夢葉(ユメハ)の想い……。
お母さんの霊気ヒーリング。
楓と黒音は、喜んでくれてたみたいだけど……。
私は……。
言えなかった。
言いそびれてしまった。
私も黒音みたいに、楓と悪魔的契約がシたかった。
楓と二人きりになれる状況なんて、そんなに無いし。
二人きりになれたとしても、楓の中には黒音がいるし。
スッキリしない。
モヤモヤする。
少しでも楓を独占シたいって想うと、私からも負のオーラが、出ちゃってるんだろうか……。
少しでも楓の役に立ちたい。
少しでも楓を幸せにしたい。
けれど……。
楓を独占シたいって気持ちは、浄霊指令の時の骸骨みたいな死神系な女の人みたいに、楓の生命力を奪っちゃうモノなんだろうか?
あんな風には、なりたくない。
なら、黒音には、私と楓がシてる時だけ、目を瞑っててもらう?
あー。
微妙……。
なんか、複雑。
私は、アレだけど、だんだん楓に対する気持ちが抑えられなくなって来ている。
けれども、黒音のことだって、嫌いじゃないし、一緒にいて欲しいとも想う。
「ハァ……」
らしくも無く、私が溜め息をついてると、後ろから急に楓が声を掛けて来た。
「どうしたの? 夢葉?」
「あ、い、いや! なんでも無い、なんでも無いんだよ! 楓!」
気にしてくれてる? 楓?
単純な私は、嬉しくなって急に気持ちが切り替わり、目の前の現実に戻ることが出来た。
「おーい! そっち終わったー?」
さっきまで、野良の黒猫と遊んでいた黒音が、コチラに戻って来た。
「どうしたのー? 夢葉。考えごと?」
「え? い、いや。なんでも無いよ……」
黒音は、分かるんだろうな……。
悪魔的契約シてるから。
楓の微妙な気持ちの動きとか……。
私と楓と黒音の三人は、昼間の定期巡回で、お寺の山から降りて麓に広がる街に、今、来ている。
『叶グループ』会長兼お寺の住職のお爺ちゃんからの会社指令。
社員でもある楓の『常世道先案内相談員』の『付き添い秘書』として。
こないだ行って来た『浄霊指令ポイント』は、私たちの山の裏手側で、さらに遠く離れた辺鄙な場所だったから、峠を幾つも越えて山道をグルグル軽トラで走らなきゃイケなかったけど。
お寺のある山の麓のこの街は、意外に開けてる。
けど、結局、街中に浮遊しているアレな皆さんは、けっこう居て、一人ひとりにお祈りするのは、凄く時間がかかるので、お爺ちゃんがお寺で『護摩焚きの法要』をすることになった。
で、私たちは、いつもの軽トラの荷台部分にお寺に代々受け継つがれて来た『霊石』を設置して街中をゆっくりと軽トラで走らせることになった。
「来てるよ、来てるよー? アレな皆さんたち! 『霊石』って、そんな効果あるんだ?」
黒音が軽トラの荷台部分に集まって来ているアレな皆さんを見て、興奮している。
それにしても、凄い。
荷台部分に、魂さんたちが、物凄い勢いで集まって来ている。
実家の庭の池で回遊している錦鯉さんたちに、『お麩』の餌をあげた時のような勢いの、喰いっぷりの良さだ。
そんなこと、言っちゃあイケないんだろうけど……。
『霊石』は、『盛り塩』のような三角形のカタチをしていて、アレな皆さんや私たちには、気持ち良く癒される効果があるから、けっこうな数のアレな皆さんが、集まって来てくれた。
軽トラの荷台部分に乗り切らないアレな皆さんは、人魂みたいになって、軽トラに憑いて来てくれているようだけど……。
私と黒音は平気なんだけど、楓が苦笑いしている。
「すんごい数のアレな皆さんたちが、集まって来ているね……。大丈夫なのかな……」
軽トラを運転しながら、楓が、言う。
私と黒音の霊的な影響のせいで、楓にもアレが視えるようになって来ているのだろう。
けど、軽トラ荷台部分に設置された『霊石』のおかげで、アレな皆さんの負のオーラを受けても、楓は、今のところ大丈夫そうだ。
ちなみに──
さっき、黒音が黒猫と遊んでいたポイントは、この街を守るための『五芒星』の『結界』のひとつだ。
それは、あらかじめ、お爺ちゃんが設置してた『祠』。
毎日祈ることで、より『結界』の強度が高まり効果を発揮するらしい。
その『祠』のお掃除とお祈りをして祀るために、楓と私と黒音が、会社指令で、ここに居る。
『結界』の効果としては、アレな皆さんの活動を鈍くして、成仏の手助けを促進──
浄霊とまではいかなくても『五芒星』の『結界』の作用により、この街の負オーラが浄化され、生きてる人もアレな皆さんも皆一緒に、幸せになれるんだろう……。
♧♡♤◇
──夜になる。
お寺に戻った私と楓と黒音の三人は、お爺ちゃんの『護摩焚きの法要』で、夜空へと昇るアレな皆さんの魂をアチラ側へと送った。
天まで届きそうな『護摩焚き』の炎が、まるでアレな皆さんの魂を押し上げているかのように見えた。
ひとつひとつのアレな皆さんの魂が、夜空に浮かぶ星みたいに輝いては消える。
こう言っては、イケないのかも知れないけど、キレイだった。
私も、あんな風になるのかな?
なんか、急に気持ちが切なくなって、隣にいた楓の手を握る……。
「楓……」
「ん? どうしたの? 夢葉?」
私が、楓の目を見つめると、楓も私の目を見つめ返す。
「なんでも無いよ。楓」
「?」
しばらく、沈黙の時間が流れて、
不思議そうにしている楓の後ろの影から、黒音が「スー……」と現れた。
5秒の時間が経って、私の手から楓の手が、するりと抜け落ちた。
黒音の胸が「たゆん」と揺れて、私の胸も「たゆん」と揺れた──




