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レイカノ。~『霊(アレ)』に好かれてから、俺の人生が180度変わった件~  作者: すみ いちろ
第一章 呪霊解きの世界……。『ウィズ ゴースト レインボー』
33/88

浄霊……。




「あのう……。ここじゃ何ですから、上でお(ハナシ)でも……」



 俺は、公衆トイレとは言え、共用スペースの車椅子用トイレで、ご婦人と小さな女の子の身の上話を聴くのも何だからと想い、真上にある高速道路バス(ストップ)の待合室へと、二人を誘導した。


 俺を先頭に……。

 ご婦人、小さな女の子、夢葉(ユメハ)黒音(クロネ)ちゃんの順に並んで、高速道路バス(ストップ)に昇る階段を登る。


 俺以外は、さしものアレな皆さんたちだから「スー……」と、エスカレーターに乗るようにして登って来る。


 一瞬、俺の背筋が「ぞくっ」と、する。


 しかしながら、常世(ワールド)道先案内(ナビゲーション)相談員(コンサルタント)の俺だ。

 たじろぎ、(ひる)むワケにはいかない。


 「丑三時(うしみつどき)」。

 真夜中の高速道路バス(ストップ)の待合室とは言え、日没後から、コンビニの明かりのように、淡いオレンジ色の電球が絶えず()いている。

 

 誰もいない。


 目の前の高速道路にだって、ほとんど車が走らない。

 「シン……」と、している。


 俺は、寒さを(こら)えながらも、冷たい待合室のプラスチック製の椅子に座る。


 ちょうど、五つの椅子が連なっており、夢葉(ユメハ)、俺、ご婦人、女の子、黒音(クロネ)ちゃんの順に並んで座る。


 いざと言う時の守りのために、俺の右手側隣に夢葉(ユメハ)

 離れてはいるが、アレなお相手さん二人を挟み込むようにして、一番奥の左端に黒音(クロネ)ちゃんが、座る。


 黒音(クロネ)ちゃんが、ご婦人と小さな女の子を挟んで俺から一番遠く離れているのは、悪魔的契約を俺と交わした黒音(クロネ)ちゃん本体が、俺の中にいつでも常にいて、俺のすぐ側にすぐさま『出て来てくれる』と、俺が信じて疑わないからだ。


 挟み撃ち。


 特に臨戦態勢をとっているワケではないが、何が起こるか分からない。

 

 念には念を。


 俺、夢葉(ユメハ)黒音(クロネ)ちゃんは、無意識下で知らずの内に、息の合った三人パーティーの連携を『(ファースト)浄霊指令(ミッション)』の最中、とりあっていた。



「あのう……。すみません。お名前は?」



 俺は、とりあえず、ご婦人のお名前を改めて尋ねることにした。



「う、うぅっ……!!」



 ご婦人の美しいお顔が、

 まるでゾンビのように、ダラダラと、たちどころに崩れてゆく。



「ひ、ひぇっ!!」



 もはや、ご婦人の顔が見られない俺。



(カエデ)!!」



 俺を背にして、(かば)うように俺のすぐ目の前に立ちはだかる夢葉(ユメハ)


 目の前のご婦人だったモノが、ゾンビを通り越して白骨化している。

 ご婦人のすぐ側にいた小さな女の子ですら、俺の決して見たくはないモノへと腐乱してゆく。



「ふふふ……。お命までは獲りませんよ? 川岸(かわぎし)さん? 少々、分けていただくだけです」


 

 ご婦人だったモノが、俺の苗字を呼んだとたんに、俺の身体の動きが鈍くなってゆく。

 まるで、スローモーションのように。


 俺は流石に、いきなり戦闘(バトル)は想定していなかった。

 なんせ、レベル『1』だ。


 会長(じいさん)が、いきなりレベル『1』な俺たちに危ないヤツをぶつけて来るワケは無いし。そう想っていたんだが……。


 単なるお悩み相談で今回は終わるかと想っていたんだが、違っていた。

 俺が甘かった。

 

 完全に、俺の動きが金縛りのように封じられたワケではないが、よくある異世界(ゲーム)のステータス異常のように、俺の思考速度も身体の動きも鈍くなってゆ……く。

 

 そ、そういや、そんな呪文……異世界(ゲーム)にあった……な?

