パタパタとたゆんたゆん……。
ラウンジへと入る扉を前に、私は立ち止まる。
扉を、すり抜けて入るのは簡単だけど、気持ち悪くなるし、私がこの世の物に触れられるのはたったの5秒間だけ。
それに、扉は重そうだ。
開けられる自信は、無い。
私がエレベーターを出る直前に、彼の手を離したのは、アノ部屋を出て行くことを躊躇った理由もあるんだけど。
私が、この世のものに触れられるのは、たったの5秒。
あの時の彼の手は、私の制限時間を超えて、すり抜けた。
「開けて」
「あ、あぁ」
なんか、お姫様になった気分。
彼が私のために扉を開ける。
ラウンジでは、朝食サービスが始まってて。
焼きソバ、サンドイッチ、カレーライス、ウィンナー、目玉焼き、野菜、お味噌汁……。
その他もろもろが、バイキング形式で食べ放題。
コーヒー、オレンジジュース……飲み物もお代わりし放題。
そんな感じになっていた。
「食べ……れるの?」
「どうだろ? まあ、気にせず取ってよ?」
彼が、怪訝そうな表情で聴いて来る。
そりゃそうだよね?
アレな私たちが、この世のものを食べれるなんて、聴いたこと無い。
現に、私はお腹だって空いてないし、すんごく食べたいとも想わない。
まあ、アレになる寸前にお腹を空かせてた人は、本気で食べたいって想うんだろけど。
なんていうんだろ……。
私は、彼と居る今の雰囲気が、すごく好き。
満たされている。
だからかな?
私は今、負のオーラなんて放って無い。
自分でも分かる。
彼の後をくっついて、嬉しそうにしている私。
彼だって、まんざらでも無い様子。
彼は、鼻歌交じりに「どれにしよっかな~」なんて呟いてる。
「お!? たくさん取ったねー? けっこう食べる方なんだ?」
「え、あ、うん。お腹空くから……。それに昼飯の分も食べとこうと想って」
「あ、私、あーんって、君にシてあげよっか?」
「え? あ、い、いいよっ。スプーンが宙に浮くヤツ? 朝から怪奇現象になっちゃうよ? 宿泊客もたくさん居るし……」
「ウフフ……。残念! せっかく、メイド服着てあげてるのに? ご主人様ぁ~なんて? 君の好みでしょ?」
「う、まぁ……そうだけど」
そう言いながら彼は、自分のお皿とは別に、もう一つの小皿にお料理を取り分け、おずおずと私の前に差し出す。
「はい。君の分」
「え? 私? へー。これは君、ポイント高いよ?」
嫌みにも取られるかも知れないが、私は嬉しい。
いや、心を込めてアレな私に差し出す彼の気持ちが、温かい。
天にも昇りそうなくらい、気持ち良い。
「あー。ダメダメ。私は彼を幸せにするって決めたんだ。まだ成仏できないよー」
「へ? じょ、ジョウブツ?」
「いやー。なんでも無いっ! 独り言だよー!! アハハ……」
どうも天然な私。
昔から、そうだ。
心の声が、モレ出てしまう。
カッコワルイな……。私。恥ずかしい……。
私は、有難くも、目の前に置かれたサンドイッチと焼きソバ、目玉焼きにウィンナー、白ご飯に沢庵……オレンジジュースに手を合わせる。
久しぶりのご飯だ。
白ご飯に沢庵というのが、私のハートを掴んで離さない。
「いただきますっ!!」
「いただきます」
私が声に出して言うと、彼も後から手を合わせて言う。
(チロチロチロ……)
私は、舌先をお料理やジュースにつけて味わう。
そう。
もちろん、飲んだり食べたりは出来ない。
けれど、味覚という感覚は残ってて、感覚を集中して研ぎ澄ませることで、約5秒間だけ、この世のものに干渉することが出来る。
通常は、アレな私たちは、そんなこと出来ないらしい。
けれど、私は運が良かった。
たまたま偶然、散歩してた時に知り合ったお爺ちゃんに、私は教えてもらったんだ。
公園のベンチに座ってたお爺ちゃん。
元気にしてるのかなー?
まだ、成仏してなけりゃ良いけど。
あ、成仏してた方が良いのか……。この世的には。
けど、もっぺん会いたいな……。
私がチロチロ舌先を出して、お料理とジュースを味わっていると、彼が不思議そうに見つめて来る。
「そ、そんな風に味わうんだね……?」
「ん? そうだよ? 驚いた?」
けど、私だって久しぶりだ。
って言うか、アレになってから初めてだ。
アレになった私の実家は辛気くさくて。
やむにやまれぬ想いで、家族なんて見てられなくて。
だから、私は家を出たんだ。
忘れたかった。
一人になりたかった。
けど、誰かに会いたかった……。
「美味しい?」
「うん! 美味しいーっ!!」
こうやって、大好きな彼と会話が出来て食事が出来て、何よりも嬉しい。
この嬉しさは、人生初かも知れない。私にとって。
そう言えば……。
「ねぇ? 自己紹介? まだ、だったよね?」
「ん? そうだね? そう言えばそうだったね」
私はアレだから、魂のまんまの丸裸な状態だから、波長の合った彼とは心の距離すっ飛ばして、ダイレクトに彼の心とつながってしまったんだと想う。
丸裸って言っても、メイド服はイメージで着てるように見せている私なんだけど。
「き、君の名前は?」
「あ、それ! 有名なアニメのシーンみたいだよねー? 私の名前? 聴いちゃう?」
私は、イスに座りながらも両足をパタパタさせて、重たい胸をテーブルに乗っけて「たゆんたゆん」させていた。嬉しくて。
七海糸さんが、描いてくださいました! 本作ヒロインのFAです!!
七海糸さん!! 本当に、ありがとうございますっっっっっ!!!!!!!!(*´▽`*)(っ´ω`c)(∩´∀`∩)♡♪☆彡




