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竜の花 鳳の翼  作者: 宮湖
花選びの章
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花選びの章1 鳳国の春

毎週末の更新を目指しております。


最後までお付き合いいただければ幸いです。

 花選びの章1 鳳国の春



 かつて、人を愛した神がいた。

 彼の神は人間の娘を娶り、子を生し、渇いた地に滴の恵みを与えた。

 己が血に連なる者を祝福された地の要に据え、未来永劫の守護を天に誓って、人と共に生きた。

 彼の神は、白銀に一滴朱を垂らした真珠の鱗輝く、雄大な竜の姿で天を駆けたという――。




  ❖ ❖ ❖ ❖ ❖ ❖ ❖



 泰慈(たいじ)七年、春――。


 崑巍(こんぎ)山脈で南北に分けられる大陸の東、崑巍の東峰を背に、肥沃な琉東(るとう)平原と、豊かな恵みを齎す貴龍江(きりゅうこう)を有する(ほう)国は今、春の祭りに浮かれていた。

 鳳の冬は厳しい。特に首都州(おう)は鳳国十一州中、最北に位置し、崑巍から吹き下ろす寒風が、凍気と共に重い雪を運び、冬の四月(よつき)を白銀と暗黒に塗り込めるのである。


 対して、玄英神の退場と共に訪れる春は、爆発的とさえ言える。

 雪解け水が貴龍江の水嵩を増すと同時に、風が甘い香を孕み、草木が一斉に芽吹き始める。

 日毎に温む水の感触に、人々が春を感じる頃には、既に花々が綻び始め、満開の梅と桜の蕾の間を、鶯が囀り飛ぶのだ。

 

 淡い花弁の色彩が、痛みさえ覚える白銀に眩んだ人々の目を慣らせると、風信子、躑躅、鬱金香、香雪蘭、菫、牡丹、と、徐々に鮮やかな色彩が街に踊り始める。

 人も草花も動物達も、皆が待ち望んだ春の到来である。

 特に、春の祭りは、鳳の民が一年で最も心待ちにする祭りと言っても過言ではない。

 残雪が一掃された大路には露店が立ち並び、香ばしく食欲をそそる匂いを振り撒く側で、花にも劣らぬ芳醇な香の酒が振る舞われる。

 各国から旅芸人の一座が鳳に集い、辻毎に鮮やかな見世物が催される。

 陽気に浮かれ騒ぐ大人に混じり、この時ばかりはどんなに騒いでも怒られぬ子供達が、元気一杯駆け回る。

 耐えた冬の鬱憤を晴らすが如き、一年で最も賑やかで陽気な祭りである。


 しかし、今回の祭りは少々桁が違っていた。

 地に足が付いておらぬ様な毎年の騒ぎに加え、今年は鳳国の者の面全てに、一種の興奮が滲む。

 それもその筈、鳳国現国王(しゅう)皇翼(こうよく)が十八を迎えるにあたり、その王妃選定「花選び」の儀式が、数十年ぶりに執り行われるからである。


 鳳国では、王族男子は皆十八となる年の春に「花選び」を行い、花嫁を迎える。

 言い換えれば十八で結婚してしまう為、新王登極時には、既に妻子があるのが普通なのだ。

 だが、皇翼は、父王の急逝により十二で王位に就いた。

 第一王位継承者である王太子や、他の王子の時でも、それなりに華やかな「花選び」だが、今回は年若き青年王とは言え、一国の王が主役。

 しかも、(さき)の王族男子の事情から、王の花嫁選定は極めて稀だ。

 尚且つ、王の結婚と言う一大儀式の、重要な第一歩である。

 誰が立后されるのか、国民の関心は弥が上にも高まり、待ち侘びた春の到来と相俟って、最早狂乱せんばかりの騒ぎであった。

 酒場では、下手な花嫁候補達の絵姿の下に、真否の不確かな逸話が添えられた紙が張り出され、酔客や酌婦の間で賭けが行われる有様。

 更に、各地を巡る吟遊詩人や旅芸人達が、流言飛語に拍車を掛けた。

 候補の一人が、己に有利な噂を流すよう吟遊詩人に金を積んだ、と、実しやかな話が流布する程である。

 

 だが、この猫も杓子も沸き立つ鳳国で、一切の巷説に泰然自若を貫ける稀な者達がいた。

 

 鳳国首都州凰、凰都(おうと)

 三方を高い城壁で囲まれる城下から北を臨めば、聳える崑巍の峰々が間近に迫る。

 その山肌を、或いは刳り抜き、或いは寄り添いして、山中に点在する無数の宮と庭園。

 堅牢な壁で城下と隔てられた、それ等風雅な建造物群こそ、鳳国が誇る王城、寿鳳宮(じゅほうきゅう)である。


 城下にも匹敵する広さの宮殿は、崑巍という天然の要害に護られながら、国内で最も遅い春の足音に耳を澄ませていた。

 隔壁から城下を望めば、淡い桃色の色彩が目に優しいが、振り仰げば山頂にはまだ白銀の煌めきが根を下ろし、陽が落ちれば暖炉に薪がくべられ、爆ぜる音が夜に静かに谺した。

 王宮東、国王の私室がある竹瑛宮(ちくえいきゅう)も同様である。

 屋外では凍える寒さだが、天窓から差し込む清けき月の光に静かに照らされながら、皇翼は、夜着の儘、寛いだ様子で寝台に腰掛けていた。




漢字が多くて読みづらいかと思いますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。

ご感想等もありましたら嬉しいです。励みになります。★★★★★の評価も頂けるとなお一層有難いです。


全く別の世界観ですが、お時間がございましたら、


星を掴む花

天に刃向かう月


も、ご覧下さると嬉しいです。

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