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レイカノ。~『霊(アレ)』に好かれてから、俺の人生が180度変わった件~  作者: すみ いちろ
序章 始まり……。『ウィズ ファントム ハート』
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ぎゅっ……。




「す、すみません。ち、遅刻しました」



 深々と、ここの施設長らしき人に、頭を下げる(カエデ)


 お父さんが経営してる施設だから、お父さんにバッタリ会わないか、どうもさっきからソワソワしてる私。


 黒音(クロネ)は、もの珍しそうに、施設の玄関で飼われている水槽の中の熱帯魚を、熱心に覗き込んで見ている。

 ユラユラと揺れるように泳ぐ熱帯魚の水槽に、黒音(クロネ)の胸が「たゆん」と映る。


 職場の制服(ジャージ)に着替えた(カエデ)が、学校で先生に怒られた生徒のように気まずそうに立っている。

 何やら、ここの施設長らしき人と(カエデ)が、話始めた。



「あ、いやいや良いんだ。川岸(かわぎし)くん。遅刻届けは、後で書いてもらうとして、さっき(かのう)総理事長から連絡があってな? 急なんだが、異動が決まった。早速、本部の方へ行ってくれないか? あ、本部と言っても、(かのう)総理事長のご自宅のお寺の方みたいだ」



「え!? そうなんですか!? そ、そんなことって、あります? 少し怖いですね……。(かのう)総理事長とは、入職する時に会っただけで、すごく緊張するんですが……」



「俺も、なぜ川岸(かわぎし)くんの異動が急に決まったのかは、よく分からん。そうだな……。ま、そこまで堅くなる必要はない。割と気楽に話せる人だ。とりあえず、早めに来てほしいとのことだ」



「分かりました……」



 えっ!? お父さん!? なんで!?


 嫌な予感が、する……。


 どうして、こんな展開になったのか?

 感づかれた? どうやって?


 私の頭の中に、様々な憶測が飛び交う。

 けれども、該当するような答えは、私の頭の中に想い当たらない。


 それにしても……。


 『(かのう)』という(せい)……。


 私とお父さんのことは、まだ、(カエデ)には気づかれていないようだ。

 けれども、隠しておくメリットは無いし、隠しておいたとしても(カエデ)が驚くだけだし。


 ここは……。思い切って、(カエデ)に言っといた方が、良いのかな?



(カエデ)……。ちょっと、ちょっと」



「ん?」



 私は、さっきいた誰もいない男子更衣室を指差して、(カエデ)を誘導する。



黒音(クロネ)ー。黒音(クロネ)も、こっち来て?」



「えー? お魚さんたち、可愛いのにー……」



 黒音(クロネ)も忘れずに、呼んでおく。


 私たちアレな存在は、似たようなオーラの人に近寄ることは出来ても、一度離れてしまうと、憑いて行かなければ見失ってしまう。


 ここで、黒音(クロネ)を置き去りにすると、黒音(クロネ)は途方に暮れてしまうだろう。


 また、さっきのホテルに逆戻りするより他ない。

 それか、黒音(クロネ)の想い入れのある何処(どこ)かにしか戻れない。


 浮遊するアレになってもイケないし、黒音(クロネ)のことは、なんだかんだ言っても心配だ。


 だから、黒音(クロネ)のことも呼んでおく。



「いやー。俺、異動だって。しかも、総理事長のお宅に呼び出し? 俺、なんかヤラカしちゃったのかな? すごく怖いし緊張する……」



「あー。そのことなんだけど(カエデ)……」



(カエデ)くんは、出来る(オトコ)! だから、きっと、お偉いさんに呼び出されて出世するんじゃない?」



「も! 黒音(クロネ)に言ってない! けど、黒音(クロネ)も聴いて」



 私と(カエデ)黒音(クロネ)の間に微妙な空気が流れる。

 少し私は黙ったあと、言うべきことを二人に伝える。



「じ、実は……」



「「 ふんふん…… 」」



「実は、あの……」



「「 ふんふん…… 」」



 上手く言えない。

 けど、言っておいた方が、良い。

 でも、言わないなら言わないでも、済みそうだ。

 どうせ、後から分かる。



「何? もう。夢葉(ユメハ)? 気になるー。こんだけ、引っ張っといて、オチ無しとかやめてよね?」



「んー。俺も気になるな。なになに? なんかあったの? 夢葉(ユメハ)?」



 やっぱり、言おう。

 どうせ、行かなきゃイケないし。

 

