一夜……。
「ねぇ……? シてたでしょ……?」
「えっ!? し、シてない!!」
俺は、ようやく床から這い上がり、彼女と向かい合わせに座りつつ……部屋の入り口近くの浴室とトイレの扉が開けっ放しになっているのを、チラリと後ろ目に振り返り確認する。
「何のことだ?」というワザトラシイ言葉の代わりに生唾を一瞬ゴクリと飲み込んだ俺は、振り返り様に彼女の瞳を一瞬チラリとだけ見て、すぐに視線を落とした。
アレなはずの彼女の顔と目。
直視出来ない真夜中の凍りついた時間。
本来、アレなはずの彼女との遭遇で、恐怖で金縛りとかにあい身動きの取れない状況下のはずなのだが、俺は、別の意味で凍りついている。
これが、金縛りなのか……?
気まずい……。
身動きが、取れない……。
しかし、俺は俯きながらも、薄ボンヤリとした彼女の浴衣から覗く、隠しきれない白い胸の輪郭を、どうしても見てしまう。
けれども、彼女の身体の向こうに透けて見える部屋の隅っこを、言い訳も出来ない自分自身の体裁を保つために見つめ続けていた。
「私ってさぁ……。ま、良いか……。男の人が、シてるの見たことなかったからさ。君が、シてるのをジックリ見ちゃった」
「えっ!? み、見たって?」
「何のことだ?」と。
とぼけようの無い俺の心臓が、正直に反応してドキドキしている。
彼女の正体よりも、突きつけられた自分自身の恥ずかしさに、手に汗を握る。
もし、彼女の正体が、アレならば……。
真夜中の「ゾッ」とする時間のはずなのに、やり場の無い俺自身の羞恥心と目の前の彼女の口から発せられた言葉とに挟み撃ちをされ、固まる俺。
「君ってさぁ……。なかなか、立派……だよね?」
「な、何がっ!?」
思わず、顔を上げてしまった俺。
いや、ようやく別の意味で、俺自身が凍りついていた時間から解放される。
俺の目の前で、ちょこんと正座している彼女と改めて目が合う。
マジマジと俺の目を見つめる彼女の瞳。
アレなはずの彼女なのに、やっぱり可愛い。
よく見ると、まだまだ歳の端も行かない若い女の子のようにも見える。
なぜか、アレなはずの彼女の表情が、血色が良い。
フル回転する俺の頭の中の疑問よりも、俺の心臓の鼓動が、ドキドキしていて止まらない。
「明日も仕事だから」と。
まっとうな意見を言って、さっさと布団にでも潜り込めば良いものを、俺は、目の前のアレなはずの彼女を放っておくことも出来ず、さらに言うと、俺の頭の中の悶々とした気持ちと鳴り止まない俺自身の心臓の高鳴りに再び支配され、身も心も身動きが取れなくなっていた。
「シて……あげよっか……?」
「えっ……!?」
高鳴る俺自身の心臓がドクドクと脈打ち、さらに加速して鼓動を刻み打ちつける。
「嘘。明日も、早いんでしょ……?休まないと、身体に毒だよ?」
「い、いや。寝れない……かな」
「もう……。しょうがないわね……。じゃ、する?」
眠れないのは確かに身体に毒だが、もはやアレなはずの彼女と出会ってしまった真夜中のこの時間こそが、毒。
こういう今の自分自身の状況こそが、取り憑かれているとでも言うのだろうか?
アレなはずの彼女の金縛りから解けた俺は、ヨロヨロと立ち上がり、再びベッドへと……潜った。
スゥ……と、立ち上がるアレな彼女。
ホワ~ン……と、漂う彼女の良い香り。
アレなはずの彼女が……。
ベッドへと、入って来た……。
七海糸さんが、描いてくださいました! 本作ヒロインのFAです!!
七海糸さん!! 本当に、ありがとうございますっっっっっ!!!!!!!!(*´▽`*)(っ´ω`c)(∩´∀`∩)♡♪☆彡




