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宮ラブ 〜後宮入りは、全力で阻止します!〜  作者: 無乃海
終章 初恋の行方
77/123

71。復讐を望まない英雄

 タイトル通りそのままの内容です。


意外な真相が判明する、第3弾でしょうか…。

 「皇妃が…気付いておったとは、どういうことだ…。皇妃(あれ)にはそういう、皇家の力もない筈だと言うのに…。」


誰に話し掛けるでもなく、皇帝は呟くようにして独り()ちる。彼のその言葉の羅列の中には、何故見分けられたのだろうか、どうして教えてくれなかったのか、という意味の不満が含まれている。


皇帝がそう思うのも、無理はない。皇帝と皇妃は集団お見合いで知り合い、皇帝が皇妃に一目惚れして婚姻した。夫婦になってからも皇妃にベタ惚れで、また皇妃も皇帝を愛しており、非常に仲睦まじく信頼関係もあったというのに、妻は夫に重大な真相を内密にしてきたことで、裏切られたとは思わないまでも、肝心な場面で頼られていないという想いが、強く…。


 「皇妃は生まれた流水を見て直ぐに気付き、何故か皇帝にも誰にも打ち明けぬ代わりに、ワレと交渉をした。流水が先に生まれたので、第一皇子とすると…。要するに皇妃の自らの子を、禁忌の子として育てるので、流水にも愁水にも手を出すなという提案だ。何故そのような馬鹿な提案をしたのか、今でも謎だが…。ワレにとっては、悪くない提案だ。双子の禁忌がバレれば、麓水国は本物の皇子を殺すことになるからな。ワレが()()()()()()()()()()()()()は、これ以上ないことだ。」

 「……何故、それ程に…人間を憎む?…麓水国を憎んでいるのか?」

 「…そうだ。その昔、麓水国の人間達に裏切られたのだ、ワレの最も信頼する人間が、な…。罠に嵌められ呆気なく処罰された、無実の罪で。信頼する人間は死の間際に、恨み言を言い残し死去した…。誰かを恨むような人間とは、無縁だったのに…。ワレが代わりに、復讐を誓うことにした。もう何年も…何十年何百年も長い年月を、麓水国の人間達を亡ぼす機会を、ワレは…待っていた。」

 

邪神竜と皇帝の会話との話の内容には、誰もが呆気に取られた。これほど長年に渡って壮大な罠が仕掛けられたことに、誰もが無言だ。『宮ラブ』の設定を知る怜銘も、あまりにも舞台が壮大過ぎると、思考が追いつかなくて…。


皇帝と愁水は、邪神竜の語る内容を理解していた。また今の流水は、誰の目から見てもショックを受けたように虚ろだと、分かるほどだ。皇帝は今のうちに邪神竜を退治する方法を探ろうと、積極的に邪神竜に話し掛ける一方で、そういう対策に関し思案中だ。皇帝と愁水も十分にショックを受けていても、皇族直系の祖孫である彼らは、現皇帝と次期皇帝でもある。他人に安易に心を操られることは、皇帝という指導者には成り得ないと、体現していた。皇帝となるに相応しいと言える、腹黒さをも備え。


 「…漸く、この時が来た…。 西丹(せいたん) よ、あの世から見ておるか?…お前の無念な想いを、今からワレが晴らしてやるぞっ!」

 「……西端だと?…もしかして、麓西丹のことなのか?…味方に裏切られ、この国を恨み崩御したとされる、麓西端のことか…?」

 「…そうだっ!…西端は麓水国の英雄だったのに、それを僻む他の貴族達に裏切られたのだ。そして国も…王族も、彼の言い分を信じようとはせず、更にそれだけではなく、今は…歴史上の人物としても、抹殺されておる…。」

 「……西端が、母親の違う弟に嵌められたという真実は、今は証明済みだ。但し貴族の中には相変わらず、根強く西端を厭う者もおる所為で、今まで彼の存在は伏せられてきた。そういう貴族達の先祖が義弟と組み、西端を嵌めた者だという真相は、愁水が徹底的に調べ上げたことで、漸く最近になり判明した。」


邪神竜の出した名前に、皇帝は驚く。麓西端は身分の低い側妃を母に持つが、当時の皇子の中でも一番優秀な人物で、皇帝となる可能性も最も高かったと言われている。歴史上では邪神竜が語る通り、正妃を母にする義弟に嵌められ投獄され、獄中死している。激しい鞭打ちの誅罰で…。愁水は自らも軟禁された者として、古くからの麓の()()()()()()()()()()()考慮し、その過程で偶然にも西端の史実を知り、今も彼の名誉は完全には取り戻せておらず、彼の無念を晴らそうと…。その結果、邪神竜とは異なる方法で証明したのだが…。


…麓西端、そうだった。『宮ラブ』の設定で、邪神竜に影響を与えた…とだけ記載され、正体不明の人物だったのよ…。現実でも…邪神竜に影響を与えた人物、だったのね…。実在しない人物だと思ったのに、実際には隠匿されていたなんて…。


怜銘も、()()()()()()()()()。但し、現実の世界で知り得たのではなく、過去の世界で。ゲーム設定に『邪竜に影響を与えた人物』だと、名前だけの登場で。


西端の真相を突き止めた愁水には、邪神竜も若干困惑した様子を見せる。長くクネクネの胴体をピクリとさせ、初めて動揺を見せた。今がチャンスだと愁水が動くと決意した途端、邪神竜が不意に苦しみ出し……。






    ****************************






 「…ぐっ、ぐわ~~~!!…な、何をする、流水!……お前は、ワレの作りし駒なのだぞ。ワレに攻撃しても、ワレが死ねば…間違いなく、お前の身体は跡形もなく消え失せる。この世から完全に消えるのは、怖くないのかっ!!」

