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間違って婚約してしまった。仕方ないなー、間違ったけど婚約しちゃったから結婚するしかないなー、仕方ないなー

作者: ものじとり

「ああっ、間違ってジェイルに婚約魔法をかけちゃったあ!」




 朝の魔術学校。


 僕の幼馴染の女の子であるクリスが、教室に入って来るなり僕に向けて婚約魔法を放ってきた。


 左手の小指に赤い糸が現れる。

 僕とクリスとの間に婚約が結ばれた。


「あー、しまったなー、隣のクラスのイケメン君と婚約しようと思ったのに間違えてジェイルと婚約しちゃったなー、仕方ないなー、婚約しちゃったから結婚するしかないかなー、仕方ないなー」


「何やってんのクリス。間違えちゃダメでしょ」


 そう言って僕は婚約破棄魔法を発動させる。


「おおっとお! 間違って抵抗(レジスト)しちゃったあ! しかも『婚約破棄魔法が使えなくなる魔法』をジェイルにかけちゃったあ! 私ってばうっかりさん!」


「あーもう、どうすんのさ」


「どうするか二人で相談しようぜ! 二人きりでな!」


「二人で相談とかしてるより先生に解除して貰えばいいんじゃない」


「先生はいそがしいから! いつだっていそがしいんだよ教師ってのは! 迷惑かけちゃだめナリ! 他人を巻き込まずに当事者だけで解決しようぜ! 行くよ!」


 そう言ってクリスが僕の手を引いて教室を出る。


「鍵のかかる所っ…… 鍵のかかる所っ…… へっ、女子更衣室に連れ込んでやらあ!」


「ちょっとちょっと、まずいよ」


「大事の前の小事なり! 婚約結婚は人生の一大事だろ! 他のことを気にする余裕なんてないのである! さあはいれはいれ」


 クリスが背中から抱きついてきて、僕はグイグイと女子更衣室に押し込まれてしまった。


「ちょっと、胸が当たってるって」


「喜べよう、健康な男だろお、大喜びしろう。な、内心嬉しがってるの分かってるんだからね!」


「まったく、クリスはしょうがないなあ。それでどうするの。普通に先生に婚約解除してもらうしかないだろうけど」


「そう急ぐんじゃあない。ここがどこか分かってんのか? 女子更衣室、女が着替えるとこだぜ! そして私は女! どうしてもと言うなら目の前で着替えてあげますけど? さあ何に着替える! 体操服? メイド服? スク水? 目を皿のようにして私の着替えを凝視するといいと思います!」


「いや着替える意味無いでしょ。話を進めようよ」


「せっかちな奴め。そこまで言うなら話を進めてやるけどその前にロッカーに入ろうぜ! いっしょにな! 二人でな! 人間二人ぽっちを格納するのに更衣室では広すぎるからな! 起きて半畳寝て一畳! 資源は無駄なく! 空間は効率的に!」


 僕に抱きついたままのクリスがまたグイグイ押してくるので、されるがままにいっしょにロッカーの中に入ってしまった。


「はー、狭い狭い。こう狭くちゃ密着するしかないな。さてはこれが狙いだな? このえっちめ!」


「思ったより広いな。もうちょっと離れられるでしょ。あんまりくっついてこないでよ」


「くっつかれるの嫌なのか? 嫌なら泣くけど。泣きわめくけど」


「クリスとくっつくのは別に嫌じゃないけど、ちょっと困る」


「困らせちゃったかー。しかたない、責任取るよ!」


「それはいいから、相談しに来たんだからちゃんと婚約破棄する方法を考えようよ」


「私ちょっと絶望するのとか苦手なんでそんな熱心に婚約破棄しようとしないでください」


「はあ。じゃあどうするの」


「前向きに考えようぜ! ほら、婚約しちゃったわけだし? 後戻りするってのも、芸がないというか、根性がないというか? 『歴史の歯車を逆に回そうとする者は滅びる』って、ベルばらのナレーションも言ってることだし、このままほら、けけけっここんとかするしか? ないかもね! どう!?」