 次の戦闘態勢(ターン)まで……めちゃくちゃ時間……かかるヤツ……。



「ふふふ……。川岸(かわぎし)さん? 下のお名前も読ませていただきますね?」



 白骨化しているご婦人だったモノが、『幽霊(ゴースト)名刺(カード)』に書かれた俺の下の名前を詠みあげようとすると、「バチ!」と小さな雷のような放電現象が大気中に起こり、煙とともに『幽霊(ゴースト)名刺(カード)』を手放した。



「くっ!!」



 白骨化しているご婦人だったモノが『幽霊(ゴースト)名刺(カード)』を放電現象とともに手放してしまった自身の左手を(かば)う。


 その隙に黒音(クロネ)ちゃんが、『幽霊(ゴースト)名刺(カード)』を地面から拾い上げようとした瞬間──



「わたさない」



 信じられないことに、もうすでに『幽霊(ゴースト)名刺(カード)』を腐乱した手で持っている小さな女の子。

 俺は、その子の顔をやはり未だに直視出来ない。


 と、俺の思考速度が、いつもの感じに戻って来ているのを感じる。

 

 さっきまで、かなりのスローモーションに感じていた俺の身体の動きも、いつの間にか、いつもの感じに戻って来ている。


 会長(じいさん)の作った『幽霊(ゴースト)名刺(カード)』が、白い煙を上げたのと同時に、腐乱した女の子の指の先端部分が溶けて蒸発してゆくのが、俺の目に見えた。


 隣にいた白骨化しているご婦人だったモノの『幽霊(ゴースト)名刺(カード)』を持っていた左腕の半分以上が、すでに蒸発して消えてなくなりかけている。



 どうやら、会長(じいさん)の作った『幽霊(ゴースト)名刺(カード)』は、強制的にアレを浄霊浄化(クリーニング)してしまう感知式の仏具(グッズ)のようだ。

 度を超えた危険過ぎる(マイナス)のオーラを放つ凶悪なアレが、俺の名前を詠みあげようとすると、容赦なく浄霊(イレース)効果(バフ)自動(オートモード)で発動させる。


 単に悪意のない無害なアレには幸せと安らぎを与え浄化させるのだろう。

 けれども、問答無用で容赦なく襲いかかる凶悪なアレには、それこそ問答無用で容赦なく強制浄霊(クリーニング)する。


 しかし、どこか、淋しさも感じる俺。


 お互いに話す余地は、無かったのか?


 俺だって、会長(じいさん)から任命されて、常世(ワールド)道先案内(ナビゲーション)相談員(コンサルタント)になったばかりなんだ。


 なにがしかの手助けはするし、アレな皆さんの力にもなりたい。

 おこがましいのか?


 

「ぐああぁぁぁ!!」



「きゃぁぁぁぁ!!」



 恐ろしい、まさに断末魔と言うべき、叫び声。

 白骨化していたご婦人と腐乱した小さな女の子。


 何が目的で、生ける者たちの生命力を奪い取ると言うのだろう。


 命までは獲らないとは言ったが、確実に寿命は吸い取られているはずだ。

 

 生かさず、殺さず。


 推測だが、マーキングでもして呪詛(じゅそ)し、ゆっくりと何人もの生命力を奪い取り、吸い上げるとでも言うのか?


 しかしながら、今となっては、問いかけることも出来ない。

 もとより、今回の相手は聴く耳もまったく持たず、名前すら明かさなかった。


 黒音(クロネ)ちゃんの言ってた悪魔的儀式と名前の交換は、やはり大きな意味と関係があるのだろうか。


 呪文のような効果を相手に及ばせるためか?


 とにかく、俺の憶測の域を出ない。


 それよりも、もう、取り返しのつかないほどに、浄化され消えゆく、ご婦人と小さな女の子。


 果たして、これで、良かったのだろうか?


 疑問と、わだかまりが、心に残る。



「はい。終了ー。お疲れっ! (カエデ)くん? なんか、あっけなかったね?」



「お疲れさま。(カエデ)……。なんか、淋しいね」



 割り切ってる感のある黒音(クロネ)ちゃんが、先に俺に声をかけ「カラン」と地面に落ちた『幽霊(ゴースト)名刺(カード)』を拾い上げた。

 

 その後で、割り切れない感ただよう夢葉(ユメハ)が、(うつむ)いて、一人つぶやいた。





 「たゆん」……。


 俺の目の前に揺れる二人の「たゆんたゆん」だけが、今の俺には希望の光だった。













 

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― 新着の感想 ―
[一言] うぅむ、いろいろとしこりが残るお話でしたねぇ(;'∀')
[良い点] 幽霊名刺の効果が発動しました◎ 無事に終わってよかったです(*^^*)
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