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レイカノ。~『霊(アレ)』に好かれてから、俺の人生が180度変わった件~  作者: すみ いちろ
第一章 呪霊解きの世界……。『ウィズ ゴースト レインボー』
57/88

『駆け引き』と『取り引き』……。

─楓視点─



 

(ゴゴゴゴゴゴゴ……)




「ぐっ! ど、どうすれば……」



 震動音……。

 

 地震とも想えるほど、この廃墟ホテル全体が、揺れている。


 俺の混乱(パニック)した思考が止まらないように、この廃墟ホテル全体に及ぶ倒壊は、もはや止めようが無いほどの状態(レベル)であるコトを俺は肌で感じる……。


 もう、誰にも、どうするコトも出来ない。


 黒音(クロネ)ちゃんの『転移能力』を使おうにも『幽霊(ゴースト)名刺(カード)』が無ければ、ここに居る全員が会長(じいさん)の寺へと、無事帰還出来ない。


 『幽霊(ゴースト)名刺(カード)』は、市役所管財課の田中さんに預けてしまった。


 『霊体(アレ)』な存在である夢葉(ユメハ)黒音(クロネ)ちゃんの二人だけならば、『幽霊(ゴースト)名刺(カード)』無しでも、黒音(クロネ)ちゃんの『転移能力』で瞬時に寺へと戻れるのだが……。


 

 こう言ってしまうと何だが、黒音(クロネ)ちゃんの『転移能力』は、この世のモノには効果を波及(はきゅう)させるコトが出来ない。

 

 つまり、「人」や「物」をこの廃墟ホテルの「地下室」から運び出すコトが出来ないのである。



(南無三(なむさん)……!!)



 どうするコトも出来ない俺は、歯を食いしばりながら……「ぎゅっ」と眼を閉じて祈る……。



 (まぶた)の裏側には、黙ったまま(うつむ)いた夢葉(ユメハ)黒音(クロネ)ちゃんの姿が浮かんだ……。



(万事休す……!!)



 どうするコトも出来ない状況に、俺は立ち尽くす。


 天を仰いでみても、ここは「地下室」。


 暗闇が広がり、廃墟ホテルの倒壊を告げる「震動音」が、増すばかりである……。



「ククク……。諦めるのですか? (カエデ)くん?」



 暗闇の中、俺の目の前で小さく揺れる男の青白い(タマシイ)灯火(ともしび)が、「ぷかり」と、浮かんで笑う。



「このまま行けば、全員が助かる見込みは薄いですねぇ……。私の『能力(チカラ)』が及ばなくなった今、この『地下室』自体の耐久力も、上の建物の倒壊に如何(いか)ほど耐えられるか分かりませんしねぇ? まぁ、もっとも、『霊体』である私と夢葉(ユメハ)さんと黒音(クロネ)さんにとっては関係の無い(ハナシ)です。既に肉体など無いですから!!」



 俺は、絶望する。

 後、数秒と持たない命。

 

 『(アレ)』になる瞬間の痛みや恐怖。

 

 それよりも、生きている二人の女性を助けられなかった事。

 

 『常世(ワールド)道先案内(ナビゲーション)相談員(コンサルタント)』としての役割を無くしてしまう事。その使命が終わる事。



 追い込まれた俺は、無意識だったのだろうか、咄嗟(とっさ)に男の(タマシイ)へと詰め寄り……叫んでいた。



「おい! オッサン!! ここから、俺たちを出せっ!! 震動を止めろっ!! お前の『能力(チカラ)』で!!」



「おやおや? (カエデ)くん? 随分と焦ってマスねぇ? これは脅迫ですか? 私は、どうなろうと構わないのですよ? しかしながら、私としても君を失うのは惜しい。フフフ……。ここは、ひとつ、私と取り引きをしませんか? (カエデ)くん?」



 小さく揺れる男の青白い(タマシイ)は、不敵にも笑い、俺へと「取り引き」を持ちかけた。



(カエデ)くん? オカシイと想いませんか? これだけの「震動音」にもかかわらず建物が倒壊しない。何故だと想います? それは、残り僅かな私の『能力(チカラ)』で支えているからデスよ? ククク……」



 確かに、男の言う通りだ。


 あれだけの震動音だ。おそらく、本来ならば既にペシャンコ。もしかしたら、この「地下室」ごと地盤沈下して崩れ去っていたのかも知れない……。



(カエデ)……」



 何かを決意したかのように、夢葉(ユメハ)が俺を見つめて、そう(つぶや)いた。



(カエデ)くん……」



 黒音(クロネ)ちゃんが、(さと)すような瞳で俺の目を見て、そう言った。



「どうすれば良い……?」


 

