『討伐浄霊作戦(グループチームミッション)』……。
─楓視点─
「ワシじゃ!!」
寺の本堂に設置された巨大画面の真っ暗な画面に突然、「ブン……」と音を立てて映し出された巨大な『顔』。
突然の出来事に驚き過ぎて、俺の身体の中から夢葉と黒音ちゃんの二人が、身体を投げ出すようにして「ゴロゴロ」と、寺の本堂の床に転がるようにして出て来た。
「曾祖父ちゃん!!」
夢葉が、両手を突いて、そう叫んだが……。
やはり、何度見ても会長と見分けがつかないほどの瓜二つ。
一卵性双生児なのではないかと思うほど、そっくりだ。
「「 !? 」」
俺と黒音ちゃんは、目を白黒させたまま絶句して言葉が出て来ない。
「ふーむ。このお寺のご住職と、そっくりな吾人ですねー?」
側に偶然居合わせたイケメン吸血鬼な男『アルフォンソ=ピッピストレーロ』が、腕組みして右手でアゴを触りながら話す。
流暢な日本語だ。
俺は、このイケメン吸血鬼な男『アルフォンソ=ピッピストレーロ』を正式な名前で呼べそうにも無いので、心の中で『ピピ郎』と名付けた。
と、そこへ──
この寺の現住職、叶百会会長が、「ガラガラ」と音を立て玄関の扉を開けながら、ちょうど帰宅していた。
「ただいまなのじゃー!!」
御年何歳なのかと思うほどの張りのある声。
奥から、夢葉のお母さんが出迎える。
会長が、帰って来た。
「トテトテ」と、会長が寺の本堂へと、床を歩く音が聞こえる。
「おぉっ!! 親父!!」
「おぉっ!! 我が息子よ!!」
寺の本堂に設置された巨大画面越しに、オンラインで御対面した叶家の曾祖父と祖父。
遠隔とは言え、おそらく、アノ世とコノ世。
(どんだけだ……)
俺は、改めてこの『巨大画面』の不思議さに驚く。
(それにしても……)
会長が、よく寺の本堂で、この『巨大画面』を前にして、何やらゴソゴソしているのを良くみかける。
が、一体、何をしているのか……?
まだ、会長の口からは、詳細が明らかに語られていない。
(確か、ロールプレイングゲームだったよな……?)
俺と夢葉と黒音ちゃんが、霊的に登場人物として接続されているのなら、この『巨大画面』の中で、レベル上げとか戦闘とか、なにがしかの物語が展開されて、武器や防具、魔法にアイテムなんかも購入出来るはずだ。
購入と言えば、お金が必要だが……この『巨大画面』の世界では「通貨」が存在しているのだろうか?
それに、「オンラインゲーム」と言うのならば、複数の『冒険者』たちが存在して居るはず。
「オンラインゲーム」自体に関しては、俺も詳しい事は分からないが……。
会長は、現実世界と、この『巨大画面』の中の『世界』が、「繋がっている」とも言っていた。
「夢葉に黒音ちゃん、それに楓くん! 久しぶりなのじゃ! 帰って来たぞいっ! 吸血鬼くんも元気にしておったかの?」
「これは、これは……。百会ご住職……。ご機嫌麗しゅう御座います……」
イケメン吸血鬼なアレな男……。
『アルフォンソ=ピッピストレーロ』こと『ピピ郎』が、丁寧に会長に頭を下げ、深々とお辞儀をしている。
イタリア系な陽気なイケメン吸血鬼にして、肝心なところでは、品格がある。
日本の文化にも精通しているのだろうか、時と場所をわきまえた礼節に、『ピピ郎』の品の良さを感じる。
心霊廃墟ホテルに引き籠もっていた時とは、別人のような良い『霊気』を放っているのが、驚きだ。
「して、親父。何の用じゃ?」
「ふむ。息子よ。よくぞ、聴いてくれた……。実はな……」
俺と夢葉と黒音ちゃん、それに『ピピ郎』と会長が、揃ったところで、『巨大画面』一杯に映し出された夢葉の曾祖父の顔が、語り出した──
「ふむ。実は『神様』からの『御告げ』での? この度、『討伐浄霊作戦』が展開される事に決まったのじゃ。各依頼先の浄霊師法人団体から、数人一組を選抜して浄霊にあたることになったのじゃよ。総勢、何組にして何名の浄霊師が浄霊にあたるのかは、分からん。単独で参加する者も、おるかもしれん。期限は、10日後じゃ」
(……10日後!? しかも、複数参加!?)
