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宮ラブ 〜後宮入りは、全力で阻止します!〜  作者: 無乃海
序章 開始の合図
9/123

9。夜の王宮庭園

 『花の宴』での出来事ですが、漸く話が動き出しました。


今回はまた新たに、新キャラの名前が出て来ます。

 怜銘(れいめい)は気付いていないだろうが、皇子(みこ)の正妃として有力視されているのは、たった3名だけである。王族であり現皇帝の姪の『(ろく)淑玲(しゅくれい)』、赤家の令嬢『赤怜銘』、そして緑家の令嬢『(りょく)茗明(めいみん)』、以上が該当者だ。怜銘は何とかして逃れたいと思っていたが、実際には()()()()()()()()()()()()だった。


その中でも最有力と言われているのが、実は…怜銘本人だったりする。その理由には幾つかあり、先ず現皇帝の姪である淑玲が、正妃の器でないことだ。正妃となるには高位の身分だけではなく、自国の民を想う気持ちがなければならない。淑玲が皇妃となれば、平民の税を自分の贅沢品に変えてしまう、という懸念があった。


淑玲は我が儘放題に育ち、自分の言い分は絶対に通さねば気が済まなくて、それを理由に使用人を解雇した経緯もあり、賢明な皇妃には最も成れそうもない人物だ。そういう人物が皇妃となれば、絶対に国が傾く原因となる。その上皇子からは拒絶されており、彼女は彼の意思を無視して迫るなど、典型的なお花畑の住人である。皇妃となる勉強も、実は全く理解出来ないおバカさんだ。


そして茗明もまた、怜銘と同様に裏表がない人物で、正妃となるには十分な素質を持つが、怜銘同様に妃になることを望んでいない。茗明には『登竜(とうりゅう)』という2歳上の兄がおり、彼女は自分の兄のことを冷ややかな目で、見ているらしい。それというのも彼が異性に惚れっぽく、妹から見れば軟弱なイメージが強く、兄をそういう冷めた感情でしか見れないようだ。


それはさて置き、彼女の怜銘以上の本命に見られないのは、茗明が白黒はっきりし過ぎている点である。皇妃が正義の気持ちを持つのは、良いことばかりではなく、茗明のように感情を出しやすいのも、皇妃としては良くないことなのだ。


それに比べて怜銘は、皇妃の条件にピッタリだった。いつも笑顔を絶やさず、人民のことを常に優先して考え、自分の感情は滅多に出さない、そして一番問題なお金使いの粗さはなく、華美な服装や贅沢品を嫌っていて。これ以上に皇妃に合う人材は、逆に見つからないことだろう。


そういう理由から、現皇帝には完全に候補にされている、怜銘。怜銘の両親は既に現皇帝の企みは知っており、彼女の兄・唐瑛(とうえい)と姉の秋凜(しゅうりん)も、何となくそういう傾向に気付いている。知らぬは、本人・怜銘のみだった。


現在の怜銘は侍女3人を引き連れ、夜の庭園を歩いていた。表向きではただの散歩なのだが、怜銘としては()()()()()()()()()()、歩いていた。その目的とは、庭園に存在するという、あるものを探すことだった。さり気無く周りを見渡しながら、庭園を歩いて行き、キョロキョロと首を動かしたり、決して野次馬根性を出してはならない。怜銘は飽く迄も令嬢らしく、振舞わなければならないのだから。


そうして漸く、目的の1つを見つけ出した怜銘は、嬉しさに内心ではワクワクドキドキしていた。何を見つけたかと言えば、庭園の中にある大きな溜め池だ。この池は王宮の人間により、人為的に作られたものであり、池の中では赤白色とりどりの大きな鯉が、沢山泳いでいた。


どうして池を探していたかと言えば、『宮ラブ』に登場するこの池では、イベントがよく起こるからなのだ。要するに怜銘は、()()()()()()()()()()()()()()為に、今のうちに場所を特定したかっただけである。場所が分からなければ、イベントに参加することも観察することも何も出来ないどころか、状況を把握することが出来そうにない。決して、単なる好奇心だけではなくて。


つまり、怜銘の目的とは、『宮ラブ』に登場するオブジェを探すことだ。何らかのイベントで、「高得点となるアイテムを探せ」と指示される時があるが、それとは少し意味が異なるけれども、高得点にはならなくとも、イベントを起こす上では重要な場所だったりする。


イベントを起こすも起こさないも、どちらの場合も知らない状態のままでいるよりも、少しでも詳しく知っておいた方が、何かと優位だろう。何しろモブ中のモブの怜銘としては、イベントを避ける必要性があるのだから。


シナリオを自分に都合よく変えたい訳ではなく、ただ単に自分が不幸になるルートを避けられれば、それで良い。誰かのルートのハッピエンドを奪ってまで、自分が幸せになりたい訳ではない。但し、特に皇子とのイベントだけは、絶対に回避したかったけれど…。あの皇子にまた玩具にされるのは、金輪際ごめんなので。






    ****************************






 「わあ~!…こんな辺鄙な場所に大きな池があるとは、素敵ですね~。うわあ、大きな鯉だなあ…。美味しそう……」


庭園で池を見つけた怜銘が、真っ先に池に近づいて行くので、近づきすぎると危ない可能性もあり、涼風(りょうふう)は咄嗟に怜銘より前に出て、何も問題がないかを確かめてから、怜銘に「大丈夫ですよ。」と声を掛ける。怜銘が池を熱心に覗き込むと、涼風が今気付いたように話して来て、鯉が美味しそうだと目を輝かせる涼風には、流石に怜銘達も苦笑するしかなかったが…。


