黒音(クロネ)と会長……。
☆黒音視点です──
夢葉も楓くんも、まだ寝起きでグズグズしてるし……。
私は暇だから、いつものようにお寺の中を散策する。
このお寺の中は、動物王国かと言わんばかりに、犬も猫もまるで人間のように闊歩している。
とは言え、もちろんのアレな存在で、四足歩行なワケだが──
朝から懐かれて困る……。
「あー。よしよし。良い子良い子。そうかそうかー。よしよし」
こんな具合に、何匹ものアレな犬猫たちが私に「よしよしシてくれ」と言わんばかりに、頭や腹を見せては「ゴロゴロ」「スリスリ」私に懐いて来る。
ひと通り撫で終えると、今度はアレなインコやらオウム、フクロウまでもが「バタバタ」と私に近寄り、私の頭やら肩に乗っかって来る。
ひとしきり、アレな鳥たちが私への朝の挨拶をすませると、また「バタバタ」と何処かへと飛び立ってゆく。
普通は、動物たちの糞尿が撒き散らされて困るかと想うが、この子たちも私や夢葉と同じ「アレ」な存在。
たぶん、長い間、このお寺に居憑いているのだろう。
可愛すぎて何の違和感もなく、負のオーラも発していない。
アレなこの子たちの無邪気な可愛さに、朝から私は癒されまくっていた。
時折、アレな鹿や猪までもがお寺の中を歩いてて、急に壁とかをすり抜けて「出て」来るから、びっくりするけど。
まだ野性が残っているのか、逃げはしないが、私と目があっても近づいて来ない。
たぶん、この子たちは、まだアレになってから日が浅いのだろう……。
動物たち──
お寺の廊下に落ちたこの子たちの毛や羽が消えてゆく。
「く、黒音お姉ちゃん……。おはよ……」
朝から私の胸の谷間をジロジロ見ながら夢葉の弟が、すれ違い様に小さな声で私に挨拶して来る。
「おはよー。弟くん。14才の君にはまだ早いかな?」
私が意味深な言葉を残して夢葉の弟に挨拶すると、顔を真っ赤にして固くなり、足早に玄関の方へと向かっていった。
いつもの黒ホットパンツに大きく胸の開いたVネックのセーターは、年頃の男の子には、目の毒だったかな?
私は、タイトな黒ジーンズと胸もとまでしっかりボタンの留まった黒のカッターシャツに、イメチェンしてその場で着替えた。
着替えと言っても、イメージ化するだけで、アレな私がいちいち裸になるコトはない。
アレな私の視え方が、霊的に変わったというだけの話。
霊感のある者が視たならば。
そう言う意味では、小学六年生の夢葉の妹にもアレな私のコトが視えているようだ。
「黒音お姉ちゃん! おはよー!」
朝から夢葉の妹に、さっきいたアレな動物たちのように懐かれて困る。
私の胸に朝から飛び込んで来て、顔を「スリスリ」させて抱きついて来たからだ。
私に触れられるとは、霊力が高い。
血筋なのか、この娘も夢葉と夢葉のお母さんに似て、発育が良い。
まだ小学六年生なのに。
この娘の胸が私のお腹に当たって、なんかキュンとする……。
「お、おはよ? 朝からビックリしたよ?」
「黒音お姉ちゃん。だーい好き!」
朝から過激な言葉を残して、夢葉の弟くんと同じく足早に玄関に向かう夢葉の妹。
大胆な言葉を残した割には、顔や耳もとを赤くして、照れているようにもみえた。
私は、変な気を起こさせないように努めてはいるが、どうも夢葉の妹は、まんざらでもない様子で、イケない感じがする。
でも、まぁ、それは、それ。
私は、楽しむコトにする。
そう想いながら、夢葉の弟くんと妹よりも、少し遅い朝ご飯前の時間に、私はお寺の本堂を横目に見ながら通り過ぎる。
何やら、会長と思しき夢葉のお爺ちゃんが、お寺の本堂に何インチもある巨大テレビ画面を設置して、朝からオンラインゲームを繰り広げている。
「おはよー。夢葉のお爺ちゃん。何シてんの?」
「おぉ! 黒音ちゃん! おはようさん! 朝のお勤めが今しがた終わったとこでの。ちぃとばかし、昔の仲間たちと連絡を取りおうておったのじゃよ」
何インチもの巨大なテレビ画面。
朝から繰り広げられているオンラインゲーム──
謎は、深まるばかりだ。
「会長? これって、いわゆるロールプレイングゲームってヤツ? 夢葉のお爺ちゃんって、そんなにオンラインゲーム好きなの?」
「ムフフ。そうじゃ! これは、ワシととある海外の霊能者仲間たちとベンチャーIT企業とで、独自開発した試作品での? まだ、何処にも市販化されておらん。特定の霊力を持つ者だけが扱えるシロモノじゃ!」
「シロモノじゃ!」って……。
ますます、私の興味が湧く。
「ふーん。そうなんだ? で、どうやって『レベル』上げるの?」
「ソレなんじゃが、なかなかに凝っておっての? キャラクター設定する時に、実際に実在する人物と手動選択で霊的に接続することが可能じゃ。特定の魂を選択することで、より異世界を楽しむコトが出来る」
「何のコトか?」とも想うが、どうも会長の言ってた『浄霊指令』とナニカ関係が、ありそうな気がする。
「での? 異世界とは言っても、どこまでも『限りなく』現実と繋がっておる。現実世界そのモノじゃ。いわば、この世は異世界そのモノみないな場所じゃ」
耳を疑う。
どうも、会長の言ってることは、かなりの重要機密秘匿事項な気がする。
会長の言ってることから推測すると、どうやら『浄霊指令』と『レベル』に関する大まかな流れが、視えて来る。
「つまりは、じゃな。異世界と、この世は『限りなく』繋がっておっての? 君たち黒音ちゃんは、ワシに選ばれし『冒険者』。レベル『1』じゃったのは、まだ『浄霊指令』や『依頼』をこなしておらなんだからじゃ!」
予想どおり。
会長の話は、私の想定内。
「特定の魂を選択」というコトから、楓くんやアレな私と夢葉でも、操作可能な『冒険者』になれる。
とは言え、私たちの思考や行動まで操られはしないだろう。
結果論的に考えてもそうだけど、魂って、そういうモノだから。
それに魂を操れるのなら、この世をさっさと浄化して、アレな存在をもっと楽に成仏させることが出来るはずだからだ。
現実世界で楓くんと夢葉と私が『冒険者』になって、会長のオンラインゲームと霊的に接続される。
『限りなく』という言葉が『キーワード』で、異世界の中には、現実世界には無い『何か』が、あるのだろう。
(なんか、面白いコトになって来た……)
私の胸が「たゆん」と揺れる。
「おはよー……」
「おはよう……ございます」
眠たそうに目を擦りながら、夢葉と楓くんの二人が、
会長のオンラインゲームと巨大テレビ画面が接続されたお寺の本堂に入って来た──
☆七海 糸様☆ 作 黒音『FA』─ありがとうございます!!─m(_ _)m