 俺は、男の(タマシイ)へと詰め寄り……改めて問い掛けた。


 

 脱出するための「転移術」については、会長(じいさん)の『能力(チカラ)』のコトも考えたが──、俺に『幽霊(ゴースト)名刺(カード)』を会長(じいさん)が託した時点で、『遠隔霊力操作(リモート)』で「転移術」を俺たちに施すのは無理だっただろう。


 容易に「転移術」を『遠隔霊力操作(リモート)』で会長(じいさん)が俺たちに施せるのなら、わざわざ『幽霊(ゴースト)名刺(カード)』を最初から俺へと渡しはしなかったはずだ。


 それに、この倒壊の状況の最中に、ようやく繋がった電波を頼りに会長(じいさん)にスマホで相談したとしても、時間が足りなさ過ぎる。

 

 つまりは、俺の目の前で揺れる小さなこの男の(タマシイ)の「取り引き」に応じ……「要求」を呑むしか無い。今は……。



「改めて聴く……。条件は、何だ?」



「ククク………。条件ですか? (カエデ)くん? それは、とても簡単(シンプル)なコトです。ひとつは、貴方(アナタ)のもとで私に芸術(アート)を存分にさせるコト。ふたつめは、ククク……貴方(アナタ)と同じ『常世(ワールド)道先案内(ナビゲーション)相談員(コンサルタント)』の「補佐役」として私を()け従えるコト。みっつめは、夢葉(ユメハ)さんと黒音(クロネ)さんの全回復シた『霊力(チカラ)』を私に分けて頂くコト。如何(いかが)デス? 良い条件でしょう?」



 夢葉(ユメハ)黒音(クロネ)ちゃんは、どう言うワケか、俺との『三位一体』の『憑依状態』の後、なぜか霊力(チカラ)が全回復シている。


 それは、俺にも感じるコトが出来たし、霊力(チカラ)を失いつつある男にも、手に取るように直ぐに分かったコトだろう。


 あれだけ、霊力(チカラ)を消費した夢葉(ユメハ)黒音(クロネ)ちゃんなのに……。


 比べて俺は、かなりフラフラだ。

 立っているのが、やっとと言うほどでも無いにせよ、かなり消耗している。

 今すぐ眠りたいくらいだ。



 ひとつめと、ふたつめの男の要求は……まあ、良いだろう。

 俺としても、呑むコトは出来る。


 しかし、問題は、みっつめだ。


 夢葉(ユメハ)黒音(クロネ)ちゃんの『霊力(チカラ)』を分け与えた途端に、この男が裏切るかも知れない。


 そうなれば、どうしようも無い。


 しかしながら、この男の(タマシイ)も風前の灯火。


 この建物の倒壊も、さることながら……いずれ放っておけば、この男の(タマシイ)自体も消滅しそうだ。


 なぜなら、俺と夢葉(ユメハ)黒音(クロネ)ちゃんの『三位一体』の『憑依状態』での攻撃を受け、尚も浄化の(チカラ)に男の(タマシイ)が浸食され続けているからだ。


 信じるしか無い……。


 もしもの時は……。


 もう一度、俺と夢葉(ユメハ)黒音(クロネ)ちゃんの『三位一体』の『憑依状態』で、まだ息のある二人の女性を抱えて、突破脱出するしか無い。


 『霊力(チカラ)』を消費し過ぎた俺と夢葉(ユメハ)黒音(クロネ)ちゃんが、どうなるかは分からないが……。


 いや、おそらく、消滅する。三人とも……。



(時間が、無い……)



 俺は、心の中で、そう(つぶや)く……。


 一度目は、『三位一体』の『憑依状態』での激しい「霊力戦闘(オーラバトル)」における『時間制限(タイムリミット)』。



 二度目は、今。


 『(タマシイ)の契約』を交わそうにも時間が無い。


 俺と男の(タマシイ)の駆け引きの瀬戸際(せとぎわ)に……。


 二度目の『時間制限(タイムリミット)』が迫って来ていた──












 




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― 新着の感想 ―
[一言] こ、こいつぁ悪魔との取引でしょ(;゜Д゜) 絶対ロクな結果にならないのです(;゜Д゜)
[良い点] この男の条件を呑むのは危険ですが~…いったい。 さあどうする、楓くん…!
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