これは王宮で飼っている鯉なんだから、観賞用だと思うけど…。確かに鯉の料理は前世でも貴重だったけれど、まさか食べる為に飼っている筈がないし、皇族は食べないと思うよ…。『宮ラブ』のゲーム中でも、池で鯉が泳いでいるシーンがあったけれど、鯉を食べるという描写は一切なかったし。


鯉を食べるという習慣のない怜銘には、頭の中で必死に否定する。怜銘としては前世の時から、鯉は観賞用のペットであり、食べるという選択肢は全くないし、現世でも出来れば観賞用として飼っていて欲しい。一応、金魚を飼っていた経験のある彼女は、毎日金魚に餌やりもしていたし、金魚が飼い主に懐いてくれていた、という小さな思い出もあるのだから。彼女にとっては、鯉も金魚も同類で。


 「この鯉は、皇帝が飼われている生き物です。観賞用なので、食べることはありませんよ。」


本当に食べたそうな顔をした涼風に、蓬花(ほうか)が釘を刺すように話し掛けた。ペットで良かった…と安堵する怜銘は、まだ名残惜しそうな顔をする涼風を見て、サッサと此処から去ることを決意する。自分の侍女が皇帝のペットを食べたいなんて、誰かに聞かれたら…()()()()()()()()()()…と、思えたからであり。そして、涼風の気を逸らせたくて。


再び怜銘を先頭にして、ぞろぞろと庭園を移動することになった。この世界の正装は、男性も女性も丈の長いフワフワした雰囲気の衣装だ。古代中国の時代劇によく登場するような、色鮮やかな衣服である。日本の平安時代の正装に似ているようでいて、衣装の素材は全く違っていた。古代日本は着物を重ね合わせて直用していたが、古代中国ではどちらかと言えば、ドレスに近い素材を重ね合わせていた。


中国ではチャイナ服を着るイメージが強いが、古代には薄い生地の服を何枚か重ねて着ていたようである。なんちゃって中華風である、この『宮ラブ』のゲームの世界でも古代中国と同様に、薄い生地のドレス風の服を何枚か重ねて着るのが、身分の高い人という意味らしかった。


実際に着て見ると、平安時代の着物の重さよりも、ずっと軽い衣装だと思われた。西洋のドレスとは異なり、裾が広がっていないので、足先も良く見えて歩きやすいし、西洋の靴は高いヒールなので疲れやすいが、怜銘が実際に履いている靴はペッタンコ靴なので、転ぶ要素も少なく疲れにくい。日本は草履だったから、履きなれないうちは靴擦れならぬ鼻緒で擦れる、という事態になってしまうけれど。


お陰様で怜銘は靴擦れも起こさず、快適に庭園を歩いている。現世に転生してからは、貴族のお嬢様ということもあり、歩くのは専ら自宅であるお屋敷の中だけだったが、この靴は足に負担がかからないので、今のところ平気だ。


頑張って他のイベント場所も、()()()()()()()()()()()()わよっ!


そう自らに気合を入れた怜銘は、庭園の奥へ奥へと歩いて行く。この辺りには街灯のようなものが殆どなく、偶にポツンポツンと明かりがあるだけだ。一応、灯篭のようなものは持って来たから、直ぐ近くは照らせているものの、遠くの方は全く見えなくて闇夜のようだ。そのぐらい明かりの届かない場所は、真っ暗であり。


ふと目をやった先に、まだもう少し先の向こうの方に、明かりがポツンとついているようで、その明かりに何かの建物のようなものが見え、もしかしてあれがそうなのでは…と、逸る気持ちを押さえられずに、怜銘が先に進もうとしたその瞬間。


 「其方に行っては、いけないっ!…昼間ならば兎も角として、こんな真っ暗な夜に行っては、ダメだっ!!」


行き成りすぐ近くで、大きな声で呼び止められた怜銘達は、辺りには誰も居ないと思い込んでいたので、怜銘はビクッと身体を震わせた。清蘭(しんらん)は恐怖で動きを止めた後、完全に腰が抜けてしまったのか、地面に座り込んでしまう。しかし涼風と蓬花の2人は、流石に護衛として選ばれただけはあって、既に怜銘を守るような体勢を取っている。


 「……驚かしたようで、ごめん。…だけど、()()()()()()()()()()()()()()()()ので、止めさせてもらった。」


そう語った人物は、怜銘達が持っている灯篭よりも、もっとずっと明るい灯篭を掲げていた。正確に説明すると、怜銘達を大声で呼び止めた人物ではなく、その人物のすぐ傍に付き従う人達が、灯篭を持っていた。だけど今の怜銘にはそういうことなど、どうでも良いことであり……


 「………皇子……さま………?」


今の怜銘にとって、自分達を呼び止めた人物の方が、ずっとずうっと…重要事項であり………。目を見張った怜銘は、無意識に口からある言葉が漏れて。


…ああ、この人だ…。やはり…目の前のこの人物は、あの人物に間違いなかった。あの頃私を玩具扱いをした、あの皇子本人なのだと……

 皇子を巡る攻略対象女性の名前が、追加されました。怜銘が覚えている人物でもあります。


今回は最後に皇子が登場したようですが。漸く『宮ラブ』主役の1人が登場です。


まだ『花の宴』は続きます。

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