淋しい「たゆん」……。
2秒間。
約2秒間ほどだった。
刹那のタイミングで、俺の口唇の中へと、黒音ちゃんが、何かを押し込んで来た。
黒音ちゃんのディープキス。
甘く……。
蕩けるように。
そして、温かく……。
俺は、黒音ちゃんの突然のディープキスに震えて、黒音ちゃんの中から口移しに押し込まれたモノを飲み込んでしまった。
「ウフッ。限界……超え」
黒音ちゃんは、確かにそう言ったが、黒音ちゃんの言った言葉の真意が、俺には分からない。
「楓くん? 私のこと、好き?」
まるで、夢みる星のように俺を見つめる黒音ちゃん。
「う、うん……」
抗えなかった。
拒めなかった。
まるで、宇宙の悠久の時を旅する星のように抱かれた俺。
黒音ちゃんは、俺をどうしたいのだろう……。
夢葉のように直接身体には触れてはいないのだが、黒音ちゃんは、俺の首に両腕を回し、「たゆんたゆん」揺れるアノ部分に俺の顔を埋めようとしている。
「楓くん……。好きにして……良いよ?」
温かい黒音ちゃんのアノ部分が「たゆん」と揺れて、黒音ちゃんの露わになった先端が俺の口もとに触れる。
「はぁぁ……うぅ」
黒音ちゃんが、震えている。
黒音ちゃんの瞳が、俺の傍らに、ずっと居続けたいと訴えているのが、分かる。
「ごめんね。楓くん。私は楓くんの側に、ずっと居続けたいんだ。だから、私の名前を呼んで……?」
「黒音ちゃん……?」
「うん……。私の本当の名前は……。黒井戸黒音」
「黒井戸黒音……ちゃん」
その時、何かが俺の中で、熱くなるのを感じた。
さっき、黒音ちゃんの口唇の奥から俺の中に贈られて来たモノが、俺の中で熱く溶けてゆくのが分かった……。
黒音ちゃんは、得も言われぬ表情で、目を瞑りながら声を上げる。
「あぁ……。あぁ……っ!!」
何か、おかしなことに、俺は黒音ちゃんを操れそうな気になってしまった。
俺が、指先を動かすと……。
「あぁ……っっ!!」
その都度、黒音ちゃんが、絶頂に達したかのように震えた。
「ご、ご主人様ぁ……っ!!」
黒音ちゃんが、虚ろな目でビクビク震えながら俺を見つめて叫ぶ。
黒音ちゃんのあり得ない目の前の姿に、俺は息を飲む。
「おーい! 楓ー!! 黒音ー!」
車外から、夢葉の声が俺の耳もとに届く。
ハッ! とした俺の手が、黒音ちゃんを揺り動かそうとして、そのまま、すり抜ける……。
「黒音ちゃん! 黒音ちゃん!! しっかりして!!」
「う、うーん……」
まるで、夢から覚めたかのように、寝起きの顔で目を擦る黒音ちゃん。
「か、楓くん……」
抱き。
尚も黒音ちゃんは、またしても、俺には触れてはいないが、包み込むようにして俺の首もとへと両腕を回す。
「黒音ちゃん! 夢葉! 夢葉っ!!」
俺が、触れられないアレな黒音ちゃんに呼びかけると、黒音ちゃんは、ビクッ!として、我に返った。
その直後、夢葉が俺の車に戻って来た。
「ごめん! ごめん!! 待った? 楓?」
「い、いや……。だ、大丈夫だよ?」
夢葉が、当たり前のようにして車のドアを開け、「バタン!」と、閉める。
まるで、本当に生きている人みたいに。
俺は、背徳感で、いっぱいだ……。
「伝わるんだよ……」なんて、夢葉に悟られはしないだろうか……?
「あ、何かあった……? 楓……?」
早くも、夢葉は、俺の異変に気づいたようだ。
「いや……。あのぉ……」
俺が、言葉を詰まらせて困っていると……。
「アハ! 残念! 夢葉!! 私も楓くんと『契約』結ばせてもらったよ? アンタが何て言おうと、私は楓くんのモノだよ? アンタが、楓くんとキスしたみたいに、ね?」
「な、何? あ、悪魔的契約な話? わ、私には関係ないんだから……」
目を白黒させている夢葉。
そこは、怒らないのか?
何だか、申し訳なさ過ぎる。
やっぱり、俺は、人として最低なんだろうか……。
「分かってたよ……」
夢葉が、俯いて呟く。
夢葉の胸が「たゆん」…と、淋しく揺れる。
俺の胸が、ズキン……と、痛い。




