、気まずそうに苦笑いしている……。
「どいてーっ!!」
私と楓くんとピピ郎の後ろから、夢葉の叫び声が聴こえた。
私が、夢葉の声の方に振り向くと、夢葉が紅く金色に燃える闘気を左の拳に纏わせて、助走をつけてコッチに向かって走って来る。
「雷光烈拳ーっ……!!」
(バァァン……!!)
まるで、雷が落ちたかのような衝撃を受け、あたり一面の景色が光り、私と楓くんとピピ郎が吹き飛ばされた。
眩しくて、一瞬、視界が奪われる。
しばらくすると、目が慣れて来て──
私と楓くんとピピ郎の目の前には、左の拳から煙を出している夢葉の姿が視えた。
「ハァ、ハァ……。ダメだ……。開かない……!!」
巨大神像の入り口の空洞の前で、夢葉が悔しそうに立ち尽くしている。
「いかんとも、し難い展開デスねー……? さて、どうしたモノか?」
イケメン吸血鬼なピピ郎が「ククク……」と不敵にも笑い、ムクッと立ち上がった。
「あきらめマスか?」
ピピ郎が振り返り、楓くんへと尋ねた。
「いや……」
楓くんが、ひと言、そう言って──
ゆっくりと立ち上がった……。
(楓くんは、あきらめてない……?)
楓くんには、何か考えがあるんだろうか?
たぶん、私の『殲滅の魔弾丸』でも開かない……。
(楓くん……)
楓くんを見つめながら……。私の胸が、キュンと鳴って「たゆん……」と揺れた──




