照れ隠し……。
─夢葉視点─
「ひぃええっ!! ちょ、コレ!! どうなってんのよっ!?」
黒音が、『守護神』のいる大渓谷を覗き込み驚いている。
それは、そうだ。
さっきまで、見えてた大渓谷が、黒い霧のようなモノで閉ざされ、まったく視えない。視界0(ゼロ)だ。
それに、どう言うワケか、高度まで増している。
さっきまで、小高い丘だったのに。
まるで、切り立った断崖絶壁。
落下すれば、普通に命は無いだろう。
まあ、私たちは、『霊』だから心配ないんだけど。
楓だって、今は『幽体』だ。何の心配も無い。
「んー。拒まれてマスかねぇ? 『守護神』に。今は、こっちに来るなと? それに、『霊』になって間もない方がココから飛び降りるとなると、カナリ勇気いりマスよねぇ。現世の生きてた頃の感覚が、まだお有りでしょうから……」
ピピ郎の意見も、最もだ。
確かに私たちには、何の心配も無い。
飛び降りたって、死にはしない。
けど……。
私の心には好奇心が優先する。
(試されている……?)
なんとなく、呼ばれている気もする。
『守護神』に。
「行こう……!!」
私は、後ろを振り返り、黒音とピピ郎──それに、楓にも言った。
「さ、流石に、マズんじゃないの!? 黒い霧のようなモノも気になるし……。街の方へは、ゆるやかに降りれるみたいだよ?」
楓が、反対方向の街の様子を伺い、戸惑いながらもコチラへとやって来る。
楓は、死んでないから、生きてる感覚そのものしか無い。ここから、飛び降りるのなんて、自殺行為だ。
飛び降りれるワケが無い。
「楓……。楓は、今は『幽体』だよ? 落ちても死なない」
「わ、わ、分かってるよ? 夢葉。けど、身体が、言うこと聴いてくれないんだよー!? ガクガク震えて……」
「バンジージャンプだと想えば良いじゃん? 死なないよ? 楓は」
「バンジー……。ぐっ……!!」
楓の心が、震えている。
けど、そんな臆病者じゃ、これから先……闘えない。
「勇気あるトコみせて欲しいなー? 楓? だって、この『世界』じゃ、浄霊師が勇者でしょ?」
「ゆ、勇気……。勇者……」
そう言った後、楓が黙って俯き……「フルフル」と震えていた。
「もー……。しょうがないなー……」
照れくさいけど……。
私は……。
黒音に先を越された件もあったし……。
「目を閉じて? 楓」
「ん?」
(チュ……)
私は、久しぶりに、楓の口唇へと口吻シた。
胸の鼓動が、止まらない。
私は、『霊』なはずなのに……。
私にすれば、大渓谷に飛び降りるより、楓に口吻する方が、よっぽどバンジージャンプだ……。
「お、オオオオぉぉぉっ……!!」
その時、楓の『霊的体力』と『霊力』が、爆上がりシたように私には感じられた……。
こんなで、楓の『レベル』が上がるくらいなら、いくらでもシてあげるけど……?
「おおっ!?」
ピピ郎が、目を見開いて驚いている。
「ちょ、夢葉っ!?」
いつもは楓に積極的な黒音も流石に驚きを隠せない。
「んふふ……」
照れくさいけど……。
私は、背中の後ろで両手を組んで、照れ隠し。
いや、隠しきれてないか──