『魂(タマシイ)』の『叫び』……。
─楓視点─
「フフフ……。なりたいモノに成れば良い……。夢は叶う。そう想いませんか? 楓くん?」
黒髪に白髪混じりだった男の顔が、どんどん若返ってゆく。
隆起した筋肉が男の巨躯から溢れ、異形とも見てとれる身体からは、瑞々(みずみず)しいまでの霊力が迸り、充満しているのが感じられる。
よもや、アレとは想えない。
生命すら感じる……。
「私はね……。楓くん? 究極の芸術とは『不変』にして『永遠』。そう想ったのだよ。つまりは、私自身が『永遠』になることを夢見た。フフフ……。この姿はね……。私の追い求めた『芸術』を『完結』している『究極の作品』なのだよ」
「そうか……。それは、素晴らしい。俺も、アンタのように成りたかったよ……」
俺は全身を貫く恐怖に堪えながら、本音では無い言葉を選び、そう言っておく。
時間を稼ぐためと、男を刺激させないための、苦し紛れの俺の「台詞」。
男の言わんとシているコトも、分からなくも無い。
かつては俺も、会社員よりかは、芸術家に成りたかったからだ。
だが、状況が良くない。
黒音ちゃんは自身の「呪いの力」で倒れ……俺も、男の紅く輝く『瞳力』のせいで、かなり身体動作に制限が掛けられている。
そして、黒音ちゃんも俺も、床に転がされた状態で……男に『名前』を口にされたまま動きをさらに封じられている。
敵と遭遇していないからと言って、敵の敷地内で、お互いに『名前』を呼び合ってしまったのは、初歩的な『ミス』だった。
初めての『浄霊指令』の時でさえ、相手に『名前』を告げないようにしていたのに。
今にして想えば……。
『吸血鬼』のような姿へと変態を遂げた男の身体から、白い煙が立ち昇るその光景に、俺は『幽霊名刺』を初めて使った時のコトを想い出していた。
あの時と同じように……。
黒音ちゃんの『呪いの力』『絶対拘束』により、再び呼び出された女の娘たちの『魂』が『黒蛇』の姿のまま、「拘束」した男の『吸血鬼』のような身体へと吸収されてゆく……。
そして、ゆっくりではあるが、同じように、徐々に消えてゆく黒音ちゃんの身体が、俺の目に映った……。
が、祈るように黒音ちゃんを抱く夢葉の身体から、金色の光が零れ落ち、黒音ちゃんの身体が、もとの姿に回復し戻ってゆく──
「黒音ちゃん!! 夢葉!!」
そう叫んだ俺の目に涙が溢れ……。
地獄の光景の最中に、二人の天使が、囁き合うような姿が輝いていた。
「夢葉。 ありがと……」
「うん。黒音」
「夢葉……。三人一緒に、なろ?」
「そだね……。黒音。三人一緒。ひとつに、なろ……」
ほとんど裸に近い格好で、金色に光りながら抱き合う夢葉と黒音ちゃん……。
床に転がされたまま泣く俺に……夢葉と黒音ちゃんの言葉が届いた──
「「『憑依』!!」」
夢葉と黒音ちゃん……。
二人の声が俺の中へと飛び込んで来て──
俺の『目』と夢葉の『目』と黒音ちゃんの『目』……三人の『目』が、光のようなモノで、繋がり合う。
何よりも速く、光よりも速く、俺の魂へと入り込んで来た──夢葉の魂と黒音ちゃんの魂。
俺の身体が、一瞬……宇宙空間に飛んだように想えた。
白く光輝く流星の中に──俺も夢葉も黒音ちゃんも、その中にいた……。
(夢葉……。黒音ちゃん……)
(楓……。黒音……)
(楓くん……。夢葉……)
俺の心の中にあるのだろうか、俺の魂の中心部で、俺と夢葉と黒音ちゃんの魂が、ひとつになった──
感覚的に言うならば、そう……。
そんな、感じだった。