 「…どうせ僕は、疾うに死んだ者だ。この世にこれ以上留まれど、僕は…何も得られない。嫌われるだけならば、全てを僕()()()()()()()()()()……」

 「…愚かだ。人間として生まれ、人間として数年間生きたことで、人間に感化されたのか…。ワレの分身でもあれど、皇子の性格の影響を受けたのか…。皇子を(もと)にしたのは、間違いだったのか…。」


邪神竜に飛び掛かり、()の者の弱点らしき尻尾を攻撃する流水に、邪神竜に反撃する予定の愁水も、邪神竜の視線を自らに向けさせ、油断を誘う皇帝も誰もが予想外という顔で、この光景を見つめる。


()()()()()()()()()()になるのに、自らを作りし生物に攻撃するとは、昔の彼からは考えられない行動だ。同様に驚き凝視する怜銘も、邪神竜に攻撃する流水が涙を流しているように、目に見えない光景を感じ取る。実体のない流水が笑ったり怒ったりしても、いくら悲しみを抱えども涙は流れず、顔が青褪めることもない筈なのに、何故か見えない光景が見えて。流水が涙を流し、号泣していると…。怜銘は自らが何も出来ないことに、不甲斐なさを感じていた。


…神様のバカっ!…私に特別な力があれど、何も出来ないという状況は、変わらないじゃない…。この状況を、どうしろと言うのよっ~~。


心の中で強く独り()ち、神様に八つ当たりしつつも、無力な自分を一番憤怒していたのかもしれない。すると、彼女の頭の中にダイレクトに、誰かの声が聞こえてきた。「…呼べっ!……を呼べっ!!」と途切れ途切れの声が聞こえた途端、彼女は何も考えぬまま無意識に、その力を行使して。


 「……麓西端、彼の魂を此処へ…。姿を現わせよ、西端っ!」

 「……えっ、怜銘っ?!」


怜銘が呪文を叫ぶようなはっきりした口調で、唐突にそう告げる。彼女の傍にいた愁水は驚き、真っ先に怜銘の名を呼ぶが…。他の者達が気付く頃には、彼女の目の前に誰かが立っていた。実際には立つのではなく、プカプカと空に浮かぶ人物だ。周りを不思議そうに見渡した後、怜銘をジッと見つめる。


 「…私を呼んだのは、其方か?…霊魂を自在に召喚する巫女という存在が、貴方なのか?…其処の邪神竜を説得させることが、目的なのか?」

 「…そうですわ。以前の私の家系は、確かに巫女の末端の家系でして、遥か昔に忘れておりました。此処での(竜の神様との)契約時に、貴方を呼ぶ時が来ると伺いましたが、()()()()()()()()()。…西端さん、宜しくお願い致しますね?」


怜銘達の目前に現れた人物は、何百年か前に崩御したとされる麓西端本人だ。当然ながら彼も実体を持たず、幽霊とほぼ同様の姿である。彼は、身体全体を光り輝く眩い姿で現れ、誰の目にもハッキリと姿が見えている。西端を呼び出したのが怜銘だと理解出来ず、誰もが呆然とした状態で…。彼女の巫女という力が、どういうものなのか判断出来ず、皇家の力と同等にしか思えなくて。


 「…了解した。元々、私が蒔いた種だからな…。私がケリをつけるのは、当然の摂理であろう。それに私も本心から、望んだ訳ではない…。」


西端は怜銘にそう告げ、クルリと向きを変えた後、邪神竜と向き合うようにして見つめる。我に返った邪神竜は、信じられないものを見るかの如く、大きな目で西端を見返す。西端と視線が絡み、ハッとしつつも目玉をキョロリと動かし、獣らしくグフっと吐息をした邪神竜は……。


 「……せ、西端…なのか?…其方は本当に、あの西端本人なのか?」

 「…竜の神様。……否、貴方は私と関わり過ぎて、私の死後に邪神竜に堕ちてしまったのだな…。死ぬ直前の生前の私は、心を病んでいた…。無実の罪で投獄されてから、ほぼ毎日鞭で罰を与えられ、身体のみならず心までもボロボロとなった。最期の瞬間、貴方に呪いの言葉を漏らしたのは、私も記憶にある…。魂だけの姿となれど、貴方の所業を知り得ても、元々唯の人間の私には伝える(すべ)もない。どうすることも出来ない状態で、唯見ている現状は辛かった…。貴方がこれ以上闇に堕ちて行く姿を、私はもう見たくない…。」

 「……西端。ワレは其方の代わりに、麓水国を滅ぼそうと決意したのに、何故にお前が辛いというのだ…。其方の悲願だったのでは、なかったのか?」

 「…邪神竜よ、それは誤った悲願だった。復讐では誰も幸せになれず、誰もが不幸せとなる。また、更なる復讐を呼ぶこともある。それよりも私は、私の子孫達が私の名誉を復活させようと行動した、その気概が嬉しい。復讐より…真相が明らかになることを、今の私は心から望んでいる。」


突然現れた過去の亡霊の登場で、邪神竜が彼の為に行う復讐は、当の本人に完全否定され、邪神竜以外の誰もが困惑する。さて、これから、これ如何(いか)に……?

 暗い話なのですが、また1人死者(?)が現れました。元々怜銘が巫女さんの家系ということで、その中でも彼女は『イタコ』と呼ばれる力を持ち、本来は自らの身体に乗り移させるようですが、彼女は霊体の存在で降臨させています。巫女さんの家系でも、偶に強く受け継ぐ者が生まれる…という設定です。



※あと1話は確実に、邪神竜の場面が続きます。ご気分が悪くならないよう、お気を付けください。

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