敵(ターゲット)……4。
─楓視点─
俺は、裸の美女たちに囲まれている……。
夢だ。これは、夢に違いない……。
「夢」?
俺は、「夢」という言葉に「何か」を想い出しそうになる。
が、想い出せない……。
何か、まるで「夢」をみるようにシて、裸の女の娘たちに、泡まみれにされてゆく……。
女の娘たちの柔らかい肌とアノ部分が、俺の素肌を泡とともに滑らせて包み込み──俺は洗われてゆく。
(これは、現実なのか……?)
まるで、「黒」い現実が「夢」のように洗い流され……「音」を立てて俺の記憶とともに消えてゆく……。
そして、朝の光を浴びた新しい「葉」に瑞々(みずみず)しい雫が、滴り落ちるようにして宿る……。
生まれ落ちる新しい記憶……。
それは──
何かを想い出そうとしても、辻褄の合わないワケの分からない「言葉」が、次々に浮かんで来ては、消えてゆく……。
想い出せない……。
ダメだ……。
しかし、まるで、もう一人の俺が、「暗号」を解き明かせと、俺自身に言っているかのように……訴えかける。
でも、今? なぜ……?
「黒い音」……? 「夢の葉」……?
「くろいど」……? 「ユメハ」……?
裸の俺は、「夢」の中で「黒」い現実が「何?」なのか……今、想い出さないと、イケない気がしている……。
「『黒い現実』? 何だ? これは、『夢』か?」
俺は、自分自身に問いかける。
「『本音』?『音』? 俺の『本音』は?」
(このままで、良いのかっ……!?)
もう一人の俺が言う……。
忘れている……何かを。
「『葉っぱ』って、何だ?」
「『葉』っ?」
(想い出せない……)
(想い出せっ!!)
俺は、ひとり呟くようにして、言い続ける……。
「『黒い音』……。『黒い井戸』の正体……?」
「『夢』の『葉っぱ』……。『夢』は、『叶う』……」
俺は、「ハッ!」とした。
想い出した……。
「『叶夢葉』っ!! 『黒井戸黒音』ちゃんっ!! 助けに、来たっ!!」
俺は、忘れていた二人の『呼び名』を想い出した。
俺の大事な人……。
ひとりじゃない。二人。
俺と三人。
夢葉……。黒音ちゃん……。
俺は、大絶叫した。
「うおおぉぉぉっ……!!」
すると──
メイドさんである若い女の娘たちに混じり、裸になりかけていた夢葉と黒音ちゃんが、呪縛から解き放たれたように「ハッ!」とした表情で、我に返った。
夢葉に黒音ちゃん……。
想い出したのか、二人ともが、もとの秘書課主任秘書の正装へと、素早く一瞬で「衣装変化」している。
「良かった……」
俺は、夢葉に黒音ちゃん……二人の無事を確認し、もの凄く安心した。
すると、「パチン!」と何かが弾けたような音がして、辺りが、突然暗闇で覆われた。
その直前、若い女性が、二人。
裸で倒れているのが、視えた。
それと、何体かの「魂」が、煙のように暗闇の中へ消えてゆくのが、視えた……。
「フフフ……。良いのかな? 楓くん? 私の『術』に打ち勝つとは、流石だね? アレだけ多重に私との契約を結んだのにね? しかしながら、楓くん? 私は、もう、君の名を知っているんだよ? 楓くん……」
暗闇の中に、薄ボンヤリと灯る紅い光……。
さっきまでいた『紳士風の男』が『紅い眼』を光らせ、俺の『名』を繰り返し口にしながら、目の前に現れた──
「楓……!!」
「楓くん……!!」
男の呪縛から解き放たれた夢葉と黒音ちゃんが、そう叫んだが、もう遅い。
俺は、再び、この『紳士風な男』の『紅い眼』を見てしまった……。
アレな存在の『眼』を視てはイケない……。
『瞳力』により操られるからと、黒音ちゃんと会長からも、『浄霊指令』に来る前から俺は聴かされていた。
そのためのピンクの『ゴーグル』。
アレな存在の『瞳力』を遮断するための装備品。
今、俺の手もとには、無い。
間抜けにも、敵の「術中」にハマり、『ゴーグル』を取られてしまっていたからだ。
俺は、丸裸──
いや、暗闇の中……紅く光るこの男の『眼』と、白く光り輝く『夢葉』と『黒音』ちゃんの『オーラ』のおかげで──偶然、俺の右足に触れた「トランクス」を、操られながらも、まだ動かせる右手でナントカ拾い上げ、俺は力尽くで履こうとシていた……。
俺の目が暗闇に慣れて来て、少しずつだが、目の前が視えるようになって来た。
「フフ……。まだ、動かせるのですね? 楓くん? 流石だけど、それがもう限界かな? 流石に2度目は『術』の効き目が悪いよね?」
俺の「パラメータ表示」の呪いに対する『抵抗力』が、上がって来ているのか、最初にこの男と出会った時よりも「術」に「ドハマり」していないように感じられる……。
「ぐっ……!!」
しかしながら、俺の『名前』も口にされ、思うように身体が、動かせないのは、事実。
と……。
(ドン……!!)
