信じる……。
─楓視点─
(ゴゴゴゴゴゴゴ……)
(時間が無い……)
俺は改めて、そう想う……。
目の前の男の魂は風前の灯火。
加えて、この廃墟ホテルの倒壊の兆しとなる震動音……。
今すぐにでも決意しなければ、男の魂とともにこの建物自体が崩壊する。
心霊廃墟ホテル──
取り壊しの決まった物件でもあり、このまま崩壊すれば、解体工事の手間も省ける。
さらに、この男の魂も滅び……『浄霊指令』としては、完遂出来たコトになる。形の上では。
しかしながら……。
二人の若い女性──人命が、掛かっている。
男の魂は尚も、「二人の若い女性の命」と「俺の使命」とを天秤の片側に乗せ、「自身の魂の存続」とを、釣り合いの取れるように、「取り引き」の上に「駆け引き」を持ち出す。
「二人の若い女性の命」と「俺の使命」とを俺が選べば、夢葉と黒音ちゃんから分け与えられた『霊力』で男の魂は回復し、廃墟ホテル倒壊後の俺たちを見捨てて、まんまと逃げ果せるコトが出来るだろう。
逆に、このまま男の魂が消滅してしまえば、俺たちは、倒壊した廃墟ホテルにそのまま生き埋めになる。
自身の魂の消滅が掛かっているにもかかわらず、不敵にも笑い……俺との「取り引き」を優位に進めようとする。
加えて、この時間の無い状況。
(悪魔か……?)
尚も屈するコト無く、俺に「取り引き」に応じさせようとするその力。
まるで、超一級の賭博師か勝負師のような心理戦を俺に仕掛けて来る、この男の魂……。
最後の最期まで……。
自身の魂が風前の灯火で、力尽きようとしているのに……。
それに、ひとつめの『芸術を想う存分させるコト』と、ふたつめの『常世道先案内相談員の「補佐役」として憑け従わせるコト』も、男の魂の願いとしては、俺を油断させるための「嘘」なのかも知れない……。
そう想うと……。
『悪魔』のようにも想えたが、諦めない男の魂には、敬意の念が湧き、感服する。
……が、俺は、あるコトに突然気がつき、想い出した──
(魂は、嘘がつけない……)
かつて、夢葉が、「感じるんだ……」と言っていたコト。
夢葉と俺が出会って、すぐの頃。
夢葉は俺に「伝わるんだ……」とも言っていた。
それは、心を超えた『魂』のコト──
『魂の契約』を結べば、より鮮明に相手の心の動きが伝わり、感じ取るコトも出来るようだが……。
そう想いながら、思考を重ねた俺は、夢葉と黒音ちゃんの方を視る。
「そうだよ……。楓……」
素直で真っ直ぐな夢葉の瞳が、俺の目を見つめて、天使のように微笑んだ。
「そうだよ……? 楓くん……?」
黒音ちゃんのイケない小悪魔のような瞳が、俺の目を見つめて、堕天使のように悪戯っぽく笑った。
『魂の契約』を俺としている夢葉と黒音ちゃんは、俺の心の動きを魂で感じ取るコトが出来る。より鮮明に。
今、俺の目の前にいるこの男は、風前の灯火。『魂』そのものだ。
俺と夢葉と黒音ちゃんとの『霊力戦闘』で、『霊体』をも消耗し、『霊体』の『核』とも言える『魂』そのものになって、男は、もはや消滅寸前である。
肉体を所有する生きている人間ではない。
『嘘』が、突けるわけがない。
「嘘は、突いていないようだな……」
俺は、男の魂へと、暗闇のこの地下室に響くように言葉を静かに口にした。
「フフフ……。もとより、嘘など突いていませんよ? 正直な私の想い……いや、願いです。信じて頂けたようですね?」
暗闇の中──
倒壊の兆しとなる震動音が響く地下室。
青白く小さく揺らめく男の魂から、震動音を超えて、尚も響くように伝わるその言葉──声。
男の魂は、続けて声のような音を暗闇の中に響かせて言う……。
「さあ! 私の願いは『約束』され、成就されました。楓くん、夢葉さん、黒音さん! 私へと『霊力』を注いで下さい……。 私の『能力』で地下室から脱出致しますよ!」
男の魂の言霊が、音になり……暗闇のこの地下室に木霊する──
俺が、夢葉と黒音ちゃんに触れると、自然と二人の『霊力』が増幅されて行くように感じられた。
『三位一体』の『憑依状態』の時にも感じられたコトだが──
それは、夢葉や黒音ちゃんの『霊力』を増幅させる『能力』が、どうやら、俺には、あるらしいと言うコトだ。
夢葉と黒音ちゃんが、小さく揺れる男の青白い魂へと手をかざすと──
俺の『能力』で増幅された夢葉と黒音ちゃんの『霊力』が、男の魂へと注がれた……。
暗闇の中──
青白く輝く男の魂が、一際大きくなり、夢葉と黒音ちゃんの「たゆんたゆん」な胸も、その光を反射するように、満月の如く光輝いた……。
「ワーハッハッハッ!! 私、復活っ!!」
男は、そう叫んで、巨大な「吸血鬼」のような姿になったかと想うと……『霊力』を凝縮させたかのように、もとの「オジサン」の姿を超えて更に若々しくなり──
──『イケメン吸血鬼』へと姿を変えた。
「さあ! 皆さん! 倒壊の兆しも止まりました!! 後は、私の『異空間転移能力』で、暗闇の地下室を脱出するだけっ!! 参りマスよっ!! いざっ! 地上の彼方へ!!」
いや……。
そんなに、参らなくて良い……。
地上の彼方ではなく、この廃墟ホテルの入り口付近で良い……。
市役所管財課の田中さんとも合流したいし、会長とも連絡が取りたい……。
何よりも、早くこの若い女性二人を救急搬送しなくては、イケない。
警察の取り調べも、あるだろう……。
そう想いつつも。
俺の心配を他所に……。
張り切る『イケメン吸血鬼』な、この男の想いを踏みにじるのも気が引けるので……敢えて、ソコは、突っ込まないコトにする。
夢葉と黒音ちゃんの二人が、若干引き気味の作り笑いをしている。
これを、苦笑いと言うのだろうか。
それでも、「たゆん─」と揺れる二人のアノ部分を視て、ようやく、この度の『浄霊指令』が終わりを告げ、いつもの会長の居る寺へと生還出来るコトに、「ホッ」と俺は胸を撫で下ろした……。
新たな仲間──『イケメン吸血鬼』なアレな男が加わったが、この男の『名前』は何と言うのだろうか……?
俺は、そう想いつつも……この『イケメン吸血鬼』な男が描き創り出した、巨大な『異空間魔方陣』に乗る。
さしずめ、魔法の絨毯のような『異空間魔方陣』が、紫の中にピンクを含んだ妖しい光りを放ち、地下室の床から数センチほど浮かび上がっている……。
もちろん、夢葉も黒音ちゃんも、二人の若い女性たちも乗せて──
(さあ……。ようやく、脱出だ……)




