私と黒音(クロネ)……。
「話があるの……」
「え?」
夜中。
とは言っても、まだ22時過ぎだけど。
昼間の街の定期巡回と夜の護摩焚きで疲れたのか、楓は「グーグー」と、鼾をかいて眠っている。
眠りに落ちた楓を見届けた私と黒音の二人は、二人とも体育座りをして、楓を挟んで両隣に佇んでいる。
急に「話があるの」って言いだした黒音と「え?」しか言えなかった私との間で、楓が寝返りを打ちながら独り寝言を言う。
「黒音ちゃん……。夢葉……。大好きだよ……」
楓の寝言に「ドキ……」と、する。
黒音が優しい眼差しで楓を見つめながら「ウフフ……」と、静かに微笑む。
まるで、黒音が聖母に見えた。
私は──
そう想っていると、黒音が私の顔を見ながら、縁側の方を「クイッ」と指差している。
黒音が「スー……」と立ち上がり、縁側の方へと移動する。
私も、立ち上がり「スー……」と、縁側の方へと黒音の後に憑いて行く。
「夢葉? 楓くんと私とのことで、悩んでるでしょ?」
最初に、口火を切ったのは、黒音だった。
「え? ナニ? 何のことかな……」
素直になれない私。
この期に及んで、私はまだ黒音に惚けようとしている。
後ろめたいんだ。
「フフ……。なんか私たちって、複雑だよねー?」
「え? あ、うん……」
私が言うより先に、黒音に言われてしまった。
黒音も、やっぱり私と似たような心境だったのだろうか。
私は、黒音に言われて、肯くしかなかった。
けど、黒音と楓は、悪魔的儀式をシて魂の契約で結ばれている。
「そう言えばさ。私の名前? まだ夢葉に言ってなかったよね?」
「うん。まあ、そうだけど……」
すっかり、忘れてた。
黒音の名前のこと。
私は、黒音に言われるまで気がつかなかった。
黒音と悪魔的儀式をシて魂の契約をするワケでもないし、黒音のことは信頼してるし、別に気にもならなかったし、忘れてた。
けど、悪魔的儀式も魂の契約も、黒音が思いつきで考えただけで、本当のところは、本物かどうか私には分からない。
オカルト好きな黒音が、言ってるだけで、本当は──
でも、こないだの『浄霊指令』の件で分かったけど、名前と呪術的な効果は何か関係がありそうだ。
けど、そんなことは……。
私の中じゃ、どうでも良かった。
黒音の本当の名前も、あんまり興味ない。
別に黒音は黒音で良いし。
特に何か変わるワケでもないし。
私の気持ちが、独りダダをこねている。
楓を独り占めしたいって。
私は、体育座りして、黒音とは逆の方へ顔をプイッと向けた。
「あー。分かった。夢葉は、私にヤキモチ嫉いてるんでしょ?」
「そ、そんなじゃ無いよ……」
素直になれない私を見透かしたかのように、黒音が私に話かける。
当然、私は、否定する。
私より、ふたつ年上の黒音が、なんだか本当に私のお姉ちゃんみたいに想えた。
「良いよ? 私の中に入っておいで。私の中に入って私に憑依して私を操れば、楓くんの中に入れるよ? 楓くんの夢の中で、楓くんと悪魔的儀式をシて魂の契約を交わせば、夢葉も私と同じになれるよ?」
夢を操るのは得意だからって──
黒音は、笑って私に話してくれた。
後ろめたい気持ちなのは、黒音も私と同じように抱えていたのかな?
私は、黒音の中に入って、私も黒音みたいに楓と魂の契約を結ぶことに決めた。
黒音、ごめん。黒音……。
「私の名前は、『黒井戸黒音』。夢葉、来て……」
「ドキッ……」と、する。
黒音が、まるで私に口吻するかのように、目を閉じている。
「私の名前は、『叶夢葉』。黒音、ありがとう、行くよ……」
本意ではないけれど……。
私の口唇が黒音の口唇に触れると、私の魂の本体が黒音の身体の中に吸われてゆく。
私は黒音になった。
(さあ……。楓くんの中に、入って……)
どこからともなく、黒音の声が、私の中へと響いた。
黒音の胸が「たゆん」と揺れると、まるで私の胸みたいに「たゆん」と、揺れた。
けっこう張りがあって黒音の「たゆん」も、おっきかった。
☆七海 糸様☆ 黒音『FA』─ありがとうございます─m(_ _)m




