黒音の微笑……。
「すまんかったの……。お前さんの気持をちっとも考えとらんかったわい」
気がつくと……。
夢葉と楓くん、それに私。
夢葉の家族たちも全員、寺の玄関先の庭に出てて、私たち三人と夢葉の家族たちとの間に、薄ボンヤリと光る一人の小さなアレな老人がいた。
私に向けられた謝罪の言葉。
たぶん、夢葉の曾祖父ちゃんだろう。
「結婚などと軽々(けいけい)に口にしたのはワシの間違いじゃったわい。其方は、黒音さんと申されるのかの? 黒音さんは『呪いの力』で未来に起こる事象をワシらに視せてくれたんじゃな? 無意識かの? 楓くんが、楓くんの中に眠る其方の魂を宥めねば、確実に未来に起こる事象として全てが破壊されておったわい。それと、黒音さん……其方の友達でもある夢葉の呼びかけと抱擁が無ければな……」
そうか。
私は、『呪い』にとらわれて、全てを破壊しようとした。
楓くんと夢葉を残して。
想いの枠にとらわれたアレなモノたちが、魂の概念を飛び越えて変化するのは難しい。
思い込みや凝り固まった思考。
それらの『念い』こそが、この世に本人をこびりつかせ、留まらせようとする。
四十九日の法要が済まされず、アレな本人に生者の温かな祈りが届かなければ、アレになったことさえ気づかず、気づけたとしても、この世に留まり続ける。
運命。
私は、とうにその四十九日の期間を過ぎていたのだろう。
温かな祈りなど、聴いたことも無い。味わったことも無い。与えられたことさえも無い。
けれど、今、感じられるのは……。
楓くんと夢葉の私への温かな想い。
祈り。
私と一緒にいたいという楓くんの願いと、夢葉の私を放っておけないという想いが、痛烈なまでに鮮烈に、私を貫く。
今まで感じたことの無い感情。
幸せ。
ここまで、私を想ってくれる楓くんと夢葉に、私は思わず成仏しそうになる。
「気持ちがいい……」
悪魔的『呪い』の思考が、私の中から解ける。
「黒音。大丈夫……?」
夢葉が、「たゆんたゆん」させて私を見つめる。
「大丈夫……なのかな? 黒音ちゃん?」
楓くんの一部が私に当たっている。心配そうな眼差しで私を見つめている楓くん。
ダメだ。
成仏してしまう……。
私は、想いとどまる。
私は、まだ逝けない。
アレな私たちには、この世での役割なんて、ほとんど無い。
けど、私には、役割が、ある。
楓くんと夢葉の力になる。
さっきの爆発的な『呪いの力』は、楓くんと夢葉に役立てる。
私のアレな生き甲斐。
ウフフ……。