「どうって言われても」


「まずは私を好きになってみろオラァ!」


「え、クリスのことは好きだけど?」


「そういう親愛とか友愛とかの意味でじゃなくてさ、ほら、あれだ、恋愛とか性愛とかの意味で好きになれえ!」


「えー、難しいな」


「難しいのかそうか死のう」


「ちょっと待って、今やってみる。クリスを好きになる好きになる…………あれ? けっこう簡単だった」


「なんだと」


「クリス好き」

「私も好きだあああああああああああ!!!」


「やった、両想いだ。クリス好き。クリス好き」


「ウッヒョオ! ラブラブだあ〜、ハッピーエンドレス!」


 クリス好き好きになった僕は狭いロッカーの中、すぐ近くにある彼女の顔を見つめた。クリスってこんなにかわいかったんだな。

 クリスも僕を見つめる。

 お互いを映す瞳。


 ゆっくりと、唇と唇の距離が縮まっていった。




「そうは行きません! 婚約破棄魔法!」




 そこに、このあいだ転校してきたクラスメイトの女の子であるシェーラさんが乱入してきて、ロッカーの扉を開けるなり婚約破棄魔法を放ってきた。


「レジストぉ!! 女子更衣室に入って来るとは非常識なやつめ」


「私はれっきとした女子だい! くう、レジストしましたか。でも同時に二つの魔法をレジストできないでしょう! ここでジェイル君に婚約魔法!」


 シェーラさんが僕に婚約魔法をかけてきた。

 左手の薬指に赤い糸が現れる。

 僕とシェーラさんとの間に婚約が結ばれた。


「しまったああ! ジェイル、婚約破棄して!」


「『婚約破棄魔法が使えなくなる魔法』がかかったままだよ」


「しまったあああ!」


「さあ、間違って婚約しちゃう人なんかより、間違わずに婚約した私と結婚しましょうジェイル君!」


「ごめんシェーラさん、僕はクリスのことが好きだから」

「私のことも好きになってください!」


「あっやめろ! こいつは簡単に好きになるんだ!」

「好都合やんけ!」


「あれ……? シェーラさん好き」


「あああああ」

「やったあ! 私も好きです!」


「クリス好き。シェーラさん好き」


「ジェイルが最低二股クズ野郎になってしまった……!」


「こんな状況ですけど好きと言われて顔がニッコニコになってますよあなた」


「お前もでい! くそう、引き下がれよう、私は幼馴染なんだぞう」


「むむ、確かに幼馴染の親しみは強いですね。ですが幼馴染にはボーイミーツガール要素がありません。その点私は転校生! 幼馴染にはない出会いのときめき! これで勝負です!」




「はいはーい、ここで先生の登場ですよー、授業が始まりますよー、教室に来てくださいー」




 そこに僕らの担任のアルベオラテス先生が来て、三人とも教室に連れて行かれた。


「では授業を始めまーす。なんの授業でしょうねー、先生分かりませーん。とりあえず四人組作ってくださーい」


 とりあえず四人組を作る授業のようだ。


「入れてもらえなかったりー、人に話かけるのが苦手だったりする人は空想上の友達と四人組でもいいですよー。できましたかー? あれー、あなたたち一人足りませんねー、じゃあ先生が入りますねー」


 僕とクリスとシェーラさんと三人でかたまってる所に先生が入ってきた。


「嫌な予感がするから入ってこなくていいよ! 空想上の友達で間に合わせるからどっか行って!」

「私たちにかまわず、先生はそっちで授業を進めてください」


「いえいえー、先生が入って四人ですからー、ちょうどいいですからー、問答無用で入りますねー。ところで先生独身なんですよー」


「その情報いるか!? 危険だ、こいつは危険だ」

「まずいです早く結婚しましょうジェイル君」


「いいですねー、結婚。したいですねー、結婚。お相手として先生なんかどうですかー? ジェイル君」

「すみません、僕はクリスとシェーラさんが好きなので」


「待て待て待て待て」

「あ、駄目です」


「先生のことも好きになってみたらどうですかー?」


「あれ……? 先生好き」

「うふふー、先生も好きですよー」


「うわああああ!」

「あわわわわわ」


「クリス好き。シェーラさん好き。先生好き」


「うふふー、ハーレムですかー、悪い子ですねー」

「てめ、先公、歳の差考えろよ!」

「立場も考えてください!」


「大丈夫ですー、先生エルフですからー、人間同士だと歳の差が大きいとアレですけどー、エルフと人間なら大丈夫ですねー。アルウェンとアラゴルンだって歳の差2000才以上ですからねー。それー、婚約魔法ー」


 先生が婚約魔法をかけてきた。


「立場も婚約しちゃえば問題ないですねー、婚約しちゃったので結婚しましょうねー、よろしくお願いしますねー」


 左手の親指に赤い糸が現れる。

 僕とアルベオラテス先生との間に婚約が結ばれた。


「ヤベーよヤベーよ」

「まだ指は余ってますよ! また増えるんじゃないですか?」

「うふふー、甲斐性が試されますねー」




「節操のない男だピョン」




「誰でい! 新たな婚約者か!?」

「もう増えないでえええ!」

「増えてもかまいませんよー」


「違うピョン。安心しろピョン。ボクはただのマスコットキャラだピョン。このままだと収拾つかなくなるからお話をぶった切るために現れたピョン。ほっとくとまだまだ婚約者が増えるピョン。まだ指は七本残ってるピョン」


 現れたのは小さなウサギだ。シルクハットをかぶって懐中時計を手にしている。ありがちなデザインだね。


「おまえらはこのままハーレムで行くしかないピョン。これからドラマを繰り広げて誰か一人を選ぶ展開なんてめんどくさくて書いてられないピョン。安易と言われてもハーレムエンドで投げ出すピョン」


