『浄霊指令(ミッション完了)』……!!
─楓視点─
(フォン……)
「うぉっ……!!」
俺と夢葉に黒音ちゃん、それに若い女性二人と名も知らないイケメン吸血鬼なアレな男を乗せた『異空間魔方陣』が、地下室から急上昇したかと思うと、いきなり地上に飛び出た──
「な、なんだ……!?」
突然の出来事に俺は驚く。
夢葉も黒音ちゃんも驚いた様子で「たゆん──」と胸を揺らす。
「地上……ぉ?」
黒音ちゃんが、大きな目を見開いて夢葉に言う。
「地上……だね?」
夢葉も黒音ちゃんと顔を見合わせて言う。
「フッフッフ……。さてさて、楓くん? 約束は果たしましたよ? 私を何処へ連れて行ってくれるのかな?」
イケメン吸血鬼なアレな男が、金色の長い髪の毛を掻き上げ、華麗にターンを決めながら言う。
このイケメン吸血鬼な男の霊的なイメージだろうか?
前は、オジサマ風な黒髪オールバックだったのに、若返ったせいか、イケメン金髪ロン毛に仕上がっている。
黒ズボンに、ワイルドに胸の開いた大胆な白カッターシャツ。
口もとには真紅の赤い薔薇が似合いそうだ。
おまけに、透き通るほど色白。
吸血鬼なアレなイメージだからだろうか……。
「この若い二人の女性たちの救助が先だ……」
俺は、自分の身の丈に合わない真面目な台詞を吐く。
「フフフ……。まあ、そうですよね?」
呑気なもんだ。『霊』だからか? 知ったこっちゃあ無いのか? 他人事か?
まあ、『霊』なんて、そんなもんかも知れない。
命の心配など、知る由もがな……。
無責任に彷徨うコノ世の『霊』たち。
と、ここまで言っておいて、俺は前言を撤回する。
何も俺たちとは変わらない……。
喜怒哀楽の感情もあるだろう。
ただ、コノ世にとらわれるほど成仏出来ない想いを抱くなら、俺たちと同じ。
俺だって、「霊になって直ぐ成仏出来るか?」と問われれば、答えは「ノー」だ。
(まあ、良いのさ……)
俺は、顔を上げて、市役所管財課の田中さんを探す──と、けたたましいサイレンの音が幾重にも重なり鳴り響く。
赤いランプが何台も、眩しいくらいに回転し、点灯して光る。
赤いレーザーポインターで視界を奪われたように、眩し過ぎて瞼を開くことが出来ない。
おそらく、何台ものパトカーに救急車、消防車が、次々と到着して来ている。
「大丈夫ですかっ!?」
救急隊員たちが、俺の目の前で倒れている二人の若い裸の女性たちのもとへと駆け付ける。
突然現れた俺たちに驚きながらも、失踪していた二人の若い女性たちが目の前で裸で倒れているのを発見して、さらに驚いたコトだろう……。
と、そこへ、警察官がパトカーから降りて来て、俺へと詰め寄って来た。
「署までご同行願えますか?」
(うわ! 来たー!!)
俺は、とてつもなく憑かれている、いや、疲れているのに、容疑の目を向けられ、おまけに休む間も無く警察署へと連れて行かれそうになった……。
もちろん、救急隊員や警察官たちには、夢葉や黒音ちゃん、それにイケメン吸血鬼風なアレなこの男の姿は、見えていない。
コイツが、真犯人だと言うのに──
(ギロリ……)
俺は、アレなイケメン吸血鬼風なこの男を睨む……。
「ハハ……。ナントカに口無しですよー……?」
「ふざけるな!」と、俺は、この男に言いたい。
しかし、真相を語れるのは、ほぼ俺だけ。
倒れている二人の若い女性たちの体力が、回復したとしても、何も覚えていないかも知れないし、まだ何らかの術が施されていて、「口封じ」されているのかも知れない。
あるいは、記憶を奪われているとか……?
いや、それは無いものと考えられる。
一度は、この男の魂も滅びかけたなら、術は一旦解除されているはず。
けれども、『幻術操作』の特性として、術を掛けられた者は、「催眠状態」に陥るため、ほとんど覚えていないモノと思われる。
まるで、夢でも見ていたかのように……。
あくまで、俺の予想だが……。
そうこうしていると、心配そうに見ていた市役所管財課の田中さんが、疲れ果てた俺のもとへと、駆け寄って来た。
「どうなりました!? 大丈夫ですかっ!?」
「助け舟」を求める俺の視線に感づいた市役所管財課の田中さんは、事の成り行きを俺とともに、丁寧に警察官へと話してくれた。
『霊』のコトなど、事情聴取の中では、ただの妄言としか、とらえられないだろう。
通用しないのが、現実世界なのだ。
なので、N県S市市役所からの依頼で、取り壊しの決まった物件の「お祓い」に来たら、たまたま廃墟ホテルの中で、失踪した二人の女性を発見した──
──と言うコトになった。
しかしながら、イケメン吸血鬼風なアレなこの男が、この土地を離れると、この男の『霊力』が及ばなくなり、途端に建物の倒壊が始まる。
俺は、市役所管財課の田中さんを交えて、建物倒壊の危険が間近に迫って来ている事を懇々と説明する。
そして、イケメン吸血鬼風なアレなこの男に、安全に作業が終わるまで、きちんと見届け、この土地から離れずに見守るよう言い伝えておく。
「ぐっ……。責任を取れと言うコトですか……」
イケメン吸血鬼風なアレなこの男が、しょんぼりとして肩を落とす。
「因果応報ってヤツ? 自業自得だよねー……?」
夢葉が、「チラリ」と男を横目に見て、両手を腰に当てながら……「フーッ」と息を吐く。
夢葉の両胸が「たゆん─」と揺れる。
「だよねー。せっかくイケメン君になれたのに? 残念だったねー」
黒音ちゃんが、悪魔の如く「ニヤリ」と笑い、悪戯っぽくアレな男の肩を「ポンポン」と叩く。
と、同時に、黒音ちゃんの胸も「たゆんたゆん─」と揺れた……。
俺は、会長の寺の住所を、イケメン吸血鬼風なアレなこの男に口頭で伝え、男の『異空間転移能力』で自力で寺へと帰って来るように言い残し、その場を去った。
「ちゃんと、最後まで、見守るんだぞ? 約束は、その後だ」
「分かりましたとも……。必ずや、やり遂げて帰って来ますとも……」
市役所管財課の田中さんに『浄霊指令完了』の挨拶を済ませて現地解散し、俺と夢葉と黒音ちゃんは無事に寺へと帰路に着いた。
途中お約束で、高速道路のパーキングエリアのトイレに寄ったついでに、俺と夢葉と黒音ちゃんの三人で、土産物売り場に寄ったが、案の定、ひと騒動あった。
しかし、それよりももっと驚いたコトに、俺と夢葉と黒音ちゃんの三人が寺へと戻ると──
イケメン吸血鬼風なアレな男が、ご機嫌な様子で俺たちの帰りを待っていた……。
「我が主、楓くん。お帰りなさいませ……。いや、主を『楓くん』と呼ぶのはオカシイかな……?」
聴くところによると、誰もいないコトを確認した上で、男の『異空間操作能力』で倒壊寸前の廃墟ホテルを『異空間』に包み込み、さっさと更地にして帰って来たと言う……。
まだ、名も知らない……このイケメン吸血鬼風な男との新たなる生活が、始まろうとしていた。