俺は、驚きを隠せない。
それにしても、10日後とは、また切迫詰まった話だ。
俺や夢葉に黒音ちゃんの『霊的なレベル』も、そんなに上がってはいないだろうし、大丈夫なのかと不安になる。
しかしながら、急な展開に驚かされるのは、いつもの事……。
最初の『浄霊指令』も二度目の『浄霊指令』も度肝を抜かれたが、この度の三度目の『浄霊指令』となる『討伐浄霊作戦』は、浄霊師の複数参加。
俺と夢葉と黒音ちゃんだけじゃない。
心強い味方……浄霊師の皆さんが、たくさんいらっしゃる。
それに、イケメン吸血鬼男の『ピピ郎』も居るが、『ピピ郎』は参加するのだろうか?
「ん? どうしました? 楓くん?」
俺が、『ピピ郎』の方を「チラリ」と視ると、『ピピ郎』が聞き返して来た。
「いや……。『ピピ郎』は、どうすんのかな? って……」
「『ピピ郎』? 私のコトですか? 良い名前ですねー!! 気に入りましたよ!! フフフ……。もちろん、私も参加させて頂きます」
(心強い……!!)
俺は内心、そう想った……。思わず、『ピピ郎』と呼んでしまったが……。
『ピピ郎』の『異空間転移操作能力』。
これは、デカい。
数人一組のチームプレイで挑むなら、霊力戦闘でも有利だし、後方支援で回復や回避、いざという時は、即座に逃げ切る事も可能なはずだ。
(これは、イケる……!!)
俺は秘かに、軽く右手でガッツポーズを決めてしまっていた。
ただ、『討伐浄霊作戦』と言うからには、相当な規模のはずだ。
俺の心配や不安は、やはり、拭い去れない。
「アハ! なんか、楽しみだねー? たくさん浄霊師? ってのが来るの? 親睦かねて、たくさん交流したいよねー?」
呑気なもんだ。
黒音ちゃんは、意外に楽観的で、おドジな面がある。
前回も油断して『ピピ郎』の『異空間転移魔方陣』に、引っ掛かってしまっている。
もう少し慎重に……とは想うが、それは俺も同じコト。
(気を引き締めねば……)
俺が、そう想っていると──
「だよねー? 楓! じゃあ、みっちり10日間? しっかり修行しないとねっ!!」
夢葉に、そう言われて……俺の背中が「バチン!」と叩かれた。
「ウッ!?」
思わず声が出た。
修行?
それも、そうだ……。
修行以外にも、相手の『霊』な存在たちに名前を知られないように、工夫しないとイケないし……。
(暗号名? んー……。なんか、スパイとかエージェントみたいだ。カッコイイ……。)
『ピピ郎』も参加する事だし、「暗号名」も決めておいた方が良いと俺は想ったが、やはり、『魂の契約』による夢葉と黒音ちゃんとの意思疎通の強化を図れば、超能力のように会話が出来るはずだ。
会話の内容を相手に悟られ無い。
これは、この度の『討伐浄霊作戦』において、かなりのアドバンテージがあり、霊力戦闘中においても、かなり有利なはずだ。
すると──
夢葉と黒音ちゃんが、俺の方を向き、同時に二人そろって「ウインク」した……。
そして、尚も同時に──
夢葉と黒音ちゃんの大きな両胸が、「たゆん─」と揺れた……。
(しゅ、修行だ……。これは、俺に修行させる気満々の二人の「ウインク」に違い無い……。間違い無い……)
俺も今回ばかりは、夢葉と黒音ちゃんの二人の「ウインク」と胸の「たゆん」な揺れ具合には、ときめかなかった──