「くそう、仕方ねえ、ジェイルと結婚できるなら飲み込んでやらあ!」

「そんなあ、なんとかならないんですか?」

「うふふー、100年も独身でいるとたいていのことは許容範囲ですー」


「クリス好き。シェーラさん好き。先生好き」


「だけどハーレムはハーレムで問題が多いピョン。倫理とか法律とか家計とか世間の目とか親族の目とかハーレム内の争いとか読者の反感とか、障害だらけだピョン。これを克服しないといけないピョン」




「克服するよ」




 僕は力を込めて宣言する。


「僕はハーレムに付随する問題を全て克服してみせる! 三人と結婚するために!」




「真剣な顔してサイテーなこと言ってやがる(♡)」

「私チョロくないけど好きです(チョローン)」

「いいんじゃないですかー、結婚できるならどうでもいいですー(アキラメ)」


「克服してもらうことになるけどその過程をいちいち書くのもめんどくさくてやってられないピョン。そこでラスボスを用意したピョン。このラスボスに『ハーレムに付随する問題』を全部背負わせたピョン。こいつを倒せば問題を克服したことになるピョン。身代わりラスボスだピョン」




「あああごめんなさいごめんなさいラスボスですごめんなさいハーレムに付随する問題を背負ってますごめんなさいすぐ倒されますのでごめんなさいお手をわずらわせてごめんなさい」




 プルプル震えるラスボスがいた。

 全身黒い鎧を着て座り込んでいる。


「ラスボスだピョン。鎧の中身は美少女だピョン。こいつを倒すピョン。悪いけど倒すと自動的にハーレムに加わるピョン。これ以上は増やさないから我慢するピョン」


「え、困るよ。僕はクリスとシェーラさんと先生が好きなのに」

「ラスボスのことも好きになるといいピョン」


「オイオイオイオイ」

「またですかあ!?」

「かまいませんよー、ハーレムメンバー大安売りですねー」


「あれ? ラスボス好き」


「あああ私なんかを好きになってくれてごめんなさい私も好きですごめんなさい名前ベルベッタといいますごめんなさいジェイルさん好きですごめんなさい」


「ジェイルのヤロー、見境ねーな(でもすき)」

「なんだかラスボスさんの様子が可哀想で、受け入れてあげたい気分になってきました(チョロンチョロン)」

「許容範囲許容範囲(ナゲヤリ)」


「じゃあさっさと倒すピョン。戦闘描写もめんどいから省略するピョン。はいラスボス倒したピョン。これで倫理も法律も家計も世間の目も親族の目もハーレム内の争いも読者の反感も全部解決だピョン」




 そんなわけでラスボス戦も終わって。


 ラスボスの黒い鎧が剥がれて、中から女の子が出てきた。


「自動的に婚約魔法がかかるピョン」


 左手の人差し指に赤い糸が現れる。

 僕とベルベッタとの間に婚約が結ばれた。




「中指が余ってるのが気になるピョン……」




「オイ! これ以上増やさないって言ったろ!」

「言ったことを必ず守れるなら苦労はしないピョン」


「やめてくださいよう」

「あきらめてしまえばなんでも許容範囲ですよー?」

「ごめんなさい、増えたらごめんなさい」


「クリス好き。シェーラさん好き。アルベオラテス先生好き。ベルベッタ好き」




「とにかくハーレムの障害はもう無いピョン。おまえらはこれからハーレム屋敷でみんないっしょに暮らすピョン。マスコットのボクも勝手に住みつくピョン。ボクもそのうち真の姿(全裸美少女ボクっ娘)に戻ってるところをジェイルに目撃されて責任取らせて婚約するピョン。中指はボクが担当するピョン。後でボクを好きになるといいピョン」


「結局ハーレムに加わるんかい!」

「障害がなくなったので拒否できません……」

「ようやく長い独身時代が終わりますー」

「あう、ごめんなさい、がんばります」

「一件落着だピョン」






 こうして僕のもとには、


 エキセントリックな幼馴染。

 チョロい転校生。

 売れ残り先生。

 弱気ラスボス。

 それに後から加わる予定の全裸マスコット。


 これらの婚約者たちが集まってくれた。


 婚約しちゃったからね。

 結婚しないとね。




 もう、何も障害は無い。

 きっと僕らは、幸せになる。


 そう、僕は思った。




 めでたしめでたし。








 なのかな?


















 義妹

「まだ右手の指が空いてますよ義兄さん婚約しましょう」


 後輩

「ハーレムの障害が無いんなら私も婚約します。先輩」


 寡黙少女

「……………………婚約する……………………」


 女騎士

「くっ、婚約しろ!」


 ネコミミ

「みゃ、みゃみゃみゃ、みゃみゃみゃみゃみゃ! みゃみゃ」


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