魂(タマシイ)の契約……。
黒音と私。
ひとつになった私たちは、お寺の縁側に射し込む満月の光を見上げた。
その光に誘われるようにして──
薄ボンヤリとした満月の明かりのもとで眠る楓へと近づく。
たぶん、見た目は黒音だけど、意識はハッキリしている私。
ひとつになった私と黒音だけど、さっきから黒音の声が聴こえない。
「黒音? 黒音……?」
(何? 夢葉……?)
私が小声で、試しに黒音に呼びかけてみると、私の頭の中で黒音の声が静かに響く。
「良かった……。黒音。で、どうすれば良いの?」
どうすれば良いのかなんて、なんとなく察しがつくけれど……。
黒音と、ひとつになっているワケだし、なんとなく恥ずかしさもあって聴いてみた。
(……そりゃあ、寝てる楓くんに口吻だよ。早くしないと、楓くん起きちゃうかもよ?)
平然と言ってのける黒音。
キス……。キス……。楓にキス……。
あぁ!
黒音に見られていると想うと、楓に口吻なんて出来ない。
早くしないと、楓が起きちゃうかも知れないのに。
(あー。もう……。見てらんないよ。分かった。ほら、目を閉じてるからさ、その間に夢葉? 楓くんと口吻して……?)
いやいやいや。
私と黒音は、今ひとつになってるワケだし。
「目を閉じてる」って言っても、私が目を開けてたら黒音にも見えてるワケじゃん!
とは言え──
せっかく、黒音が私のために協力してくれているワケだし。
恥ずかしがって、楓と魂の契約を結ぶチャンスを逃したら黒音にも悪いし……。
「目を閉じてる」とは言っても、黒音に憑依している私に感じられるコトは、黒音にだって感じられるモノだと想うから……。
意を決して──
黒音になった私は……。
月明かりに「スヤスヤ」と寝息を立てて眠る楓へと近づく。
黒音に憑依したアレな私だから物音はしない。
近ごろ、霊感に目覚めて来た楓に感づかれなければ良いのだけど……。
祈るような気持ちで、私は楓の枕元に立つ。
定番のアレなシチュエーション。
けど……。
私は眠っている楓の顔を見つめる。
満月の仄暗い明かりが、薄ボンヤリと光る楓の口唇を照らす。
「たゆん」──
私と黒音のアノ部分が揺れる。
いつにも増して感じる。
心臓なんて無いはずなのにドキドキする。
私は、楓の口唇へと、自分と黒音の口唇を近づけて……寄せた。