浄化……!!
──黒音は、消えたんじゃない。
正確に言うと、私の爆発した感情に驚いて逃げた。
おそらく、このホテルの何処かにいる。
黒音は、私みたいに、ひとつの部屋に取り憑いているんじゃなくって、このホテル全体に取り憑いている。
気に入った男の夢に取り憑けば、いちいち私みたいに感覚を研ぎ澄ませなくても、全身で悦びを味わえるとかなんとか、男の人を虜に出来るって言ってたけど。
黒音は、大気中の私の怒りの振動で、祓われたんだと想う。
例えば、神社で参拝の時に手を鳴らす柏手のようなもの。
空気中に伝わる鮮烈な振動は、邪気を祓う。
まあ、私だって、祓われたくは無いんだけど。
それと同じようにして、私の『喝』が、黒音を祓った。
同じアレな存在なのに、笑えるんだけど?
性格悪いな……私。
私が、黒音に『喝』を入れて祓った時、ラウンジ内の空気が振動して、窓ガラスが揺れた。
台風の時の突風が吹いたように、場が騒然となる。
「うへー!? ど、どういうこと? 君がやったの? ぐ、グラスの破片が……」
気がつくと、私の目の前で、楓が粉々になったグラスの破片と、食べられなくなった食べかけのご飯をアタフタと片付けようとしている。
「お怪我は、ありませんか?」
ホテルの従業員が、慌ててオシボリやらモップを持って来て、楓に駆け寄る。
何も出来ない私。
「ごめん。楓。ヤラカしちゃったね? 私」
「いや、いや。いいんだよ。俺こそ、ごめん。なんか、変なことになっちゃって……」
「いえいえ、とんでもございません! 大丈夫ですか?」
ホテルの従業員と楓と私。
ホテルの従業員が、アレな私を視れないせいで、変な会話が成立する。
オドオドしている楓と、手際良く片付けるホテルの従業員。
ホテルの従業員が、楓に一礼をして去ってゆく。
楓も「すみません」と、頭を下げてもとの席につく。
「ごめん。夢葉……で、良いのかな?夢葉。さっきは、アノ娘が来て変なことになったけど」
「え? あ、良いんだよ! き、気にしないよ? それより、名前……呼んでくれて、ありがと。楓」
「う、うん……」
なんか、お互いに良い雰囲気だ。。
なんて言うんだろ?
あったかくって、嬉しくって、少し照れちゃうような……。
楓と私……。
なんだか、やっと良い感じの雰囲気に戻った。
「あ、そうだ! 俺の名前……。改めて、言うね? 俺の名前は、川岸楓」
「わ、私の名前は、叶夢葉……」
フルネームで、言った。
アレになって、初めてだ。
黒音の気配も感じないし、さっきの私の『喝』で、黒音以外のアレな存在も、みんな、その場から退散したし。
アレな者たちがいない神聖な空間。
私と楓、ふたりきり。
いや、宿泊客は、いるんだけど。
私と楓。
お互いに、正式な名前を交換した。
けれど……。
想い出した。
──本当の名前の交換は、悪魔召喚で言うところの正式な契約に値する。
自動販売機のたくさんあるロビーで暇そうに私が寛いでた時、アレになってもオカルト好きの黒音が、一方的に私に呟いて来たんだ。
主従関係は、術者と悪魔の霊力で、決まる。
まあ、アレな私たちを『悪魔』って呼んじゃうのもアレだけど?
興味ないなーって、想いながらも暇だから、黒音の話をけっこう結局、マジメに聴いてた私。
それと……。
──術者とアレな私たちとの霊的な接触。
夜中の私と、楓。
さっきの黒音と、楓。
そうだ──!!
──ヤラレたっ!!
黒音も、楓くんとか言って──
──楓の顔を頭ごと「たゆんたゆん」胸で挟み倒してた。
そして、一瞬とはいえ、楓と黒音がお互いの名前を口にしてた状況。
あ、悪魔の契約……。
く、黒音め……。
ま、まんざらでもなさそうだった楓……。
けど、黒音は、半分しか自分の名前を言ってない。
でもでも、悪魔の契約が本当なら、楓と私だけの世界に、またしても黒音が割り込んで来そうな予感がする。
悪魔な黒音に、イラッとする。
今度こそ、黒音を本気で、浄化してやろうと、想う。
七海糸さんが、描いてくださいました! 本作ヒロイン夢葉のFAです!!
七海糸さん!! 本当に、ありがとうございますっっっっっ!!!!!!!!(*´▽`*)(っ´ω`c)(∩´∀`∩)♡♪☆彡




