とまどい……。
「たっだいまー!!」
気合い一発。
私は、楓の手を握って、実家の玄関の引き戸を勢い良く開けて叫んだ。
「「「 お帰りー!! 」」」
待ち受けていたのは、一体何人いるんだ? という私の家族総出のお出迎え。
その中には、叶総理事長こと、私のお父さんも、ちゃっかりいる。
家族総出で、泣いている。
これだから、イヤなんだ。
そう。
私の家族は、全員アレが『視える』。
霊験あらたかな家系に加え、それぞれが第六感を生まれながらに兼ね備えている強者ぞろい。
お父さんは、このお寺の長男。
お母さんは、とある神社の巫女にして長女。
私には弟と妹がいるが、それ故アレに対して『視える』『聴こえる』『感じる』『触れられる』に、まさに特化したサラブレッド。アレの申し子のようなものだ。
お婆ちゃんは、霊媒師で占い師。
お爺ちゃんは、『叶グループ』の会長にして、現役住職。
さらに、犬や猫がたくさんいて、鳥に至ってはオウムやフクロウ、鷹なんかも家の中を飛び回っている。
さらにさらに、爬虫類は、亀、蛇、トカゲ。
庭池では、天然記念物のカエルやら、オオサンショウウオまでいて、錦鯉はもちろん回遊している。
今どき竹で出来た『コケオドシ』なるものが、「カコォン!」と時折、風流に鳴り響く。
そんな家だ。
これには、流石の黒音も驚いている。
「な、何これ!?」
黒音がアレであるにも関わらず「ワンワン!」「ニャアニャア」と、大量の犬たち猫たちが、黒音に擦り寄っている。
もちろん、私と楓もその中にいて、楓は私の手を震えながら握りしめている。
あれ?
楓って、アレな私の手に触れられたっけ?
そんな私のお寺は犬まみれ猫まみれの動物まみれ。
山奥の、こんな場所に一軒家? というほどのド田舎で辺鄙なところだから、ご近所さんはおらず、迷惑はかからない。
楓の車は山の麓に置いて、社用車となる四駆の軽トラに乗り換えて、山の凸凹道を登ること1時間。
そうこうして、ようやく辿り着いた私の実家だった。
そして、今、玄関を開けてすぐ目の前の土間の上がりカマチには、家族たちが全員総出で、私、楓、黒音を出迎えている。
「うぅっ。今まで何処行ってたの? 夢葉? あら? そちらは、お友達に婚約者?」
お母さんが言う。
「父さんだって、心配したんだぞ! 夢葉! そちらは夢葉のお友達と社員の川岸くんだな?」
お父さんが言う。
「姉ちゃん、胸、おっきくなってない? あ、そっちのお姉ちゃんも胸おっきいね? こんにちはっ!」
エロ弟が言う。
「お姉ちゃん、ふあふあたゆんたゆんシて!」
妹が抱きつく。
お婆ちゃんが「ヒョヒョヒョ」と笑い、お爺ちゃんが溜め息をついて言う。
「まったくの。何処に行ったか心配したぞい? 夢葉。アレになってもワシの可愛い孫。成仏せんでおくれよ? しかしながら今朝方、ワシの親父、つまり夢葉の曾祖父ちゃんからワシに連絡があっての?」
「曾祖父ちゃん?」
「そうじゃ。夢葉の曾祖父ちゃん。ご先祖様にして夢葉の守護霊さまじゃ!」
驚いた。
「もしかして……」
「そう。まさかの、もしかしてじゃ。夢葉。ほれ? 公園で会ったじゃろ? いろいろとアレにまつわるノウハウを伝授してやったとか、指南してやったとか言っておったぞい?」
「そ、そうなんだ……」
「なんでも『夢葉が結婚相手を連れて来るから、早急に寺に呼べ!』そう言っておったぞい!」
「アハハ……」
私は、笑うしか無かった。
ずっと、誰だか分からなかったけど「お爺ちゃん」って私が呼んでいたのは、私の「曾祖父ちゃん」だった。
道理で、見たことないはずだ。
私が生まれる前にナントカって聴いてたから……。
「え!? け、結婚相手っ!? 楓くんが!? 夢葉の!?」
そう言って、驚きを隠せないのは、黒音だ。
楓は、絶句して金縛りにあったように、身動きが取れない。
私の胸が、どうして良いか分からず、小刻みに「たゆたゆ」震えている。




