表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宮ラブ 〜後宮入りは、全力で阻止します!〜  作者: 無乃海
本編終了後の番外編 【炎豪の章】
95/123

6。友人以上恋人未満?

 炎豪の章の前日譚、続きです。 


今回は後日譚も含まれる話で、これを以て炎豪の章は終了となります。

 「…え、炎豪さま、そ、その……わたくしは、そ…その………」


清蘭も何がどうなったのかと、ばにくる状況である。炎豪に呼び掛けつつも、何をどう言えば良いのか、全く頭の中が整理できない状態だ。…(いな)、それ以前に全く何も、思考が追い付いていないと言うべきか。


…私は今、何を言おうとしたのかしら…。自分が言いたいことさえ、分からないなどとは…。胸の鼓動は早過ぎるほどに動き、顔が熱くなったような……。


その時漸く、炎豪は動いた。清蘭をギュッと抱き締める筋肉質な腕は、唐突に力を抜いて緩められ、彼の逞しい身体は彼女から離れていった。急に彼の力から解放された清蘭が、先ず最初に目にしたのは、彼の逞し過ぎるほどの胴体で、思わず彼女は硬直する。目線は彼の胴体を凝視したままで…。


つい今まで自分自身がその筋肉に包まれていたと、(いや)でも気付くこととなり、清蘭は徐々に顔色を悪くする。第三者が目撃したならば、顔が真っ青になるとはこういう状態だと思うことだろう。


其れも仕方がないことだ。彼女は、男性に抱き締められたことがない。厳密に言うならば、父と兄や親族たち以外には。勿論、男性のはだけた姿を見たのも初めてならば、男性の肌に触れたのも初めてである。()()()()()()()()()()、未婚の女性が異性に抱き締められたという事実に、青褪めるのは無理からぬことだった。


 「……やっと、泣き止んでくれたな。……ん?…どうしたのだ、清蘭殿…。今度は顔色が悪すぎるようだが、気分でも悪くなったのか?!」

 「…………」


その時、漸く炎豪が口を開いた。顔を上げない清蘭を覗き込むようにして、彼女の泣き止んだ様子を窺ったようだったが…。真っ青な顔の彼女を見て、如何やらまた勘違いをした様子の彼に、彼女も漸く…この状況を理解したのである。


…もしかして、炎豪さまは…私を宥めようとされたの?…私が泣きじゃくってしまったから、困惑されたのね…。この身体の大きな熊のようなお人が……?


子供扱いされて失礼な…とは思わず、炎豪の()姿()()()()()()()()()()()不器用な優しさに、清蘭はクスっと笑いが漏れたのだったが…。顔を上げた彼女は、彼女の顔を覗き込む炎豪の顔が、直ぐ間近にあることに気付き、目を見開く。彼女の真っ青だった顔は、今は…徐々に赤く染まりつつあった。


 「……っ!?……今度は、顔が赤くなっているが、熱が出てきたのかっ?!」


清蘭の顔色が急激に、真っ青から真っ赤になったことで、彼女が熱を出したのではと心配し、炎豪はおろおろと慌て出した。今にも彼女を抱き上げて、王宮の医師の元へでも駆け込みそうな勢いとなっている。


 「………ち、違います……。熱ではなく、そ、その……炎豪さまのお顔が、近過ぎなんですっ!!」


これには清蘭も、慌てて否定する。医師を呼ぶべきか、医師の元へ連れて行くべきかと、炎豪がブツブツ呟いていたからだ。彼女からすれば、医師を呼ばれるのも連れて行かれるのも、避けたいだろう。特に…連れて行くという言葉に、どういう意味か何となく察知し、清蘭はビクッとする。これ以上の密着は、正直勘弁してほしいというのが、彼女の本心であった。