「楓ー!!」
夢葉の叫び声とともに放たれた、凄まじい衝撃波。
「『超越真世界』!!」
「ビリビリ」と、夢葉の叫び声とともに放たれた衝撃波が駆け抜けて──
空気を震動させて伝わった……夢葉の『能力』。
夢葉の左腕から繰り出された一閃の螺旋烈拳が……隕石の如く、男の右顔面に直撃した。
「ぶふぅっ……!!」
男は、上半身を180度近くネジらせるも、ヨロケながら耐え、尚も呻き声をあげている。
俺は、初めて見る夢葉の格闘能力に目を見張る。
(驚いた……)
『霊』の中でも、群を抜くと言われたコノ世のモノに触れられる夢葉の『物体干渉能力』……。
『超越真世界』。
夢葉が、そう叫んだ自身の『能力』……。
よもや、これほどまでとは、俺も想定していなかった。
夢葉の凄まじい左螺旋烈拳が……メガトン級の隕石の如く、男の右顔面に直撃し、男の顔面から「シュウシュウ……」と、白い煙が、立ち昇る。
(浄霊されているのかっ……!?)
俺が、そう想った瞬間に、間髪入れず、黒音ちゃんの『呪文』を囁くような声が、聴こえた。
「あまねく死者の魂よ、我が黒き影となりて彼の者を捕らえよ。鋼鉄の黒蛇となりぬる汝に憎しみの彼の者を贄として与えよう……。『絶対拘束』っ!! 行けっ!!」
黒音ちゃんが叫ぶと、さっきまで操られていた女の娘たちの霊が、呼び戻され……「ぬるぬる」と巨大な黒蛇になって、男に巻きつき、蜷局を巻く。
「ぐあぁぁっ……!!」
やはり、男の身体から白い煙が、立ち昇る。
男は、苦悶している様子だが、黒音ちゃんの身体からも同じように、白い煙が、立ち昇る。
「黒音っ……!! 大丈夫っ!? しっかりして!!」
夢葉が、黒音ちゃんに、駆け寄り、「グッタリ」とした黒音ちゃんを、抱きかかえる。
「ごめん……。夢葉。『呪いの力』、『幻術』じゃなくて、リアルに発動させちゃった……」
黒音ちゃんが、初めて会長のお寺に来た時に使った『呪いの力』は『幻術』で……。
実際に現実世界に具現化させて『呪いの力』を発動させるとなると、黒音ちゃん自身の身が滅びる。
『呪いの力』については、使って欲しく無いと、黒音ちゃんに会長が言っていたのを、俺は想い出していた……。
「フフフ……。滅びるのですか、黒音さん? 貴方も私とともに……。しかしながら、私には、まだ『余力』が、ありますよ? 私に半分でも『名前』を告げられた貴方が消えるのは……時間の問題です」
「黒音ー!!」
「黒音ちゃん!!」
俺と夢葉が、叫んだ後から、男が、唸り声を上げながら、姿形を変えてゆく。
「うごおぉぉっ!! ぐがごおおぉぉっ!!」
男の身体が振動し、「ガクガク」と変態を遂げ、さらに『紅い眼』を光らせた巨大な『吸血鬼』のような姿へと変容させていた。
黒く大きな翼をはためかせ……男の口からは、白い煙が吐き出されていた──