 でも、行きたくないなー。戻りたくない。帰りたくない。

 だって、この施設の本部は、お寺。私の実家。

 そこには、(みんな)いる。

 だから、あー。イヤだ。行きたくない。

 いちいち、切なくなりたくない。

 けど、(カエデ)に憑いて行くって、決めたし……。

 

 後戻りは、出来ない。

 よし……。言おう。



「あの……。今から行くトコって……」



「「 行くトコって? 」」



「実は……」



「「 実は……? 」」



「私の実家なんだ……」



「「 えーっ!! 」」



 (カエデ)黒音(クロネ)が、予想外の私のカミングアウトに、想像以上に驚愕している。

 ここまで二人のリアクションが、凄いとは思わなかった。


 言った私の方が、ビックリする。


 黒音(クロネ)の「たゆん」も、大きくうねるように波打つ。



「どうした!? 川岸(かわぎし)くん!?」



「え? い、いや。なんでも無いです。施設長。それより、早急に総理事長のところへ行って来ます」



 施設長とかいう人が、男子更衣室に急に飛び込んで来た。

 私は、この人と面識は無い。

 けど、それだけ、(カエデ)の絶叫が、この施設内に鳴り響いたということか。


 そんなに驚かなくても……。

 けど、絶叫というのなら、私の「帰りたくない」の心の絶叫もかなりのモノだと想う。



「へー。夢葉(ユメハ)の実家? 楽しみー」



「よ、余計に、き、緊張して来た……。(かのう)……そうか。夢葉(ユメハ)と総理事長、確かに同じ苗字だね? そ、それにしても夢葉(ユメハ)が、総理事長の娘さんだったなんて」



「アハ! 聴いちゃった? 夢葉(ユメハ)の苗字! これで、夢葉(ユメハ)のフルネームゲットぉ! あ、(カエデ)くんは、悪くないよ? どの道、遅かれ早かれ、夢葉(ユメハ)の実家に行けば分かることだったんだから」



 え゛っ!? 把握された……。

 悪魔的女子黒音(クロネ)に、私のフルネーム。

 今、気づいた私。

 けど、どの道、黒音(クロネ)の言うように、バレてたこと。



「く、黒音(クロネ)の苗字も教えてよね! 黒音(クロネ)は、憑いて来なくったって、良いんだからっ!」



 私は、また黒音(クロネ)を傷つけるようなことを言ってしまう。



「分かったわよ。別に夢葉(ユメハ)に憑いて行かなくったって、私は(カエデ)くんに憑いてイケるようにシたし? けど、夢葉(ユメハ)にも私の苗字、教えといた方がメリットありそうだから、後で教えといてあげる」



 悪魔的儀式を(カエデ)に既に施しているのだろう。

 黒音(クロネ)。自信満々だ。

 そして、私と黒音(クロネ)の損得勘定の中で、互いに得するウインウインな関係に、黒音(クロネ)は持ち込もうとしている。


 ま、いっか。

 それでも、私は、別にかまわない。


 けど、今の黒音(クロネ)に比べて私は、弱気だ。

 実家に帰りたくないから。


 私は意を決して、(カエデ)黒音(クロネ)の二人を引き連れて実家へと乗り込む。



 私は、わざと、アノ部分を「たゆんたゆん」と揺らす。

 (カエデ)の手を握る。












 


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― 新着の感想 ―
[一言] 今からお義父さんに会うのか……ドキドキですね(;'∀')
[良い点] あ、前に黒音ちゃんの苗字出てきましたね……! 物覚え悪くてすみません〜(。-∀-)汗 すみさまは地震、大丈夫でしたか? こちらは特に被害は出ていませんが、お互い気をつけましょうね。
2022/03/17 12:37 退会済み
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[良い点] 夢葉ちゃん、ついにカミングアウト……! どうなるのかめちゃくちゃドキドキです……! お魚を眺める黒音ちゃんが可愛い〜( *´艸`) 黒音ちゃんの苗字も気になります♫ 「たゆんたゆん」に癒さ…
2022/03/15 23:49 退会済み
管理
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