 「………?………っ!?……す、すまない!!」


当初は清蘭の(はな)った言葉の意味が分からず、炎豪はキョトンとしたものの、漸く顔が近いという意味が分かり、慌てて彼女から飛び跳ねるように離れた。流石に炎豪の顔も真っ赤だ。清蘭がチラッと彼の方を見れば、彼は背中を向けた状態で立っていた。但し、耳まで真っ赤になっているのは、隠せていなかったが。


…本当に、真面目なお人なのですね。後宮の女性達からご容姿を怖がられている炎豪さまが、これほどまでに誠実でお優しい武官さまだったとは…。炎豪さまが何方(どなた)かとご婚姻なされた際には、きっと…とても素晴らしい先生(おっと)になられるのでしょうね…。彼の夫人(おくさん)になられる女性は、()()()()()()()()()()でしょうか……


清蘭はそう考えた時、ほんの少しチクッと胸が痛むような気がした。けれども彼女は気付かぬフリをして、その感情に蓋をする。今はまだ何も考えられないと、お嬢様が亡くなられたばかりで、自分の幸せなど何も考えられないと…。…(いな)、実際には彼女が、そういう風に考えていた訳ではなかった。単に無意識にそういう感情が働いた、そういう状況であったと言えようか。


炎豪もまた真っ赤になり、今更ながらに無性に恥ずかしくなった。何故に自分は彼女を、子供のように泣き止ませようとしたのかと、今更自分の行動に疑問を投げかけている状態だ。漸く清蘭が (れっき)とした大人の女性だと、知ったかのように。


…まるで心臓が、早鐘のように鳴っているかのようだ。俺は、どうしてああいう行動を取ってしまったのか…。泣き止ます為と言えど、子供扱いして女性を抱き締めたとは、何とも不埒な行動ではないか…。彼女は…どう思うだろう……






    ****************************






 「…炎豪さま。これまで…色々とお世話になりました。本日、お嬢様と共に赤家に帰省致しますので、最後のご挨拶に参りました……」


怜銘が皇子との婚礼の準備の為、清蘭は主人と共に赤家へ、一時的な帰省をすることになった。怜銘が皇帝や皇子に別れの挨拶に行っており、彼女も同様に炎豪に挨拶をしようと、こうして彼の元へとやって来た。


職務中の炎豪は丁度1人で、王宮の入口に待機していた。彼の近くに寄って来た清蘭に、彼も親し気に声を掛けたのだが、最後の挨拶に来たという清蘭の言葉には、彼も動揺したようだ。彼は暫し無言のまま、彼女をジッと見つめている。彼女もまた彼の様子に戸惑いつつ、彼を見つめ返したのである。


彼ら以外の周りの者達が見れば、2人は両想いなのだと思うだろうが、肝心の2人には未だそういう気持ちはなく。…否、自らの本心に気付いていないと、言うべきかもしれないが。誰もが()()()()()()()()()()()場面は、2人にとってはどうしていいのか分からず、言葉に詰まっているだけのようだった。それでも炎豪は何とか言葉を探し、引き止めたい気分となる。


 「…貴方はもう、此処には戻らぬつもりでいるのか……?」

 「……いいえ、私はお嬢さまが心配ですので、正式な後宮入りにも付き添う予定です……」


炎豪は切ない雰囲気を纏いつつ、漸く口を開いた。清蘭の『最後の挨拶』という言葉に、彼は勘違いをしたようだ。彼女はもう戻らないのかもしれないと…そう思った途端に、彼は激しい苦痛を感じる気がしていた。


炎豪は掠れた声で思い詰めたような顔つきとなり、逆に…清蘭の心は浮き立つような気分となる。但し彼女は無意識に、自分の気持ちを封印をしようとする。彼への返答として戻ってくることを伝えながらも、心の何処かで「期待するな」という、誰かの声がしたように感じていた。


 「……そうか。…それならば、また其方(そなた)と会えるということだな…。また会える日を、楽しみにしている……」

 「………はい。私も…またお会いできる日を、楽しみにしています……」


清蘭殿がまた戻ってくる…。そう思うだけで、炎豪は心から嬉しくなる。その気持ちを全く隠そうともせず、嬉し気に蕩けそうな満面の笑顔で、彼はまた会いたいという気持ちを告げてきた。周囲から見れば告白そのものだと思うけれど、彼本人は未だその気持ちに気付いていない。


