『浄霊指令(ミッション)ポイント』真っ只中……。
「もし、さっきのお婆ちゃんが、アレな相手なら、やっかいだったよねー?」
「だよねー? 空間転移型? 急に消えるヤツ? 普通さ、アレだったとしても、私らの目には視え続けるもんだよね?」
「うん。さっきのアレなお婆ちゃんは、力は弱いけど、霧みたいにして存在を薄くして、あたかも消えたかのように見せかけてた。たぶん、まだ、あそこに漂ってる」
「あ、夢葉も分かってたか。空間転移の私の能力とは、ちょっと違ってたよねー? 状態変化型? 身体の形状を変えるヤツ?」
「黒音も出来るじゃん? 蛇みたいになれるヤツ。でも、その能力に関しては、さっきのお婆ちゃんの方が特化してたよねー?」
会長から言われた『浄霊指令ポイント』へと向かう俺の運転する軽トラの狭い車内。
夢葉と黒音ちゃんに対して、何を言い出すのかと想う俺。
やっぱり、夢葉と黒音ちゃんは、アレだからアレな存在のお婆さんに対しても遠慮なく物が言えるのか?
しかしながら、アレな存在の中でも、能力系統というモノがあって、それぞれの個性に応じて使える能力が、異なって来るのだろうか?
それにしても──
「くわばら……くわばら……」
震える手で、車のハンドルを握る俺。
俺は、さっきのアレなお婆さんに対する祈りと畏敬の念とで、いっぱいだ。
早く急カーブに「減速!!」の看板と事故防止の目印となるような物を会長に依頼して、設置してもらいたいと願う。
ひとまず、車を路肩に停止させ、俺は会長へとラインを送る。
アレなお婆さんを安らかにアノ世へと送り、コチラ側から成仏させて頂くためにも、必要必須事項な案件だと想われる。
俺は、まだ『浄霊指令』を遂行してはいないが、一つ仕事をこなした気になっている。
そうか……。
お気に入りアニメ曲と最新ランキング曲が、爆音で鳴り響く軽トラ車内の中、俺は『浄霊』に関する仕事のヤリ甲斐を感じ始めていた。
もちろん、アレな夢葉と黒音ちゃんの「たゆんたゆん」を横目でチラリと見ながらだ。
さっきのアレなお婆さんの急カーブ目印ポイントで午前0時。
あれから、なんだかんだで真夜中の山道を軽トラで飛ばすこと、1時間。
デジタルな軽トラの置時計は、クッキリと緑の蛍光色で午前『01:00』を示していた。
深々とした真夜中の山道を抜け、問題の『浄霊指令ポイント』のある高速道路の『バス停』に着いたのが午前『01:30』。
アレがよく『出る』と噂された、ネットの書き込みがあった丑三時の午前『02:30』には、まだ1時間ある。
『浄霊指令ポイント』は山道を抜けた先で、民家もまばらにあるようなのだが、高速道路のバス停周辺には、ほとんど何も無く、バス停真下の高速道路高架下のトンネルに、寂しい外灯が白く灯っている。
俺は、夢葉と黒音ちゃんを乗せた軽トラを、トンネル手前の路肩へと寄せて停止させ、エンジンを切る。
ヘッドライトも切れて、辺り一面の静けさと暗闇が、より一層、俺たち三人を覆う。
トンネル内の蛍光灯だけが、白く光る。
「おーい! 誰も、いませんかー?」
慣れたのか、軽トラから素早く降りたアレな夢葉がトンネル内で叫ぶ。
「面倒だから、早く出て来てくんなーい? 話シたいんだけどー?」
黒音ちゃんが、バチ当たりな物の言い方で叫ぶ。
いやいや。アレを煽るような物の言い方は、良くないよ? 黒音ちゃん?
いや。黒音ちゃんだって、アレなワケだけれども……。
見た限り、いや、視た限り誰もいない。
俺も、夢葉と黒音ちゃんに出会った影響なのか、霊感ゼロなはずが、どうやら『アレ』が視えるようになって来ているようなのだ。
「そう言えば……」
俺は、会長から聴いていた公衆トイレのことを想い出す。
いや。覚えてはいたのだが、さっきアレなお婆さんとご対面したばかりなのだ。
『アレ』に普段から、あまり耐性の無い俺は、躊躇っていたのだ。
いやしかし、夢葉と黒音ちゃんのお陰で耐性のついて来ているはずの俺なはずなのだが──
初対面での『アレ』との遭遇は、やはり慣れない。
怖い。
俺は、高速道路バス停のある高架下トンネル手前に設置された公衆トイレの扉を恐る恐る開ける。
「すみませ~ん……」
男子トイレ。誰もいない。
「すみませ~ん……」
これは、仕事だ。
申し訳ないと想いつつ女子トイレ。
誰もいない。
「あ……!」
夢葉が、咄嗟に叫ぶ。
「いるね? 黒音?」
「いるよ? 夢葉?」
夢葉と黒音ちゃんが、霊的な反応を示す。
いや。分かってたんだ。分かってた。
俺も、分かってたんだが、開けたくは無かった。
共用スペースの車椅子用のトイレ。
会長の言ってた場所。
『浄霊指令ポイント』。
俺の右腕のデジタル電波腕時計が、緑の蛍光色で、午前『02:00』ちょうどを刻み光る。
「まだ、丑三時じゃないよね……?」
俺は、立ち止まり、トイレの扉を開けるのを、一瞬、躊躇う。
「南無三」とばかりに、俺は祈るような気持ちで、夢葉と黒音ちゃんの「たゆんたゆん」を横目にチラリと見る。
背筋に、油汗なのか冷や汗なのか、俺の心臓の鼓動のドキドキと共に、よく分からずに流れるモノを感じて、俺は凍る。




