敵(ターゲット)……2。
─楓視点─
得体の知れない「地下室」へとのびる階段は深く、どこまでも続いているように思えた……。
「い、いったい、どこまで続いているんだ……?」
渦巻く「螺旋階段」を、ひたすらゴーグル内の「暗視カメラ」で注意深く覗き込みながら、足もとを確認しつつ一歩一歩、俺は階段を降りてゆく。
通常、「地下」にのびる「螺旋階段」とは言っても、せいぜい一回転か二回転ほどグルグル回れば、「地下室」へと辿り着くはずだ。
ところが、どれだけグルグル回って、「螺旋階段」を降りてみても、いっこうに「地下室」へと辿り着けない。
電波が届きにくいのか、さっきから、ハンズフリーにした俺のスマホから聴こえる会長の声も途切れ途切れだ……。
俺の不安が煽られ、嫌な予感がする。
「か、カエデ……くんや。で、電波、が、悪い……の。け、圏外になりつつ……あ、る。敵、さん……の術中にハマ……」
「会長……!! 会長……!?」
俺は、声を荒げて会長に呼びかけ、叫ぶ。
「ど、どうや、ら……す、でに、カエデくんも、異空間内部にトラワレ……」
「か、会長ー……!!」
──それ以降、俺と会長との通信は途絶えた……。
絶望が広がり、涙が込み上げて来る。
俺は、階段の上で、しゃがみ込み、頭を抱える。
「うっ、うっ……。もう、ダメだ……」
俺は、自分自身を放棄しそうになる。
頼みの綱だった会長との通信手段も途絶えた。
救いようの無い状況が、俺を取り囲む。
奈落の底へと突き落とされたようだ……。
(ガン……!!)
その時、ナニカが俺の背後からブチ当たり、ぶつかられた衝撃で、俺は文字どおり「螺旋階段」の底へと突き落とされた──
「ぐあぁぁっ……!!」
(ドン……!!)
俺は「螺旋階段」の一番下まで転がり落ち、その時の衝撃と痛みが俺の全身を襲った。
思わず呻く。
「うぅっ……」
俺が、四つん這いになり起き上がろうとすると、ハンズフリーにしていた俺のスマホが床に転がり落ちているのを目にした。
画面が、割れている……。
(もう……。何もかもが、終わった……)
俺が、言葉にさえ出来ずに、そう想っていると……。
「地下室」の目の前の「扉」が急に開いた──
「ようこそ……。我が館へ……。『川岸楓』くん……と、言ったかな? 来るが良い……」
何処からともなく、聴こえて来る声……。
頭の中が、「ボーッ」とする……。
身体が動かないワケではないが、ナニカに導かれるように、誘われるようにして、俺の身体が動く。
まるで、乗り物にでものっているかのようだ……。
身体が勝手に、動かされている……。
俺の身体じゃ無いみたいだ……。
目の前には、「レッドカーペット」が敷かれ、ダンスパーティーでも開かれるような広い空間が、明々と灯るロウソクの炎に照らされている。
「彫刻」や「絵画」他にも芸術的な「調度品」が、品良く並べ飾られており、壁から天井に至るまで、全てが「紅く」「美しく」光輝いている……。
天井から吊り下げられた巨大な「シャンデリア」が眩しく、煌々(こうこう)と輝いていた──
「長旅、ご苦労さまだったね? 楓くん? まあ、座りたまえ……」
いつの間にか、俺の目の前には、とても長い長方形の白い大理石のようなテーブルが現れ、誰もいないのに、ひとりでに勝手に椅子が動いて、俺は座らされていた……。
俺と、かなりの距離を開け、対面に座る長いテーブルの先に「ボーッ」とした光とともに……誰かがあらわれた──