そして清蘭もまた彼を眩しそうに見上げては、柔らかい笑顔を浮かべていた。どう見ても両想いそのものに見えるが、彼女本人も未だ自らの気持ちに蓋をしたまま、彼が自分を恋愛対象に見るとは思っていない。


こうして彼らは、()()()()()()()()()()()で、離れ離れとなった。婚礼準備の間はお互いに色々と忙しく、会うこともままならない状況で、日々を過ごした。その間は芽生え始めていた恋心も、あまりの(せわ)しさの中では何の意味もなく、忙殺されていくようで……


怜銘の婚礼の日に2人は再会したものの、当然の如く話す暇などなく、会釈をしたぐらいだ。それでも炎豪は彼女が戻って来たことに安堵し、清蘭もまた彼と会えたことに嬉しく感じている。


 「貴方の顔を何度も見掛けたというのに、長らくこうして話すことさえも…出来なかったな。」

 「…本当に、そうですね。私もお嬢様…ではなく、皇太子妃様に付きっきりでしたので……」


新婚さんである皇太子夫婦の立場が落ち着く頃、漸く2人も息抜きが出来るようになる。こうして2人っきりで話してみれば、長かったようなそうでもないような、複雑な気分となるが…。


その後の2人は彼らの主人が結婚したことで、より接する機会も増えた。お陰でお互いに無意識だった恋心も、徐々に意識していく。この頃には周りの使用人達も、2人の気持ちに気づき始めた。中々進まない2人の関係に、お節介を焼こうとする者もあれば、2人の進展を賭け事にする暇人もいた。


 「皇太子妃殿下への報告が遅れまして、大変申し訳ございません…。清蘭殿が私の子を身籠りまして…。この度、私の太太(つま)として迎えたく存じます。」

 「…皇太子妃様、私達の婚姻をお許しくださいませ……」

 「…………」


今では皇太子妃として板についた怜銘に、炎豪と清蘭は2人揃って拝謁し、とんでもないことを報告する。怜銘は唖然とし、言葉が返せないほどに驚く。あれほどに焦ったい関係の2人が、()()()()()()()()()()()()()()()()とは、誰が予想出来ただろうか…。どうしてそうなってしまったか、2人は頑として詳しく話さず、彼らの親しい者達もその真相は知らず…。


彼らの家族も体裁が悪いと、婚姻を早めた。こうして2人は夫婦となり、無事に子も生まれた。既に皇太子夫妻にも子が生まれており、国の繁栄を願う国の民達は、お祝いムード一色である。


炎豪と清蘭の出来ちゃった結婚も、そういう理由から特に問題とならず、寧ろ肖りたい若者達も多く。その後、出来ちゃった結婚ムーブが来たとか来ないとか……

 ジレジレからの急展開となりました。貴族の中では今までに、出来ちゃった婚は誰もしておらず、彼らが初ということに…。真面目な2人が、その場の勢いでこういう展開となるのも、面白いかと。


今回は本文中に一部、中国語の言語を取り入れています。但し、読みは日本語読みとし、ルビを振りました。その部分だけ中国語の読みにすると、違和感だらけなので…。同じ漢字が使われているのに、振り仮名や片仮名がある日本とは、漢字も意味も色々と違うようです。


また本文に現代日本の言葉も使用しつつ、会話や心中の声はその時代らしく、気を付けました。飽くまでも中華風の世界として考え、作品自体は現代の言葉で書いている訳でして。



※本編は、既に終了しています。1人1話とはならず、人物によっては数話となる予定です。炎豪の章は、これにて終了です。次回の更新は、未定となります。筆者の都合により、書くのが遅れ気味でして、続きは…もう少々お待ちくださいませ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