『決着』……!!
─楓視点─
魂の契約。
黒音ちゃんや俺は、敵に「名前」を呼ばれ、身体動作に制限が掛けられていたが──
『魂の契約』だけは、敵の行動制限の術式とは無関係に、俺と夢葉と黒音ちゃんの三人を引き寄せた。
「ぐおおぉぉぉっ……!!」
言葉を発した俺の中で何かが弾ける。
身体の奥底から、溢れ返るような『霊力』が漲るのを感じた。
手のひらを広げてみると、白い光に包まれて……金色の「オーラ」とでも言うのだろうか、俺の身体の全体を覆っているのが分かる。
「トランクス」さえも履けていなかった俺の身体が、「金色の炎」のような『闘衣』に包まれ、『トランス状態』になり、あたかも服を着ているかのように、急所さえもが隠されていた。
──「パチン!」
男が指先を鳴らす音がした……。
もとの明るいパーティー会場のような景色に視界が開ける。
男の足もとには巨大な「魔方陣」が描かれており、床や壁にも同じような「魔方陣」が無数に描かれていた。
「フフフ……。宴の再演!! ここからが、本番というワケですね、楓くん? お互いに!!」
巨大な吸血鬼のように変貌を遂げた男が、もう一度、俺の『名前』を告げた瞬間──
俺の身体から黒音ちゃんの両腕が伸びて、小さな「弾丸」のような黒い塊が、男の顔面に直撃した。
(バゴォォン……!!)
男の顔面が、一瞬にして吹き飛んだ。
跡形すら無い。
男の首から上の切断面から、例の如く、白い煙が「シュウシュウ……」と、吹き上がっている。
「『殲滅の魔弾丸』……」
黒音ちゃんの言霊が、俺の身体の中で静かに響く……。
どれほどの『魔力』なのだろう。
黒音ちゃんが、いくら「オカルト好き」とは言え、そんな魔術があったのだろうか?
「呪文」は「術」を発動させる時の「キッカケ」に過ぎず、「効果」を増幅させるモノだと……会長が黒音ちゃんに言っていたが……。
『無詠唱』──
俺と夢葉と黒音ちゃんの三人が、ひとつになった今。
普段の3倍……いや、3乗とも言えるほどの凄まじい『霊力の増幅』が感じられた……。
俺×夢葉×黒音ちゃん……。
消滅しない、黒音ちゃんの『呪いの力』。
永遠に続く黒音ちゃんの戦闘態勢。
そんな風に感じられた……。
(ボゴォ……ボゴォ……)
男の首から上の切断面から、白い煙が吹き上がるのと同時に、泡のようなモノが噴き出ている……。
尚も、復活するのだろうか?
「ヨロヨロ」と、ヨロメキながら……「吸血鬼」のような男の巨躯が揺らめいたかと思うと──
男の巨躯が、足もとに描かれた巨大な「魔方陣」に吸い込まれるようにして──消えた。
(ガン……!!)
突然、俺の身体の真後ろから、吸血鬼のような男の巨躯が飛来し、俺は吹き飛ばされた。
(ダン……!!)
通常なら突き抜けてしまうであろう壁が、巨大な『手』のように変形して、つかまれるようにして、俺の身体が、捕らわれる。
壁にも描かれた複数の「魔方陣」……。
男の『物体を取り込む能力』に翻弄され、身動きが取れない。
だが、黒音ちゃんや夢葉の時のように、完全に吸収されているワケではない。
泥沼から弾かれ出るようにして、俺は抜け出る。
と──
男は自身の『異空間転移能力』を発動させて、床や壁に無数に描かれた「魔方陣」から神出鬼没の急襲を多角連鎖的に仕掛け、俺へと攻撃して来た。
「『無限絵画夢想』……」
男の呪いのような言葉が、地下室に響く……。
(ドガッ!! バキッ!! ドゴォン!!)
男の無限とも想える、多角的連鎖攻撃。
無数に描かれた「魔方陣」から現れては消え──巨大な戦車から飛び出した砲弾のような攻撃が、俺を襲う。
「うぅっ……!!」
流石に、キツい。
普通なら、一瞬で粉々に吹き飛ばされるほどの破壊力。
無限とも想えるほどの男の攻撃に耐えながらも、一瞬、ヨロメキ……俺は脚に力を込めて踏ん張る。
避けようにも、男の弾丸のような攻撃が、速過ぎて視えない。
一発、一発が、重い……。
首から上の頭が無いにもかかわらず、攻撃を続ける男。
やはり、男だけでなく、世間一般の『霊』な存在の姿は、ただの「イメージ」で──復元など、どうとでもなるのだろう。
魂が消滅しさえしなければ……。
男が、首から上を復元させないのは、『霊力の温存』のためと、俺に反撃の隙を与えないため。
「時間が、無いよ……」
俺の身体の中で、夢葉の声が、静かに響いた……。
「『時間制限』……?」
俺は、身体の中で、夢葉に聴き返した。
『トランス状態』になった俺と夢葉と黒音ちゃんとの『三位一体』の『憑依状態』は、確かに強いが、『能力制限』として『時間制限』が、定められているようだ。
確かに、いつまでも、身体が持たない。
霊的な「体力」の指標である(ひっとぽいんと)も、かなり削られているのが、分かる。
男の攻撃は、常に俺の「死角」から飛んで来る。
つまりは、俺の視界の真後ろ。
繰り返される攻撃の音調……。
縦横無尽に飛び交う男の弾丸のような攻撃に耐え、目を閉じながら反撃のタイミングを計る……。
俺の瞼の裏側に、紅い炎のような夢葉の姿が、視える。
そして、夢葉を包み込むようにして、黒音ちゃんが黒い炎を纏っている……。
俺は──
──その時、
夢葉の発した言葉に、秘められた「想い」が、揺らめく黒音ちゃんから、そのまま俺へと静かに届けられたのを聴いた。
「私を信じて……」
そう呟いた夢葉に、俺と黒音ちゃんが、「うん……」と、肯く……。
俺の心の中に差し出された夢葉の手のひら──その上に、黒音ちゃんと俺も、手のひらを重ねた。
全てを夢葉に託して……。
俺の全身を、夢葉が包み込み──
──俺は、夢葉そのものになった。
「『開眼』──」
夢葉になった俺は、そう呟き……目を見開いて、振り向き様に男に放つ──
「「「『雷轟っ!! 烈火炎拳っ』!!」」」
夢葉になった俺の中で……。
俺と夢葉と黒音ちゃんが、そう叫んだ瞬間──
夢葉の姿になった俺の身体から、金色の紅い炎のような無数の攻撃が、流星の如く噴き出し──カウンターを浴びた男の巨躯が、散り散りに吹き飛んだ。
辺りは、再び、暗闇に覆われ──
男の『魂』と思われる炎が、青白く小さく灯り……頼りない灯火の影を、夢葉になった俺の足もとに落としていた……。




